開幕前に支配下登録された佐藤奨真、武器は“遅い球”
千葉ロッテには164キロを叩きだす投手もいれば、130キロの直球で打者を翻弄する投手もいる。今季開幕前に支配下登録された2年目左腕の佐藤奨真投手は、3月31日の福岡ソフトバンク戦(ZOZOマリン)で中継ぎとして1軍デビュー。5月14日のオリックス戦(京セラドーム)ではプロ初先発し、山本由伸投手と投げ合った。黒星こそ喫したが、6回2安打1失点(自責点0)と好投した。
2020年ドラフトで専大から育成ドラフト4位で指名されると、ルーキーイヤーの昨季はイースタンリーグで17試合に登板し、チーム2位の7勝をマークした。「前半戦に打ち込まれたんですけど、後半に修正できたかなと思います。成績的にもプロでも十分やっていけるなというのは感じました」。今春のオープン戦でも好投し、開幕前に同期入団の小沼健太投手とともに支配下登録された。
入団会見では「球速が速くなくても抑えられるところを見て欲しい」と宣言した佐藤奨の持ち味はなんといっても“球の遅さ”。直球の最速は141キロで、昨年の2軍の直球の平均球速は136.1キロ。数字だけ見れば、アマ選手らと比べても遅い部類になるが、昨年は2軍で2度の完封を記録。特段回転数が高いわけでもなく、緩急と奥行きを駆使した投球で、1年で支配下登録を掴み取った。
大学時代に球速アップに取り組むも「全然速くならなくて…」
“球の遅さ”を自覚しだしたのは中学生の頃。「気が付いたら、全然球が速くなってないやって」。他のチームのエースの球速は自分よりも10キロほど速く、そこから薄々「自分の球って遅いのかな……」と思うようになった。大学進学後にはプロ入りも見据え、球速アップに取り組んだが、どうにも球速は上がらなかった。「とにかくパワーをつけたら速くなるだろうと思ったんですけど……全然速くならなくて、だったら目指さなくていいやって」。球の遅さを長所と捉え、育成選手としてプロ入りした。「スピードに関しては諦めたというか、今は(球速を上げたいという気持ちは)ほどんどないです」と苦笑いする。
投球の“間”や、腕の振り……。球速で押すことはできない分、制球やボールのキレは人一倍求められる。「タイミングをずらすことを大事にしていて、緩急もそうですけど、相手バッターのタイミングの取り方とかも観察して、そこで抑えられるようにという工夫はしています」。100キロ台のカーブ、120キロ前後のカットボールとチェンジアップを駆使する。「緩い球を投げることに怖さとかは全然ないです」。だからこそ、腕が振れ、緩急が生きる。
1軍初先発となった14日の試合は、最速164キロを誇る佐々木朗希投手が投げた翌日。“真逆”のピッチングスタイルの男がマウンドに上がった。初回に2安打を浴び1失点したが、以降は無安打。変化球でタイミングを外して、何度もバットの先に当てさせた。この日の直球の平均球速135.1キロで、最速は139キロだった。勝利とはならなかったが、1軍のマウンドで持ち味を存分に発揮した。
将来手にしたいタイトルには「沢村賞でお願いします」とニヤリ。佐々木朗の球速は「アニメみたい」と表現するが、球界全体の平均球速が年々上がっていく中で、平均球速130キロ台の軟投左腕が沢村賞に輝けば、それもまた、アニメのようだ。
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