単なるプロモーションにあらず。 パ・リーグが台湾でプロモーションを行うワケ

パ・リーグ インサイト

2018.6.4(月) 13:30

今年は「球場」で行われたパ・リーグのプロモーション

マスコットがファンと触れ合い、チアが踊り、7回にはジェット風船が舞う。リーグトップレベルの選手たちから中国語も交えたメッセージが大型ビジョンで放映され、日本語での場内アナウンスも場内に響き渡る。この描写は、パ・リーグ各球団が参加し、5月11日~13日に台湾・桃園で行われた台湾プロ野球(以下CPBL)Lamigoモンキーズの試合イベント「YOKOSO桃猿」での様子だ。

1試合あたりの平均観客動員が約6,000人と言われるCPBLにおいて、イベント3日間の動員は合計約30,000人で、1試合平均では約10,000人。3日間ともにCPBLの曜日ごとの平均観客動員を超え、「日本のプロ野球」が台湾のプロ野球ファンに対して持つ、魅力の高さを示している。

もちろん試合自体がメインディッシュであることには間違いないが、さまざまな日本プロ野球にまつわるコンテンツを絡めることで、観戦しているファン、そしてそれをTVやインターネットで視聴しているファンには少なからず、「日職(日本プロ野球)」、あるいは「太平洋聯盟」という言葉や印象が脳裏に焼き付いたはずだ。

「マス」からよりターゲットを絞った施策へ

パ・リーグ6球団とパシフィックリーグマーケティング(以下PLM)は2015年から2017年まで、台北で行われる「台北國際觀光博覽會」という旅行博覧会に参加し、「旅行」に興味のある約280,000人との接点を求めていた。いわゆる「インバウンド」施策の一環である。

ホテルや電鉄会社、あるいは地方自治体などが多種多様な工夫を凝らして潜在顧客へアピールする中、「プロ野球」の存在は大ホールの中でも極めて異質の際立ちとなっており、数量限定のグッズ配布やクイズ大会に際してブース訪問に長蛇の列が発生。周辺のブースから「何事か」と様子を見に来られることも多々あった。実際、運営側からも毎年、彼ら彼女らにとって魅力的な出展団体ということもあり、参加の伺いがPLMにも届くという。

その一方で、「マス」に対しての訴求の限界もあり、今年はより「野球に興味がある人々」に対してのプロモーションを強められないかという検討が入り、そしてLamigo側からのオファーもあり、海外の野球場での本格的なプロモーション実施となった。パ・リーグはFOXスポーツ台湾にて年間260試合以上配信されており、少しでもその価値を向上させるためにも、「野球ファン」に対する今まで以上の訴求はマストであった。

今回のイベントでは、該当期間にホームゲームのない北海道日本ハム、楽天イーグルス、千葉ロッテがマスコットをそれぞれ派遣。北海道日本ハムは2・3月に行われた交流試合の一環として、ファイターズガール4名を派遣した。さらにジェット風船合計15,000個を3日間先着5,000名に配布し、パ・リーグ各球場の見どころ紹介ガイドの配布、FOXスポーツ台湾協力による選手のパネル設置なども行われた。

またLamigo側も、イベントに合わせてお好み焼きや卵焼き、カレーライスなど、日本風の食事が楽しめる多くの屋台を球場前に設置。場内への日本語アナウンスも、元千葉ロッテ・カンパイガールズで現在はLamiGirlsにスポット参戦する今井さやかさんや、千葉ロッテ・李杜軒選手の妹で同じくLamiGirls・亞璇さんが堪能な日本語力を生かして担当するなど、「日本テイスト」を出すためにさまざまな要素を盛り込んだ。3日目には台湾人の江宏傑選手を夫に持つ卓球・福原愛選手を始球式に起用し、まさにブーストをかける勢いでイベントのプロモーションを行った。

新鮮だったファンの反応

現地のファンからしてみれば、普段はFOXスポーツ台湾などのテレビ放送、あるいはパ・リーグTVのネット中継を通じてしか知ることのできない、実際に日本に行かないと目にすることができないものを、五感を通じて触れ合える貴重な機会。「日本プロ野球」というコンテンツに対する台湾における野球ファンの興味度合いは、先述の通り、観客動員に表れている。

実際にイベントに同行した楽天イーグルス・木村沙織氏は、「ジェット風船を飛ばしたり、タオルを回したり、日本の野球では当たり前にしている演出に新鮮そうに参加してくれている姿が印象的だった」と、台湾ファンの反応を率直に語る。「謎の魚」を上陸させた千葉ロッテ・小林博一氏は「他球団含めマスコットに対してここまで台湾の方に関心を持ってもらえるとは思っていませんでした」と驚きを隠さない。

