パ・リーグ史上最長14年連続50試合登板の快挙
北海道日本ハムの宮西尚生投手は2021年、ルーキーイヤーから14年連続で50試合に登板し、パ・リーグ記録を更新。元中日の岩瀬仁紀氏が持つNPB記録まであと1年に迫った。NPB史上最多を更新し続けている通算ホールド数も373まで伸ばしており、2022年は通算400ホールドも射程圏内に入っている。
ただ、2021年シーズン序盤の宮西投手は著しく安定感を欠いていた。4月の防御率が14.29と絶不調で、長年務めた左のセットアッパーの座を堀瑞輝投手に譲る時期も。しかし8月以降は大きく調子を上げ、結果的にさすがの成績にまとめている。
今回は、例年に比べてアップダウンの激しかった宮西投手の2021年シーズンについて、「各種の指標」「月別成績」「結果球割合」「投球コース」という4つの観点から分析。後半戦で巻き返しに成功した理由について、実際の数字をもとに迫っていきたい。
やや苦戦した印象の2021年だが、指標の面では?
下記は、宮西投手が過去14年間で記録した年度別指標だ。
まずは例年の成績から、宮西投手の投球の特徴について見ていこう。プロ2年目の2009年に、10.61という素晴らしい奪三振率を記録した宮西投手。その後も投球回を上回る奪三振数を記録したシーズンは6度あり、通算の奪三振率も8.26と優秀だ。とりわけ、2019年以降は3年連続で奪三振率が9を超えており、ベテランの域に入ってからも、その奪三振能力にはより磨きがかかっているといえる。
制球面では、2010年は61試合で9四球、2019年は55試合で6四球と、年間を通じて与えた四球を1桁に抑えたシーズンが2度存在した。その一方で、与四球率が4を上回ったシーズンも4度ある。重要な局面でマウンドに上がるケースも多いだけに、三振か四球かというギリギリの勝負を繰り広げていることが、数字にも表れているだろうか。
被打率に関しても、年ごとの変動こそあれ、被打率.200未満に抑えた年が6度。キャリア平均のWHIPは1.11と、走者を背負うケースは少なくないものの、被打率やWHIPが例年に比べて悪くても、防御率に関しては水準以上にまとめている年も多い。走者を出しながらも容易に得点を許さない粘り強さが、宮西投手の安定感を作っている。
以上を踏まえて2021年の数字に目を向けると、奪三振率は10.00に迫る素晴らしい数字だった。また与四球率は3.05とキャリア平均に近い数字だ。被打率とWHIPがキャリア平均より悪かったことが防御率に影響した面は否めないが、制球力を示す「K/BB」もキャリア平均を上回っており、指標の面ではそこまで悪い数字ではなかったと総括できる。
前半戦はなかなか調子が安定しなかったが……
次に、2021年に宮西投手が記録した月別成績を確認したい。
3月は2試合に登板して無失点と順調な滑り出しだったが、4月に大きく調子を崩してしまった。5月は防御率2点台と調子を取り戻しつつあったが、6月に入ってから再び状態を落としており、前半戦はなかなか状態が安定しなかったことがわかる。
しかし、中断期間を挟んで後半戦に入って以降は投球内容が変化。8月は6試合で防御率3.38だったが、9月は月別で最多となる12試合に登板し、防御率1.74と抜群の安定感を発揮した。続く10月は8試合に登板して無失点と、さらに成績を良化させ、8月終了時点で5.33だった防御率は3.65まで改善。まさに、文字通りのV字回復を見せていた。
2021年の宮西投手は、“運”に恵まれなかった?
