甲斐キャノンを脅かす強肩はいたのか? 2塁盗塁阻止タイム(ポップタイム)TOP5

パ・リーグインサイト キビタキビオ

千葉ロッテマリーンズ・松川虎生選手(C)パーソル パ・リーグTV
千葉ロッテマリーンズ・松川虎生選手(C)パーソル パ・リーグTV

2塁盗塁を阻止する最後の決め手、捕手のポップタイムを計測

 投球モーションが起きるやいなや、一塁走者がスタートを切る。

 投球がミットに収まると、捕手は矢のような送球をする。

 2塁ベースは盗まれるか? 阻まれるか?

 一連の動作をすべて合わせても、わずか3秒少々で結果が出てしまう2塁盗塁というプレー。近年では、投手のクイックモーションのタイムが取り沙汰される機会が増えたが、最終的に決め手となるのは、やはり捕手からの2塁送球である。

 現在のパ・リーグでは、2017年の日本シリーズで相手の広島東洋カープが仕掛けたすべての盗塁をアウトにしてMVP(最高殊勲選手)を獲得して以来、2塁盗塁阻止の送球については甲斐拓也選手(福岡ソフトバンク)が主役であり続けている。

 果たして、今シーズンはどうだったであろうか?

 3月25日の開幕から10月2日の最終戦まで、フルシーズンを対象にした2022年TOP5を紹介していこう。

2塁送球も高卒新人離れだった松川虎生選手(千葉ロッテ)

 最初に登場するのは、千葉ロッテの新人にして佐々木朗希投手とバッテリーを組み、4月10日には完全試合達成をアシストした松川虎生選手だ。

 昨年の今頃は市立和歌山高校の有望選手としてドラフト会議を待ちわびていた松川選手。その半年後にも満たない3月25日には高卒新人として異例の開幕スタメンを果たし、最終的にシーズンを通して一軍でプレーした。

 その背景には、プロの一軍レベルとして遜色のないフィジカル能力が備わっていたところが大きい。2塁盗塁阻止タイムにも、それが現れた格好だ。

 1秒83のタイムは、リーグ5位となったことからもわかるように、プロの一軍レベルどころかトップレベルの水準である。しかも、2塁ベース直上にコントロールされた完璧な送球には、明るい未来しかみえてこない。

ランキングの常連になってきた森友哉選手(埼玉西武)

 続いては、最近はすっかりランキングの常連になった森友哉選手(埼玉西武)。1秒82というタイムで4位に入った。

 5位の松川選手が1秒83ということで、その差はわずか0秒01だったが勝ちは勝ち。“ぽっちゃり系捕手”の先輩として面目を保つことができた格好だ。

 このランキングに登場するたびに念押ししているかもしれないが、森選手は2019年に首位打者を獲得したバッティングの素晴らしさもさることながら、捕手としても高い水準に達しつつある。昨年のこのランキングでは1秒78という、今回を上回る2塁走塁阻止タイムを記録している。

 今回1秒82を出したプレーでは送球が少し低くなり、ショートの源田壮亮選手が2塁ベース手前でショートバンドする前に捕球。走者を追いかけるようにタッチしたためか、2塁塁審の判定はセーフになった。

だが、リクエストによって最終的にアウトが成立。森選手のギリギリの送球と、源田選手の巧みなタッチによる極限のプレーだった点も見逃せない。

3位には下積みの長い30歳の伏兵が現れた

 大変失礼ながら、意外だった。

 1秒80という好タイムで3位を記録したのは、プロ8年目の30歳・田中貴也選手(東北楽天)。2014年に育成契約で巨人に入団し、2017年に支配下選手へ。そして、2020年のシーズン終盤に金銭トレードで東北楽天へ移籍して、今年、一軍に台頭してきた。

 私的にはノーマークだったが、元々2塁送球の素早さには定評があった選手ではある。映像をみてもわかるが、体の正面の胸のすぐ前あたりのギリギリのところまで引きつけて捕球すると同時に体幹を軸にしてコンパクトに体を回して送球するフォームが美しい。

 また、投球の途中から早くも足のステップの予備動作を開始していた。こうしたひとつひとつの積み重ねにより、捕球からリリースまでの動作が大変スムーズになり、素早く送球することができる。

