外野手出身の監督のうち、複数回の日本一を達成したのはたった一人だけ
監督としてNPB史上5位の通算1565勝を記録。4度のリーグ優勝、3度の日本一に導いた名将・野村克也氏は、「外野手出身に名監督なし」という持論を掲げていた。その言葉が示すとおり、指揮したチームを複数回の日本一に導いた外野手出身の監督は、長い球史においても秋山幸二氏ただ一人となっている。
その一方で、近年のパ・リーグにおいてはその傾向にも変化がみられる。今回は、直近15シーズンにおけるパ・リーグの優勝監督と、Aクラス入りを果たした監督の顔ぶれや、現役時代のポジションをもとに、外野手出身の監督について掘り下げていきたい。
複数回の優勝を経験した監督を2名輩出した唯一のポジションは……
直近15年間のパ・リーグにおける優勝監督の顔ぶれと、現役時代のポジション別の優勝回数は下記の通りとなっている。
ポジション別の優勝回数としては、投手と外野手がそれぞれ最多タイとなった。いずれも全体の1/3に及ぶ割合を占めており、近年においては監督として結果を残す人材を輩出してきたポジションといえる。
優勝回数ではなく人数に目を向けると、投手が3人、捕手と外野手が2人、内野手が1人となっている。突出した数字を残したポジションはなかったものの、直近15シーズンで優勝を経験した内野手出身の監督は辻発彦氏のみと、やや意外な結果となった。
複数回の優勝を経験した人物としては、秋山幸二氏、工藤公康氏、中嶋聡監督、辻氏、栗山英樹氏の5名が挙げられる。直近15年のパ・リーグにおいて、優勝を複数回経験した監督を2名以上輩出したポジションは外野手のみ、という点は興味深いところだ。
西武黄金期を支えたメンバーは、ポジションを問わずに監督として実績を残した
それでは、条件を「優勝」から「Aクラス」に変更した場合はどうだろうか。直近15シーズンの結果は、下記の通りとなっている。
最も多いのが投手の13回で、外野手はそれに次ぐ12回。そして捕手と内野手が10回ずつと、こちらにおいても外野手出身の監督が、一定以上の割合を占める結果となった。
人数に目を向けると、優勝回数では最も少なかった内野手出身の監督が、一転して最も多い数字を記録。それ以外の3ポジションは、いずれも全く同じ数字となった。特定のポジションに人数が偏ることがないという傾向は、現役時代のポジションによる有利・不利の度合いが減少していることを示すものでもあるだろう。
Aクラス入りの回数では工藤氏の6回が最も多く、それに次ぐ5回を渡辺久信氏、秋山氏、辻氏、栗山氏の4名が記録。直近15年では唯一となる2球団でのAクラス入りを果たした梨田昌孝氏を含め、長期間にわたって一定以上の成績を残した指導者は、投手、捕手、内野手、外野手の全ポジションにおいて存在していた。
また、工藤氏、渡辺氏、辻氏、秋山氏といった、80~90年代の西武黄金期を支えたメンバーが、監督としても実績を挙げている。この4名はいずれも6シーズン以上監督として指揮を執り、チームがAクラスを逃したのはそれぞれ1度のみ。伊東勤氏も2007年以前を含めれば6度のAクラス入りを果たしており、各ポジションで「元ライオンズ」の面々が手腕を発揮していることがわかる。
5度のAクラス入りを果たし、育成にも手腕を発揮した外野手出身の2監督
ここからは、外野手出身の監督として結果を残した2名の人物を掘り下げていきたい。
秋山氏は2008年に最下位に沈んだ福岡ソフトバンクの監督に就任し、翌年には3位、2年後にはリーグ優勝と、短期間でチームを立て直した。その後も積極的な補強によってチーム力を高めていき、在任期間中に3度のリーグ優勝、2度の日本一を達成してみせた。
また、秋山監督は補強だけに甘んじることなく、柳田悠岐選手、松田宣浩選手、今宮健太選手、中村晃選手といった、生え抜きの主力選手たちの育成にも尽力。コアメンバーの形成に成功し、黄金時代につながる礎を築いたという点でも、その功績は大きいといえよう。
栗山氏は2012年から2021年まで10年間という、近年のNPBでは類を見ないレベルの長期政権を築いた。その育成面での手腕は特筆もので、大谷翔平選手、有原航平投手、西川遥輝選手、近藤健介選手、中島卓也選手といった多くの選手たちを見出し、ブレイクへと導いてきた。
育成における成果のみならず、5度のAクラス、2度のリーグ優勝・1度の日本一と、チーム成績の面でも長期間にわたって手腕を発揮。在任期間中に主力選手の移籍を幾度となく経験し、FAでの補強も限定的という状況ながら、現有戦力を巧みに活かして結果を残した。
もちろん、リーグ優勝やAクラス入りを果たせるか否かは、監督の手腕のみならず、当時のチームの戦力などの要素にも左右される部分がある。しかし、現在のパ・リーグにおいて、外野手出身の監督が一定以上の成果を上げていることも確かだ。
監督として1000勝以上を経験した外野手出身の監督は1名だけだが……
監督として1000勝以上を経験した13名のうち、現役時代の主なポジションが外野手だったのは別当薫氏のみ。その別当氏も監督としてのリーグ優勝は一度も経験しておらず、若手の才能を見抜く眼力や、チームの土台作りにおいて手腕を発揮した指導者といえる存在だった。先述した野村氏の言葉は、こうした過去の事例に基づいたものとも考えられる。
しかし、近年のNPBはデータ分析が進んでいるため、選手が守るポジションにかかわらず、一つ一つのプレーに対して詳細な分析が行われるようになっている。もちろん、バッテリーとの物理的な距離が最も遠く、打者との駆け引きや細かい機微からも離れた位置を取らざるを得ない外野手も、今やその例外ではない。
すなわち、指揮官自身がデータをうまく生かすというだけでなく、選手たちに対して有用なデータを取捨選択し、適切に伝えることで成績を向上させる一助とすることが、監督のみならず、現代の指導者にとっては必要な要素となっている、とも考えられる。
在任期間中に多くの主力選手を育成した秋山氏と栗山氏は、そうした観点からも実績を残した指導者といえる。監督に求められる要素自体が変遷を続ける中で、今後も新たな監督像に適合した人物が現れる可能性は決して低くないはずだ。
外野手出身の監督が活躍を見せる、現在のパ・リーグの潮流は今後も継続するか
そして、西武出身の監督が全てのポジションに存在し、いずれも一定以上の成果を挙げた点も見逃せない。こうした事実からも、現役時代のポジション以上に、現役時代にプレーしていた環境そのものや、現代野球への適応がより重要となっていることがうかがえよう。
秋山氏や栗山氏のような指導者が今後も台頭し、やがては「外野手出身の名監督」と呼ばれる存在が出てくるかどうか。外野手出身の監督が結果を残している近年のパ・リーグにおける潮流が今後も継続するのか否かに、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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