昨季リリーフとして活躍を見せた投手たちが先発に挑戦する見通し
2023年シーズンは、実績あるリリーフ投手の先発転向が相次ぐ見通しとなっている。2022年の最優秀中継ぎ投手である平良海馬投手、通算105ホールド・127セーブの実績を誇る森唯斗投手、NPB復帰1年目でセットアッパーとして大活躍した藤井皓哉投手といった、所属チームのブルペンに欠かせなかった投手たちが、新たな持ち場に挑戦することになる。
リリーフと先発の双方において成功を収めるのは、決して容易なことではない。しかし、そうした壁を乗り越え、先発転向後に大きな活躍を見せた例は、過去にも少なからず存在している。今回は、2000年以降のパ・リーグにおいて、先発転向を成功させてチームの優勝に貢献した投手たちについて、詳しく紹介していきたい。
小林宏之氏
小林宏之氏は1996年のドラフト4位でプロ入り。入団から4年間は一軍定着を果たせなかったが、高卒5年目の2001年から、主にリリーフとして一軍での登板機会が増加。2002年には58試合に登板して防御率2.53、奪三振率9.26を記録し、セットアッパーとしてフル回転した。
翌2003年も中継ぎとして登板を重ねていたが、シーズン途中から先発に転向。最終的に規定投球回に到達して2桁勝利を記録すると、その後も先発として活躍。2005年にはシーズン12勝を挙げ、交流戦の初代MVPも受賞。チームの日本一にも大きく貢献を果たした。
その後も投手陣の軸として奮闘し、2007年まで3年連続で2桁勝利を記録。2008年以降は足の痙攣もあって成績を落としたが、2010年にはクローザーとして29セーブを挙げて日本一に貢献。先発・中継ぎ・抑えの全てにおいて活躍を見せた、稀有な例となっている。
攝津正氏
攝津正氏は2008年のドラフト5位で福岡ソフトバンクに入団。1年目の時点で27歳とプロ入りこそ遅かったが、ルーキーイヤーの2009年から70試合に登板し、防御率1.47と大活躍。39ホールドポイントで最優秀中継ぎと新人王のW受賞を果たし、即戦力の期待に応えた。
2年目の2010年も71試合に登板し、前年を上回る42ホールドポイントを記録。中継ぎとしてまさに圧倒的な活躍を見せていたが、2011年から先発に転向。同年には14勝を挙げて高い適正を示すと、そこから5年連続で2桁勝利を記録。3度の日本一にも大きく貢献を果たした。
とりわけ2012年に見せた投球は出色で、17勝を挙げて防御率1.91と圧巻の投球を披露。最多勝と最優秀投手(現在の最高勝率)に加えて、沢村賞の栄冠にも輝いた。最優秀中継ぎと沢村賞の双方を受賞した投手は、現在に至るまで攝津氏ただ一人となっている。
千賀滉大投手
千賀滉大投手は2010年の育成ドラフトでプロ入りし、2012年4月に支配下に昇格。同年は先発として2試合に登板したが結果を残せず、2013年にはリリーフに転向。51試合に登板して奪三振率13.58という圧倒的な数字を残し、剛速球とフォークボールを武器に活躍した。
続く2014年もリリーフを務め、故障離脱がありながら防御率1.99と安定した投球を披露。リリーフとしても高いポテンシャルを示していたが、2015年からは先発に再転向。2016年から2022年まで6年連続で2桁勝利を記録し、チームのエースへと成長を遂げた。
長いイニングを投げるようになってからも高い奪三振率は維持され、2019年から2年連続で最多奪三振のタイトルを獲得。そして、2020年には最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の投手3冠に輝いた。千賀投手も先発転向をきっかけに、才能をさらに開花させた好例といえよう。
山本由伸投手
山本由伸投手は高卒1年目の2017年に先発として5試合に登板したが、2年目の2018年にはリリーフに転向。当時からその球威は圧巻で、セットアッパーとして32ホールドを記録。自身初のオールスターにも選出されるなど、20歳の若さにして大いに存在感を示した。
2019年からは再び先発に転向し、防御率1.95で自身初タイトルとなる最優秀防御率を受賞。翌2020年にも最多奪三振のタイトルに輝くと、2021年には最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠に加え、沢村賞とリーグMVPを受賞してみせた。
2022年にはノーヒットノーランの快挙を達成しただけでなく、投手4冠、沢村賞、リーグMVPの全てを2年連続で受賞する離れ業を演じた。先発転向後の4シーズン全てで何らかの主要タイトルを獲得しており、まさに先発転向が大成功を収めた例となっている。
榎田大樹氏
榎田大樹氏は2010年のドラフト1位で阪神に入団。プロ1年目から62試合に登板し、セットアッパーとして33ホールドを挙げて即戦力の期待に応えた。続く2012年も故障がありながら48試合の登板で21ホールドを記録し、左の中継ぎとしてチームを支えた。
2013年には先発に転向して防御率3.61とまずまずの投球を見せるが、2014年以降はかつての安定感を取り戻せずに苦しんだ。しかし、2018年に埼玉西武にトレード移籍し、4年ぶりに先発再転向を果たしたことが、榎田投手にとってはひとつの転機となった。
移籍初年度は序盤から先発ローテーションに定着し、自身初の2桁勝利となる11勝をマーク。チームに不足していた左の先発として活躍し、10年ぶりのリーグ優勝にも貢献した。先発としての活躍期間は短かったものの、32歳にして新たな役割で輝きを放ってみせた。
増井浩俊投手
増井浩俊投手は入団1年目の2010年は先発として起用されたが、続く2011年にリリーフとしてブレイク。56試合に登板して34ホールド、防御率1.84、奪三振率9.73と活躍すると、2012年には73試合に登板して45ホールドを記録し、最優秀中継ぎのタイトルに輝いた。
その後もリリーフとしてフル回転の働きを見せ、2014年途中に抑えを任されてからも奮闘を続けた。2015年には39セーブ、防御率1.50、奪三振率10.65というすばらしい数字を記録し、リーグ屈指のリリーバーとしてチームのブルペンを支え続けてきた。
しかし、2016年は序盤から精彩を欠く投球が続き、シーズン途中から先発に転向。その後は抜群の安定感を示して自身初の2桁勝利を挙げ、チームの優勝と日本一にも大きく貢献した。また、先発転向の翌年に再びリリーフに戻って以前と同様の活躍を見せた点も、増井投手の特異な部分といえよう。
先発転向をきっかけに、千賀投手や山本投手のような大エースが生まれるケースも
小林氏、攝津氏、千賀投手、山本投手の4名は、先発転向後に優勝に貢献しただけでなく、4シーズン以上にわたって先発として活躍を見せた点も、チームにとっては大きなプラスとなっている。
その一方で、増井投手と榎田氏は先発としての活躍期間こそ短かったものの、ともに2桁勝利を挙げてチームの優勝に貢献したことを考えれば、やはり大きな意義のある配置転換だったと言えよう。
2023年に先発へ挑戦する投手たちの中から、今回紹介したような「成功例」は現れるだろうか。先発転向が山本投手や千賀投手のような大エースを生むケースも存在するだけに、各投手の配置転換の成否は、今後に向けても非常に大きな要素となるはずだ。
文・望月遼太
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