開幕から一番打者に定着し、苦しい戦いが続くチームをけん引している
ついに一軍の舞台で本来の実力を発揮し、開幕から苦しい戦いが続くチームにおける希望の光となりつつある。千葉ロッテの高部瑛斗選手が開幕から一番に定着し、盗塁数がリーグ1位タイ、安打数が同2位と、好成績を残して存在感を発揮している。
2021年に全試合で1番打者を務めた荻野貴司選手が開幕から5月26日まで不在だったという事態は、当然ながらチームにとって大きな痛手となった。しかし、24歳の高部選手がそれによって生じたチャンスを生かして躍動を続けている点は、中長期的にはチームにとって大きなプラスをもたらす可能性もある。
今回は、そんな高部選手が持つ独特のバッティングスタイルを紹介。「各種指標」「ヒットコース」「コース別打率」「球種別打率」といった要素から、若き切り込み隊長のことをより深く掘り下げていきたい。(成績は5月27日時点)
過去2年間は一軍の壁に苦しめられたが、今年はついに本領を発揮しつつある
高部選手が記録してきた、年度別成績は下記の通り。
高部選手は東海大甲府高校から国士舘大学を経て、2019年のドラフト3位でプロ入り。1年目はシーズン開始前の練習試合でケガを負った影響もあり、主に二軍で研鑽を積むシーズンに。二軍では同僚の加藤翔平選手(現・中日)とシーズン最終戦まで首位打者を争う活躍を見せ、優れた打撃センスの一端を示した。
翌2021年には一軍での出場機会も増加し、4月24日にはプロ初本塁打も記録。6月にはスタメン出場が続いた時期もあったものの、打率.145と抜擢のチャンスを生かせず。前年同様に二軍では好成績を残したものの、一軍では本来の実力を発揮できずにいた。
だが、3年目の2022年はシーズン前の実戦で結果を残し続け、オープン戦で打率.393という数字を記録して首位打者を獲得。その活躍が認められ、自身初の開幕スタメンを勝ち取ると、そのままトップバッターの座に定着した。ここまで全試合で1番打者として先発起用されており、一気に大ブレイクを果たしつつある。
二軍でも打者としての成長を示し、翌年のブレイクにつなげている
続いて、高部選手が記録した二軍での年度別成績を見ていこう。
2020年にはプロ1年目ながら打率.344という素晴らしい数字を残し、イースタンの首位打者に輝いた加藤選手との打率の差はわずか1厘だった。年間を通じた四球の数は200打席で7個のみと選球眼に課題は残したが、プロ初年度から強いインパクトを残したといえよう。
続く2021年は打率こそ前年に比べれば低下したものの、四球は24個と3倍以上に増加し、課題だった出塁率も大きく改善された。盗塁数も前年からちょうど倍増し、リーグ盗塁王のタイトルも獲得。OPSも.850と大きく数字を上げており、随所で選手としての成長を示した。こうした二軍における各種成績の向上は、翌年に一軍で台頭を果たしたことにもつながっているといえよう。
現状では選球眼が大きな課題だが……
次に、高部選手が記録してきた年度別の各種指標を見ていきたい。
2020年と2021年は打席数こそ少なかったが、いずれも三振率が非常に高くなっていた。一軍で実績を残せなかった大きな要因の一つとして、一線級の投手たちの球へのコンタクトに苦労していた点が挙げられる。そして今季はその三振率が従来に比べて改善されており、徐々に一軍の投手たちにも適応できつつある、ということが示されている。
その一方で、四球率は2021年に比べて低下しており、四球を三振数で割って求める、選球眼を示す指標の一つである「BB/K」も、2年続けて3割代中盤と低水準。これらの数字からは、選球眼に課題を残していることがわかる。
とはいえ、高部選手は2020年の二軍成績においても同様の課題を抱えていたが、2021年には出塁率、OPSともに大きく改善を見せていた。今後、一軍でもその時と同様の成長を示すことができれば、リードオフマンとしての価値もより高まってくることだろう。
打撃の基本であるセンター返しを中心に、広角に打ち分けている
ここからは、高部選手が2022年に記録した安打の、打球方向について見ていきたい。
センターへの安打が18本と最も多く、打撃の基本とされるセンター返しを軸としていることがわかる。また、レフトと左中間方向が合計14本、ライトと右中間が同10本と、各方向にまんべんなく打ち分けられている点もポイントだ。
また、高部選手は盗塁数にも示されている通り、かなりの俊足の持ち主でもある。脚力という武器は打撃にも生かされており、内野安打が安打数全体の約20%を占めている。足で相手守備にプレッシャーをかけられる存在であることが、こうした数字にも表れている。
2度の首位打者を獲得した先輩に続く、「悪球打ち」の後継者に?
続いて、2022年に高部選手が記録しているコース別の打率を紹介しよう。
ボールゾーンも含め、高めの球に対して非常に強いことがわかる。また、内角低め、真ん中低め、そして低め真ん中のボールという低めのコースに対しても、かなりの強さを見せている点は興味深いところだ。
ボール球に対して抜群の強さを見せる選手は、「悪球打ち」と形容されることが多い。2度の首位打者獲得経験を持つベテラン・角中勝也選手は、いわゆる悪球打ちの代表格でもある。その角中選手と同様の傾向を示している高部選手が、悪球打ちの“後継者”となる可能性もありそうだ。
加えて、内角の高めと低め、そして内角のひざ元に来るボール球に対して高打率を残しており、内角攻めを苦にしない点も大きい。ストライクとボールのどちらに対しても積極的にバットを出して安打にしてしまうスタイルは、高い打撃センスの表れでもある。外角の球にやや弱い点がこれから克服されれば、さらに穴のない打者へと進化する可能性も秘めている。
8球種のうち半数に対して打率.300以上という、抜群の対応力
最後に、2022年に高部選手が記録している球種別打率を確認していきたい。
シュートとフォークを除く6球種に対して、いずれも打率.270以上を記録。また、8つの球種のうち半分にあたる、4球種に対して打率.300以上を記録している。速い球、緩い球の双方に対して優れた数字を残している点が、高部選手の非凡さを示しているといえよう。
そんな中で、フォークとシュートに対する打率の低さは課題となる。ただし、シュートは得意とするツーシームと似た変化をする球で、フォークが多く投じられる低めのボールコースは、高部選手が得意とするゾーンでもある。これらの材料を勘案すれば、この2球種に関しても、今後は打率が改善されていく可能性は大いにありそうだ。
基本に忠実な部分と、破天荒な部分を兼ね備えた独特の打撃に要注目だ
基本に忠実なセンター返しと、多くの球種に対して高打率を記録する対応力の高さは、高部選手の打撃技術を示すものでもある。その一方で、ボール球でも積極的に打ちに行ってヒットにする「悪球打ち」は、見る者の度肝を抜く魅力も備えている。基本に忠実な部分と、破天荒な部分を兼ね備えた高部選手のバッティングは、いわば独特の魅力を有しているといえよう。
現時点では安打数、盗塁数ともにリーグ上位につけているだけに、このまま好調を維持できれば、最終的には自身初タイトルに手が届く可能性も大いにあるだろう。打撃センスあふれる24歳の若武者には、今後も要注目となってきそうだ。
文・望月遼太
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