井口資仁監督が本音を語る月連載・苦境を支える先発陣に感謝
プロ野球は開幕から1か月あまりが経ち、セ・パ両リーグで熱い盛り上がりを見せている。4月に最も大きな話題となったのは、なんといっても千葉ロッテ・佐々木朗希投手が達成した28年ぶり、史上16人目となる完全試合だろう。プロ3年目、20歳右腕の未来に広がる可能性の大きさを、感じずにはいられない投球だった。
佐々木朗の歴史的快挙にあわせ、チームも快進撃といきたいところだったが、主力の怪我や調整の遅れが相次ぎ、いまいち波に乗れず。5月2日現在、27試合を戦って11勝15敗1分けのリーグ5位。ここから勝率を5割まで上げ、24日から始まる交流戦に向けて勢いづけたいところだ。
ここまで中継ぎ陣が揃わないものの先発陣が奮起してチーム防御率1.88(5月2日現在)と好調ながら、チーム打率は2割1分3厘と低迷。また、延長戦は1勝5敗1分けと苦しい戦いが続いている。今季スローガンに「頂点を、つかむ。」という決意を掲げ、開幕前には優勝候補に推す声も多い千葉ロッテだが、チームの現状について井口資仁監督が率直な想いを語る。
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3年ぶりに行動制限のないGWがスタートし、週末にはZOZOマリンスタジアムにも数多くのファンが駆けつけてくれました。4月26日から始まったホーム6連戦は1勝3敗1分け(1試合は雨天中止)。ファンの皆さんにもっと多くの勝利を届けたいところでしたが、この成績に悔しい想いをしています。
開幕からの1か月あまりを振り返ってみると、先発陣が非常にいい働きをしてくれています。昨季まで先発投手が早期降板する試合が多く、ブルペン頼みの部分がありました。でも、今季は先発ローテに入る全員が6回以上を投げ、失点少なく抑えてくれる試合がほとんどです。ここまでチームの勝利数が伸びないながら、なんとか凌いでいるのは先発陣のおかげだと思います。
今季から就任した木村龍治投手コーチの下、徹底して取り組んでいるのが、早めにストライクを取って、投手に不利なカウントにしないこと。早いカウントでファウルを打たせていることが大きいでしょう。コーナーを狙いすぎてボールにするのではなく、ファウルを打たせるつもりでストライクゾーンの中で勝負ができているので、球数少なく長いイニングを投げられる。理想的ですね。
ブルペンは今、昨季好調だった佐々木千隼、唐川侑己、国吉佑樹といった面々が不在ということもあり、なかなか勝ちパターンを作ることができない。その中でもチーム防御率1.88という成績は、我がチームながら本当にすごいことだと思います。
レギュラー不在の打線=若手にとって大チャンス
その一方で、打線は得点が挙げられずに苦しんでいます。チーム盗塁数は12球団トップの32個ながら、チーム得点圏打率が2割1分5厘では得点は入りません。打線不調の主な理由は、レアードとマーティンの調子が上がらないこと。本塁打と打点を両外国人選手に依存しているチーム事情が、改めて浮き彫りになりました。
今季3年目のマーティン自身、一生懸命考えながら練習に取り組んでいますが、他球団から研究されていることも事実。もちろん僕らもサポートしますが、不調は本人が越えていかなければいけないところ。いったん登録を抹消し、復調のカギを掴むことに専念させようと思います。
打線の起爆剤となる荻野貴司と藤岡裕大の不在も響いていますが、視点を変えて現状を見てみると、他の選手にとってはレギュラーの座を掴む大きなチャンスと言えるでしょう。開幕して間もない時期に、こういったチャンスが巡ってくることは少ないもの。若手選手はどんどんアピールしてほしいし、もっと伸び伸びやってほしいと思います。
僕は現役時代、打撃の調子が上がらない時は自分のフォームを映像で確認しつつ、体のキレを取り戻すために不調な時こそランニングをしました。それに加え、コンパクトなスイングで逆方向を意識しながらバットを振り込みましたね。
中には、不調の時は一切バットを振らない選手もいますし、調整の仕方は人それぞれ。自分にとって打撃の軸となるものがないと好不調の波が大きくなり、いい成績は残せません。打撃の不調は必ず訪れるもの。調子のいい時から調整方法を考えておき、好不調の波の振れ幅を小さく、かつ平均以上の水準で保てるようにしたいところです。
1軍ではどうしても成績がついて回りますが、そこに左右されすぎてもよくない。打撃は簡単なものではありません。だからこそ、練習で積み上げてきたことを信じ、自分のストロングポイントを出していけばいい。まずは、シンプルに自分らしい打撃に集中してほしいと思います。
先発投手が本当に頑張ってくれているので、打線はどうやって1点を掴み取るか。今季は打たされているバッティング、ボールを追いかけ回すバッティングが目立ち、四球数が伸び悩んでいます。打って出塁するのもいいけれど、四球で出塁するのも同じこと。球数を多く投げさせたり、足でかき回したりすることもできる。マリーンズらしい攻撃は何か。戦略面も含め、もう1回原点に戻らないといけないのかもしれません。
佐々木朗希&松川虎生に集まる注目の陰で指揮官が称える若手野手
開幕からここまでを振り返った時、やはり避けて通れないのが、4月10日オリックス戦での佐々木朗希による完全試合でしょう。あの日は本当にすごいピッチングでした。早いカウントでファウルを打たせ、持ち味の決め球で仕留める。あれが朗希ならではのスタイルだと言えるでしょう。
僕はホワイトソックス時代にマーク・バーリーのノーヒットノーラン達成試合で二塁を守った経験がありますが、完全試合を見たのはこれが初めて。大体こういう試合は好守に救われる場面が出るもの。でも、今回は打球がほぼ前に飛ばず、まさに“完全”でしたね。
その次の試合は7回くらいから少し様子がおかしく、本人もフォークが抜けてきていると話していたので、迷わず降板を選択しました。ファンは2試合連続パーフェクトを見たかったでしょうが、我々も見たかった。ただ、まだローテーション1年目の選手です。大切な才能を預かる“親”として無理はさせられません。朗希なら、あと2、3回は完全試合をやってくれると思います。
朗希にとって完全試合を投げることが最終目標ではないでしょう。今回の完全試合はスタートのようなもの。いいピッチングをすればああいう投球ができると、みんなに分かってもらえたし、彼の中でも自分の本当の投球スタイルが分かった出来事になったのではないでしょうか。
バッテリーを組んだ松川(虎生)も落ち着いていました。朗希に限らず、石川(歩)、美馬(学)のリードもしっかりできている。新人離れしたドッシリ感がありますね。
朗希と松川に世間の注目が集まる中、序盤にいい働きをしてくれたのが高部瑛斗です。高部の課題は1軍にどうアジャストできるか。ファームで積み上げたスタイルそのままが1軍で通用するかと言えば、そうでもない。1軍での自分の役割や野球そのものを日々勉強しながら、繋ぐ打撃をしたり、盗塁したり、いろいろな経験を積んでいる。いいことも悪いことも経験しながら、シーズンが終わる頃には成長した姿を見せてくれると期待しています。
24日からは早くも交流戦がスタート。それまでには故障者が1人、2人と戦列に戻ることでしょう。1日も早くマリーンズらしさを取り戻し、上昇気流に乗って交流戦を迎えたいと思います。
(佐藤直子 / Naoko Sato)
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