特に「謎の魚」については「想定外にストレートに可愛いという反応が多かったところに驚いた」(小林氏)との通り、台湾メディアから直接インタビュー取材を受けるなど注目が非常に高かった。日本のファンからの視線とは異なる視線を感じることで、自分たちのコンテンツをいつもと異なる角度から見ることができる機会となったようだ。

また北海道日本ハムの鈴木祥平氏は「写真撮影会などもとても熱量が高いと感じた。(ラミゴはイベントを多数実施しているため)野球そのものへの関心が高いだけではなく、エンターテイメントコンテンツとして来場されている方が多いのではないかと感じた」と振り返る。

日本語と中国語(繁体字)。漢字を使うという共通点はありながらも、言葉の壁があることには違いない。ただ、各スタッフが感じたのはまさに、「言葉の壁を超えて楽しんでもらえた」ということ。千葉ロッテ・奈良林希氏の「見た目のインパクトと、奇抜なパフォーマンスで視覚的に楽しんでいただけるよう心掛けた」に、その意図がこめられている。クラッチをアテンドした楽天イーグルス・木村氏は「日本に来る機会がない方々もいたので、写真を撮ったり少しでも触ってもらえたりできるよう、いつもよりハイタッチを増やした」と、取り組みの裏側を披露してくれている。

北海道日本ハム・鈴木氏も、マスコットであるフレップについては「自分で情報収集できる大人よりもお子様へアプローチすることにより、今後長いスパンで考えたときに、より有益ではないかと感じ、お子様へのアプローチを増やした」と活動を振り返る。

言葉の壁を超えて「ノウハウを共有する」

また楽天イーグルス・木村氏は「応援ステージの使い方、応援の盛り上げ方、応援歌の振付など得るものが多かった。応援団の方とお話しする機会を設けていただけたので気になったことをたくさん聞くことができた」と収穫を語る。

「日本とは違う応援スタイル・ファンの反応・スタジアムの雰囲気を感じたことにより、参加したメンバーのモチベーションの向上、ひいては帰国後にメンバー間での情報共有を通じてファイターズガール全体の意識向上に繋がった」と語るのは北海道日本ハムの尾暮沙織氏。「活動中における技術や意識、表情、動きの見せ方など、具体的なスキルを含めラミガールズさんから学ぶことがとても多く、とても勉強になった3日間だった」と振り返る。

ビジネス分野では日本の球界がさまざまな面で進んでおり、LamigoGM補佐である浦韋青氏も「私たちより先を行く日本プロ野球の方々と交流させていただくことで、貴重な経験を積むことができている」という。しかし、現場でのコンテンツの見せ方においては何事にも「正解」はなく、さまざまな選択肢を持っている方がはるかによい。今回のような「相互のノウハウ共有」ができる現場交流も大事な側面であり、浦氏は「マスコットキャラクターのパフォーマンスはきめ細やかに考えられており、ファンを魅了するダンスパフォーマンスをするチアの皆さんのプロ意識は私たちが学ぶべき点」と分析している。

さらに言えば、ファンもさまざまな交流を通じ、球団が生み出すコンテンツの良し悪しに対してのさまざまな視点や意見を持ってよい。それは、ファンが球団に求めるサービス水準、あるいはコンテンツの質向上につながる。いわゆる「目の肥えたファン」を増やすことは、野球界のみならずスポーツ界全体にとって、スポーツ観戦が単なる消費財としてのエンターテインメントでなく、文化として今まで以上に定着していくために必要なことでもある。

単なるプロモーションにとどまらない「交流」

日本プロ野球は競技としての実力も、(球団単体での)ビジネスとしての実力も、実質アジアNo.1のプロ野球といって言い。しかしながら全球団一括のリーグビジネスなど、未開拓の部分も多くある。ただ先進的な取り組みを進めるMLBから学ぶ成功事例も多岐にわたる一方で、「相互」と言えるほどの交流はないとされる。

また、日本球界と近しい競技レベルを持つ韓国球界もすぐそばにあるものの、球団間で相互に視察することはある一方、政治的な部分での摩擦や、2016年を最後に日本プロ野球における韓国人選手がゼロになったことで、ファンにコンテンツを届けるという観点にある、放映権やプロモーションという領域にはつながっていない状況だ。

海外から学び、逆に海外へノウハウを共有する。台湾には親日家が多いとされていることもプラスに作用していることが大きいだろうが、相互に学ぶ姿勢がないと成立しないものが、台湾では成立する。球界全体のみならず、日本のスポーツ界にとって大事な、現場での「学びの機会」。単なるプロモーションにとどまらないモノ、機会、そしてワケは、相互にリスペクトがあるからこそ成り立つ、南国にある。

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