2022年12月16日、パ・リーグ6球団の球団職員と、パシフィックリーグマーケティング(PLM)の社員を対象とした「パ・リーグビジネススクール2022」がオンラインで開催され、約250名が参加エントリーした。
国内外のスポーツビジネスを学べる当イベントは2017年から実施。2020年6月からは、マサチューセッツ州立大学アマースト校 アイゼンバーグ マネジメントスクール内 マーク H.マコーマック スポーツマネジメント学科(The University of Massachusetts Amherst, Mark H. McCormack Department of Sport Management)(以下、UMass)とPLMがパートナーシップ契約を結び、スポーツマネジメントに関する学術的知識や、アメリカの最先端スポーツビジネスの情報も発信している。
今回のメインテーマは「ファンの新規獲得と維持」。ポストコロナのニューノーマル時代では、新規ファンと既存ファンのそれぞれに対し、どのようにアプローチするべきか。そのビジネス手法についてUMassの講師陣から講義が行われた。
ニューノーマル時代に求められること
冒頭では、スポーツ業界におけるコロナ禍の動向について説明された。ゲストスピーカーのWilliam Norton教授によると、ニューノーマル時代には、安心・安全なスポーツ観戦がより一層求められるという。そのようなファンの期待に応えるため、タッチレス技術の導入など、スタジアム内外でさまざまな施策を講じることの重要性が語られた。
理論と実例から学ぶファン獲得戦略
球場に足を運んでもらうには、ファンのニーズに合わせたサービスの提供が欠かせない。
前半の講義では、スポーツマネジメントの理論を基にファンの心理と行動が解説され、その理論を適用した事例として、ボストン・レッドソックスの特典プログラムや、ヒューストン・アストロズが実施したチケットのサブスクリプションサービスが取り上げられた。
また、若年層のファン獲得を目的とした取り組みも紹介。音楽やグルメを楽しめるイベントを開催し、そのイベントに参加すると、試合のチケットを割引で購入できるといったサンディエゴ・パドレスの事例から、ゲーム会社と提携し、スタジアム内にeスポーツの体験施設をつくったミネソタ・ツインズの事例まで。野球の試合以外の面でも、魅力を感じられる取り組みが効果的なようだ。
そのほか、ファンの獲得という課題に対して、オークランド・アスレチックスがとった方法も解説されるなど、理論と実例の両方からビジネス戦略を学ぶことができる内容だった。
UMass卒業生が現場のリアルな悩みに答える
最後の講義では、UMassの卒業生で、現在スポーツビジネスの現場で活躍する2名が、パ・リーグの球団職員から事前に寄せられた質問に答えた。
「メジャーリーグでは、新規ファンの獲得と、既存ファンとの関係維持をどのようにして両立しているのか?」という質問に対し、「野球そのもののファンもいれば、社交の場としてスタジアムに訪れる人もいる。人々がなぜスタジアムに集まってくるのか、その理由を分析する必要がある」と答えたのは、ニューヨーク・メッツのJon Cokorinos氏。メッツで実際に行った例も交えながら解説した。
さらに、「コロナ禍後、ファンに再びスタジアムへ来てもらうためにとった施策のうち、うまくいったものは?」と聞かれると、「来場者にアンケートをとって、コロナに関連することを聞いている。例えば、トイレの清潔感やスタッフの感染症対策など。そういった懸念事項はファンのSNSに投稿される内容にもなるので、その点を徹底すれば『このチームは自分の不安要素をしっかり対処してくれる』というような印象を抱いてもらえる」と回答。アンケートを通してファンのニーズを把握し、それに応えていくことが重要だと強調した。
NBAのミルウォーキー・バックスで働くAkash Chaudhry氏は、データの収集と活用に注力しているとのこと。「ファンの属性によって求めるサービスが異なるため、すべての人にとって、よりよい体験を提供できるように考えている」と話した。
イベントの最後に、William Norton教授は「みなさんのビジネスに役立ててもらい、日本の野球界を活気づけられればと思う」とコメント。参加者からは「マーケティングに特化した内容で、あらゆる部署で生きる内容だと感じました」「ファン理解のためのマーケティングリサーチや、若年ファンの獲得に向けた具体的アクションに落とし込みたいと思います」との声が寄せられた。
講義内容をヒントにしたビジネスが、パ・リーグ、ひいてはプロ野球界にさらなる発展をもたらすだろう。
取材・文 高橋優奈
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