成績の差をよりわかりやすくするために、ここからは前半戦と後半戦の2つに大別した数字を見ていきたい。
7月までは24試合で14の自責点を喫し、防御率は5.82。その一方で、8月以降はわずか3カ月で26試合とハイペースで登板を重ね、自責点はわずかに4。防御率も1.59と素晴らしい水準であり、前半戦と後半戦では投球内容がほぼ別物だったことが数字にも表れている。
そんな中で、「BABIP」には非常に興味深い傾向が表れている。BABIPは本塁打を除くフィールド内に飛んだ打球がヒットになる確率を示す指標であり、一般的には選手個々の能力以上に、運に左右されやすい数値とされている。投手の平均値は.300とされる中で、2021年の宮西投手の前半戦のBABIPは.391と、極端に悪い数字となっていた。
ただ、BABIPはシーズン前半と後半、あるいは前年と翌年で数字が大きく変動することにより、キャリアを通じて.300前後の数字に収束する傾向にある。宮西投手の場合も、2021年の後半戦におけるBABIPは.259と良化しており、この変化が成績にも影響していたと考えられる。
それでも、通年のBABIPは.331と平均値を大きく上回る数字であり、2021年は総じて運に恵まれなかったといえる。ただBABIPが運の揺り戻しによって改善される可能性も高く、2021年前半戦の苦戦は一過性のもので終わる、という見通しも立てられそうだ。
新球の習得も含め、前後半で結果球の割合に少なからず変化が
続けて、2021年の宮西投手の結果球の割合を、7月以前と8月以降に分けて確認したい。
7月13日以前は速球が56%と多くの割合を占めており、スライダーは約40%。3%ほどの割合でシンカーも投じていたが、基本的には、速球とスライダーの2球種が中心だった。
8月以降もその構図自体に変化はないが、スライダーの割合が約10%増加し、結果球のちょうど半数を占めるように。逆に速球の割合は約10%低下し、スライダーよりも少ない数字となった。シンカーの割合はほぼ横ばいだが、前半戦では使っていなかったフォークを新たに投げ始めており、球種の選択にもさらなる幅が広がっている。
宮西投手は長年にわたって、ほぼ速球とスライダーの2球種で打者と勝負するスタイルを取ってきた。前半戦では速球の割合が高かったものの、後半戦に入ってからスライダーの割合を増やしたことが、投球内容に好影響をもたらした可能性は大いに考えられる。新球・フォークの習得も含めて、中断期間を経た上での試行錯誤が奏功したと言えそうだ。
後半戦でのピッチングの向上は、投球コースにも
最後に、コース別の結果球割合についても、前半戦と後半戦での比較を行っていきたい。
2021年の宮西投手は対左打率.192に対して、対右打率は.310。左打者封じという役割は十二分に完遂できていたが、右打者には苦戦する傾向にあった。
その数字を念頭に入れたうえでコース別の数字を見ていくと、前半戦では左打者の内角に行くボールが多く、その中でも高めと真ん中が10%を超えていた。左右両サイドの出し入れで勝負する傾向にある中で、やや高く浮き、特に右打者にとっては外角高めから真ん中と、狙い打ちのしやすい球が多かったと考えられる。
しかし、後半戦は高めに浮く球の割合が大きく減少し、両サイドの低めに行くケースが増加。特に左打者にとっては、外角の真ん中から低めに決まる球が増えたことになる。それに加えて、右打者に対しても、内外角の双方で低めに決まるボールの割合が増加したことに。左右どちらの打者にとっても、より打ちづらい球が増えていたと総括できる。
宮西投手は、シーズンによって対左打率と対右打率が大きく変動する傾向にあり、今季とは逆に対右打率が低く、対左打率がやや高いシーズンが、過去14年間で7度と、ちょうど半数を占めている。先述した通りに試行錯誤を繰り返している宮西投手のスタイルが、2021年途中からの復調と快投につながった可能性は大いにあるだろう。
試行錯誤を経た新シーズンの投球に期待
NPB史上最多のホールド数を記録している宮西投手は、中継ぎ投手としてはまさに不世出の存在といえる。それでいて、今回取り上げた各種のデータからは、現状に満足せず、常に課題を修正している姿が見て取れる。長期間にわたって安定した投球を見せられる理由の一つに、そうした野球への真摯な姿勢があることは疑いようがない。
宮西投手が2022年も50試合以上に登板できれば、いよいよNPBの歴代最長タイ記録だ。前人未到の活躍を続ける鉄腕の、新シーズンでの活躍にも期待を寄せたい。
文・望月遼太
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