藤本監督は神輿に乗って登場、新庄監督は箱から現れた開幕戦セレモニー
新庄剛志監督率いる北海道日本ハムを相手に開幕3連勝のスタートダッシュを決めた福岡ソフトバンク。日本中の注目を集めた開幕3連戦だったが、試合内容以上に衝撃を与えたのが、開幕戦セレモニーの両監督の入場シーンだ。光る箱から登場したビッグボスに対し、藤本監督は神輿に乗って姿を現し、スタンドのファンの度肝を抜いた。大きな反響を呼んだこの開幕戦セレモニー。実現に至るまでの経緯と舞台裏を、セレモニーを企画した福岡ソフトバンクの稲永大毅マーケティング本部マーケティング企画部部長代行が明かした。
就任直後から話題を振り撒いていた新庄ビッグボス。開幕戦の相手として迎える側としても、この波に乗らない手はなかった。当初は「新庄さんが来るということで、開幕戦の注目度が高くなるのは分かっていました。試合を盛り上げつつ、露出して楽しんでもらう演出をしようと考えていました」と稲永氏。当初は序盤の光と炎の演出だけが構想にあったが、経営陣から“待った”がかかった。
「新庄さんが来るんだから、もっと思い切ったものを考えて、ぶつけてみようじゃないか、と……。そこで、捻り出したアイデアの1つが“イリュージョン”でした。他にも、高所作業車とか、バイクとかもアイデアにはありましたが、先方に投げたところ、新庄さんが選んだのがイリュージョンでした」。監督の登場に関してプランを生み出したのは福岡ソフトバンク側。いくつかある中で、イリュージョンを“テーマ”に選んだのが新庄BIGBOSSだった。
福岡ソフトバンク側は当初は「受けてくれないと思っていました」と、半ば“ダメ元”で提案したのだが、意外にも新庄ビッグボスは快諾してくれたという。そこからイリュージョンをテーマに登場プランを練った。「我々ではタネ、仕掛けを作ることはできないので、そうなると“影武者”を立てるしかないなとなりました。演出や照明と融合させ、どこから登場すれば驚きを誘えるか。それを考えてグラウンドの中にある箱から登場する形を選びました」と稲永氏は語る。
ビッグボスサイドからのアイデアもミックスされた。開幕戦前日に稲永氏はビッグボスに直接、企画の説明を行った。「『20分くらい箱に入ってもらいます』とお願いしたところ『分かりました』と。そこで『このユニホーム着たいんだよね』と提案がありました」。新庄ビッグボスが用意していたのが胸元の「BIGBOSSS」が光る仕様になっていたユニホーム。稲永氏は「『ピンスポット当たると、光が見えないんですよね』ということだったので、最初は光が当たらないように変更しました」という。
“影武者”が着用したリストバンドは新庄監督が提供「やるからにはこだわりましょう」
ビッグボスの登場には“影武者”も出現した。新庄ビッグボスのユニホームを身に纏い、赤のリストバンド、赤のマスクを着用。パッと見、ビッグボスそっくりだった。実はこの“影武者”が着けていたリストバンドはビッグボス本人のもの。「新庄さんがやるからにはこだわりましょう、ということで、予備のものを3人分貸してくれました。マスクの色も、赤と指定がありました」。ビッグボスの意向も十分に反映させた。
そして、それ以上の衝撃を与えた藤本監督の“神輿”だ。新庄監督が来るとはいえ、福岡ソフトバンクにとって本拠地での開幕戦。やはり藤本博史監督を“主役”にし、ビッグボス以上のインパクトを与えたかった。「やっぱりホームなんで、負けない演出を考えないと」と稲永氏。まず、真っ先に考えたのは、福岡の名物でもある山笠だった。だが、時期的にまだ山笠が完成しておらず断念。次に思い描いたのが神輿だったという。
「イメージしていたのは戦国武将なんです。炎の演出もそこを意識していました。武将ということで、馬に乗ることも考えましたが、さすがに怪我をさせるわけにはいきません。そこで山笠、神輿となりました」。序盤の演出は「光」と「炎」で作り上げられた。光は新庄ビッグボス、そして藤本監督が炎。最初から最後まで両者を対比させた一貫した世界観で、セレモニーは作り上げられていた。
藤本監督に神輿に乗ることを伝えたのは、開幕の2週間ほど前。球団広報を通じて打診すると「新庄がそこまでやるなら協力するよ」と快諾してくれたという。神輿に乗った感想を聞かれた指揮官は「俺は緊張したけど、めちゃくちゃ和んだと思う。だから1番よかったんじゃないですか」と納得した様子だった。
衝撃的な開幕戦セレモニーの実現へ背中を押した“思い”
球団内には監督を大々的に演出に起用し、監督を“見せ物”のようにしてしまうことへの懸念もあった。「選手が主役だというのを崩してしまっていいものか、というのは心配していました」と稲永氏も言う。その心配を振り切って、実現へと背中を押してくれたのは、ファンへエンターテインメントを提供したい、野球を、ホークスを楽しんでもらいたいという願いだった。
新型コロナウイルスの感染拡大でなかなか観戦もままならなかったこの2年間。まだ、声援を送れないなどの制限はあり、ファンには不自由さも感じさせている。その中での3年ぶりとなる満員4万人での開催。稲永氏も「この2年間、コロナ禍でちゃんとした興行をファンの皆様に届けられていませんでした。せっかく新庄さんが盛り上げてくれていたので、しっかり乗っかりつつ、楽しいことを提供できたら、また球場に来たいと思ってくれるのではないかと思っていました」と語る。
コロナ禍で、テレビ中継やインターネットでのライブ配信で観戦することに慣れてしまった人もきっと多いだろう。それでも、生観戦の魅力を忘れてほしくない、思い出してほしい。「ライブエンターテインメントの魅力を改めて認識してもらえたら。音の迫力、生の迫力はやはり中継を見るだけでは味わえない」と稲永氏。そんな思いも込めて、前代未聞の開幕戦セレモニーが実現したのだった。
「なによりも協力いただいた藤本監督と新庄監督に感謝しています。そして、時間のない中で必死に準備をして、間に合わせてくれた関係者の皆さんにも感謝しています」と稲永氏は球団を代表して、感謝の思いを伝える。プロ野球を盛り上げたい。ファンを楽しませたい。福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、藤本監督、そして新庄ビッグボス。関わった全ての思いが合致し、大反響を呼んだ開幕戦セレモニーが出来上がった。
(Full-Count編集部)
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