 プロだけでなく、全国の捕手のお手本となるようなスローイングにあっぱれ。来年もぜひ一軍でたくさんの好スローイングをみせてほしい。

打つだけじゃない。送球も一流の佐藤都志也選手(千葉ロッテ)

 5位の松川選手と同じ千葉ロッテの捕手が、松川選手を超えるタイムで2位に入ってきた。プロ3年目の佐藤都志也選手である。なんと1秒78というハイレベル。1秒80台を切ってきた。

 佐藤選手はこれまでどちらかというと「打撃の良い捕手」というイメージの方が強かった。だが、その強肩ぶりについては、知る人ぞ知る。東洋大学時代からかなりのものがあったのだ。筆者は当時の2塁送球を真横の一塁側から見たことがあるが、マウンド上のピッチャーの肩あたりを通過したと思えるほど低くて驚いた記憶が残っている。

 そのため、プロ入り後も密かに盗塁阻止に期待していただけに、「ついにここまできたな」という印象を抱いた。

番外編は未来の主力候補4選手のタイムを一挙お披露目

 栄えある1位を発表する前に、番外編として次世代の若手捕手4人のタイムを続けて紹介していこう。

 トップバッターは、松川選手と同じ新人ながら今シーズンの開幕マスクを被った東北楽天の安田悠真選手。映像のタイムは2秒00ということだが、ショートバウンドの投球を体の正面で両ヒザをついてブロッキングしてからの送球だったことを考慮すると、なかなかすごい。

 安田選手は開幕直後に新型コロナウィルス感染により一軍から離脱したあと、故障もあって再昇格までに時間がかかったが、すでに一軍級としていい選手。来年以降、真価を発揮するものと期待している。

 続いては、植田将太選手(千葉ロッテ)の1秒90というタイム。ただし、このときも安田選手ほど完全に止めにいった体勢ではないが、ショートバウンドの投球を処理してからの送球のため、多少なりともタイムロスはあったと思われる。

 むしろ、ショートバウンドとは思えないくらい、逆シングルから上手く捕球して送球につなげており、捕手としての身のこなしの秀逸さを感じさせる。

 前述したとおり、現在、千葉ロッテの一軍捕手陣は層が厚いが、ファームで実戦経験を積んで、ぜひ上に殴り込みをかけてほしい。

 次は、北海道日本ハムで期待されている田宮裕涼選手。真上から投げ下ろすような力強いスローイングが特徴だ。

 タイムも1秒89と堂々1秒80台を記録。すでに一軍でのプレーも経験しており、来年以降はシーズンを通して一軍定着を狙ってもらいたい。

 番外編最後は、福岡ソフトバンクの石塚綜一郎選手。育成選手ながら1秒82という一軍顔負けのポップタイムには驚かされる。

 今年3年目のため、育成契約としては区切りとなるが、とても底を見せたとは思えない。再契約を果たして、来年支配下契約を獲得してほしい。

まだまだ「あの男」の強肩は健在だった

 長らくお待たせした1位は誰か? やはり、真打ちは“甲斐キャノン”。そのタイムは1秒77だった。

 安定の1秒70台を継続している点はリスペクトしかない。単に盗塁を防ぐだけではなく、福岡ソフトバンクの投手陣が「後顧の憂い」なく打者との勝負に専念できる環境を作るという点においても、貢献度は大きい。

 ただ、気になることがないわけではない。

 この1秒77を記録した送球は、映像を見てもわかるようにやや一塁側へ逸れていたのだ。

 甲斐選手の2塁送球といえば、「捕ってから投げるまでが素早い」、「送球も強くて高速」、さらに「2塁ベースのすぐ上あたりのタッチしやすいところへ投げられる制球力がある」の三拍子が土台になっていたはず。それが少し揺らいできたのか。

 実際、タイムにしてもトップは死守しているが、他球団の捕手が全体的にレベルアップしてきており、徐々に迫られつつある。

 プロの世界は競争なので仕方のない流れだが、甲斐選手はまだ衰えを口にする年齢ではない。ここからもうひとつ高いレベルにジャンプアップして、さらなる領域を目指してほしい。

 そして、それに引っ張られて他球団の捕手も軒並み1秒70代に入ってきたら、今よりもっとワクワクするというもの。

 来年はそんな混戦になることを望むことを総括とさせてもらい、この記事を締めることにしよう。

文・キビタキビオ

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パ・リーグインサイト キビタキビオ

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