エース級の投手を相次いでノックアウト
リーグ最速で30勝に到達し、首位に浮上した福岡ソフトバンクの打線が好調だ。象徴的だったのが5月3日からの7連勝の期間中、山本由伸投手、石川歩投手、エンニー・ロメロ投手といった、登板時点で防御率1点台以下だった投手を相次いでノックアウト。リーグトップの打率を誇る打撃陣が、遺憾なくその実力を発揮した1週間だった。
しかし、今季の野手陣が全てにおいて順風満帆だったわけではない。開幕から絶好調だった栗原陵矢選手は、わずか5試合で大怪我を負って戦線離脱。また、MLBでの実績から期待の大きかったフレディ・ガルビス選手と、経験豊富な松田宣浩選手も、揃って打率1割台と不振に陥っている。
そうした事態に見舞われながら打線が好調を維持している理由は、いったいどこにあるのだろうか。今回は、リーグ随一の破壊力を誇るホークス打線について、より深く掘り下げていきたい。(※成績は全て、5月31日の試合終了時点)
堅実な作戦も絡めて、出塁率の高さを得点に結び付けている
まずは、福岡ソフトバンクが記録している2022年のチーム打撃成績を見ていきたい。
打率は2位の北海道日本ハムに約.030、安打数は2位の北海道日本ハムに44本の差をつけて、それぞれリーグトップ。四球の多さも伴い出塁率も堂々のリーグトップだ。塁上をにぎわせるケースの多さが、リーグ最多の得点数にもつながっている。
その一方で、本塁打数はリーグ3位。2021年に21本塁打を記録し、今季も開幕5試合で2本塁打を放っていた栗原選手の離脱は、特に長打力の面で大きく響いている。そして、昨季はリーグ2位の92盗塁を記録した盗塁数も現在は同4位と、機動力を使った攻めも自重気味だ。
そんな中で、犠打数がリーグトップの数字となっている点は特徴的だ。チーム全体の出塁率が高いだけに、無死から出した走者を堅実に得点圏に進めていることが、以前ほどの機動力がなくとも、高い得点力を発揮できている理由の一つであろう。
三森選手の成長と牧原大選手の復活で、1・2番が固まる
次に、開幕からここまでの打線の主な顔ぶれを見ていきたい。
昨季途中からトップバッターを務める機会が増えていた三森大貴選手が、今季は完全に1番打者に定着。これまでは選球眼と長打力を課題としていたが、今季は46試合で19四球を選ぶなど、出塁率も大きく向上。昨季までの5年間で0本だった本塁打も今季だけで既に6本記録している。5月は疲れが出てきたのか月間打率.204と成績を落としているが、ファーム時代にもお世話になっていた藤本監督に報いたいところだ。
その後ろを打つ2番には、ガルビス選手の不振もあって三塁手での出場が増加した牧原大成選手が入るように。打率.317とブレイクを果たした2018年以降は打撃面で苦戦が続いていたが、昨季は打率.278を記録。今季もその復調傾向が維持されており、再びレギュラーの座を手中に収めつつある。
3番の柳田悠岐選手は一時期故障で戦線を離れており、4番のジュリスベル・グラシアル選手は長期離脱からの復帰シーズン。そういった事情もあり、本来の実力を考えればやや物足りない成績ではある。それでも、柳田選手は35試合で7本塁打を放ち、グラシアル選手も打率.280を記録。ここから2人がさらに状態を上げれば、より打線の破壊力も増しそうだ。
実績ある選手たちの復活もあり、打線の厚みはリーグ随一に
さらに、昨季は不振だった中村晃選手と今宮健太選手が復活。抜群の選球眼と粘り強い打撃が武器の中村晃選手と、一発長打の魅力もある積極的な打撃が特徴の今宮選手。それぞれ持ち味は大きく異なるものの、実績ある選手たちの復調は頼もしい限りだ。
それに加えて、今季はプロ3年目の柳町達選手が出色の高打率を残し、昨季途中にトレード加入した中谷将大選手も、5月6日の9回に放った起死回生の同点2ランをはじめ、存在感を発揮。外野では新たな戦力の台頭が続いており、栗原選手や右アキレス腱断裂で離脱の上林誠知選手の穴を最小限にとどめている。
正捕手の甲斐選手は打率1割台と不振だが、リーグトップの18犠打と上位打線につなぐ役割は全う。さらに、5月の月間打率.291と、ここに来て状態を上げつつある。甲斐選手がこのまま好調を維持して打撃成績を向上させれば、ますます隙のない打線となりうる。
期待の若手、2年前の盗塁王……さらなる上積みをもたらしうる選手たち
現時点ではまさに盤石といえる状態のホークス打線だが、長いシーズンにおいては、特定の選手が調子を落としたり、故障で戦線を離脱する可能性もある。しかし、仮に不測の事態が生じたとしても、その穴埋めを期待できる存在が複数控えているという点も、長年にわたって巨大戦力をマネジメントしてきたホークスならではの強みと言えよう。
そして、2020年の盗塁王・周東佑京選手も長いリハビリを乗り越え、5月25日に一軍復帰。先述の通り、今季のチーム盗塁数は以前に比べて減少傾向にある。それだけに、試合終盤の代走としての実績も抜群な韋駄天が復帰を果たせば、チームにとっては攻めの幅を広げることにもつながりそうだ。
また、序盤戦に不振に陥った松田選手も、復調すればチームにとって上積みとなりうる存在だ。直近2年間はいずれもOPS.600台と苦しんでいるが、2013年から2021年まで、9年連続で2桁本塁打を継続中。現状のチームに不足する長打力を補える存在でもあるだけに、中村晃選手や今宮選手の復活に続いてほしいところだ。
2003年に記録された「チーム打率.297」に、どこまで肉薄できるか
三森選手や柳町選手のような若手の台頭と、中村晃選手、今宮選手といった、黄金時代のチームを支えてきた選手の復調。昨季は故障者続出で苦しいシーズンを送ったホークスだが、今季は就任1年目の藤本監督のもと、若手、中堅、ベテランのそれぞれが噛み合った戦いぶりを見せている。
NPBにおけるチーム打率の最高記録は、2003年に日本一に輝いたホークスが記録した.297という数字だ。今季の打線がその水準に近づけば、当然ながら2年ぶりのリーグ優勝もぐっと近づいてくる。
また、好調の若手や復活が期待される実力者も複数控えているだけに、野手陣のさらなる上積みも期待できるところも楽しみな点だ。現在のリーグを席巻している「つながる打線」が見せる畳みかける攻撃に、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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