楽天が球団創設初の栄誉に浴してから、5年が経った。昨季の快進撃から、今季は2度目の頂点を期待する声もあっただけに、今季のここまでのチーム成績はファン、選手とも本意ではない。嶋選手も現状に対する失望を隠すことはなかったが、瞳には力強さを携えたままでいる。「このままじゃ終われない」。言葉にするまでもなく、勝利への渇望がにじんでいた。
努力を結果に変えなければならないのが、勝負の世界の常
昨季、楽天は好スタートを切り、序盤は首位を独走した。後半戦は不振に陥ったものの、3位で進出したクライマックスシリーズ(CS)を粘り強く戦い、優勝した福岡ソフトバンクを一時は追い詰めてみせた。
日本シリーズ進出まであと一歩という健闘を目にした多くのファンは、初の日本一に輝いた2013年を思い出したに違いない。特に投打が噛み合い勝利を重ねた序盤は、まさにあのシーズンのチームを想起させるに十分な戦いぶりだった。
嶋選手は言う。
「確かに、勝つことで日に日にチームの一体感が増していくあの雰囲気は、2013年と同じでした。ただ、あのシーズンは全てがうまくいった結果だったという思いがあります。
エースの田中(将大)の開幕24連勝という記録があって、AJ(アンドリュー・ジョーンズ)と(ケーシー・)マギーというリーダーシップでも、結果でも、チームを引っ張ってくれる外国人選手がいました。彼らに頼ってしまった部分はありました。僕も含めた日本人選手も彼らのような成績を残してこそ、本当に強い、いつもAクラスにいることができるチーム。そういうチームを目指さないといけないという気持ちが強いんです。」
2013年はファンに最高の結果を見せることができたシーズンだったが、嶋選手にとってはより高い目標を突きつけられたシーズンでもあった。
「昨季も、(カルロス・)ペゲーロ、(ゼラス・)ウィーラー、(ジャフェット・)アマダーが20本以上の本塁打を打ってくれて、加えて何人かの若い日本人選手も頑張ったことであそこまでいくことができました。でも、本当に強いチームになるためには、自分も含めて、足りないものがあります。まだまだ努力が必要だと。そういう思いはありました。」
今季の楽天イーグルスは、昨季から一転、苦戦を強いられている。ただ、キャンプ、オープン戦までのチームは大きなケガ人も出ず、上々の雰囲気の中で順調に準備を続けてきているように見えた。そんな感想に対し嶋選手が答える。
「僕らはプロなので、すべての努力は球場での結果にしてみせないといけない。結果にできなければ、ファンの皆さんに認めてもらうことはできません。
でも、昨季は最後非常に悔しい負け方をして、今年は優勝するぞ、CSを勝ち上がるぞというという思いで、一人ひとりが意識を高く持って練習してきましたし、シーズンに入った今もそれは同じだと思います。なかなか調子が上がらず苦しい状況ではありますが、努力を積み重ねていかずに結果が出ることはない。いつか結果が出ると信じて続けていくしかないと思っています。」
勝つことで一丸となり、ファンの声援に応えたい
リーダーとして、この苦しい状況でいかにしてチームに前を向かせるか。リーダーシップの難しさを改めて痛感し、苦心の日々が続く。
「高校生なら甲子園に出よう、大学生なら(大学)選手権に出ようという目標を掲げて、一つになることができます。選手一人ひとりの立場はほぼ同じですから。プロ野球にも優勝という共通の目標はありますが、選手の立場はアマチュアに比べばらつきがあります。
極端な例を挙げると、育成選手であれば当面の目標は支配下登録ですよね。『優勝しよう!』という言葉が、それを越えて心の深くに響くことはないと思うんです。」
嶋選手は続ける。
「心から思うのは、チームがひとつになるには勝つしかないんだということ。選手やコーチ、スタッフの間でどんなにいい関係が築けていても、負けはじめるとどうしても一体感は失われていく。それはもう勝手に、といってもいい。本当に不思議なんですけど。」
勝利が絶対的な価値を持つ世界。勝つしかない世界。それがプロ野球の世界だ。楽天イーグルスと嶋選手はそこでもがいている。
「だからこそ、ファンの方々の声はありがたい。負けていてくじけそうになったときでも、僕ら以上に勝利を信じて『最後まで絶対に応援する』と言っていただけるのは嬉しいし、本当に力になるんです。」
真剣な表情で話していた嶋選手が、撮影用のグラスを見て、少しだけ表情を崩した。
「シーズンの最後には、勝利の美酒としてファンの皆さんと大好きなプレモルで乾杯したいですね。」
嶋選手は絶対にあきらめない。
(前編)「上に立つものは、誰とでも分け隔てなく話せないといけない」
(中編)「すぐ熱くなるし、入り込みすぎてしまうのが本来の自分」
嶋選手プロフィール
嶋 基宏(しま もとひろ)/捕手
1984年12月13日生まれ。33歳。岐阜県出身。179センチ82キロ。右投右打。
小学生時に投手として野球を始め、中学では軟式野球部の全国大会出場を経験。中京大中京高校3年春には二塁手でセンバツ出場を果たした。国学院大学で捕手へ転向し、3年時に東都大学野球春季リーグ戦で首位打者を獲得する。2006年大学生・社会人ドラフト3巡目指名で楽天イーグルスに入団し、翌07年に開幕一軍入りを果たすと3月28日(福岡ソフトバンク戦)のデビュー戦で初安打を放った。10年と球団創設初の日本一に貢献した13年にベストナインとゴールデングラブ賞を同時受賞し、オールスターには通算で8度選出されている。
【通算成績】1281試合 864安打 23本塁打 284打点 打率.244 長打率.301 出塁率.329
※成績は6月8日現在
提供:サントリービール
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