滞空時間の長いホームランは芸術だ!
試合の局面をひと振りで変えることができるホームラン。打った瞬間とんでもない打球速度で「これはいった」とわかる一打ももちろんいいが、高々と上がった打球がなかなか落下せず、誰もが顔を上げて待ち受けるなかで観客席にスコーン! と落ちる滞空時間の長いホームランも情緒があるというもの。このときばかりは、アスリートによる芸術、まさにアートが創作されいるといっても過言ではない。
今回は、そんな滞空時間の長いホームランに的を絞って計測した。
9月14日から11月12日までの間で、トップ5に入ってきたホームランアーティストたちは、どのような選手だろうか?
捕手ながら長打が魅力の佐藤都志也選手(千葉ロッテ)
まず、5位に入ったのは、千葉ロッテの2年目・佐藤都志也選手だ。滞空時間は6秒05。映像をみると弾道がかなり高く上がってなかなか落ちてこない感覚がわかると思う。これこそが、6秒を超える滞空時間の打球であり、独特の間がホームランの美しさを引き出してくれる。
今年は正捕手・田村龍弘選手が戦線を離脱していた時期がありながらも、捕手としてはまだまだ苦労が多かったが、東洋大学時代から打撃力の高さも評価されてプロ入りした一面をみせてくれた。
タイプとしては、どちらかというと鋭いライナー性のイメージが強い佐藤選手だが、角度がついて高く上がったときも打ち出し速度がかなりあるのだろう。長い滞空時間を経て、見事にスタンドまでボールを運びきった一打だった。
柳田悠岐選手(福岡ソフトバンク)が登場しないはずがない!
滞空時間の長いホームランを打つには、並外れた打球速度が必要であることは、野球の専門的な知識がなくてもおよその見当がつく。
ならば、この男が顔を出さぬはずがない。片手を伸ばすようにして打った当たりそこねのような打球がスタンドインするなど、常人の斜め上をいくパフォーマンスでファンを驚かせてきた超人・柳田悠岐選手(福岡ソフトバンク)である。6秒36というタイムで4位ではあったが、案の定、TOP5に顔を出してきた。
柳田選手のケタ違いのスイングスピードについては、もはや語るまでもあるまい。特にすごいのは、どのような角度で振ってもその鋭さを維持できるところだ。そのため、ゴロになったとしても、球足の速いゴロとなって内野の間を抜けていくし、角度がつけば滞空時間の長い一発となってスタンドまで届いてしまう。
筆者は、過去に柳田選手が7秒台の滞空時間でホームランにしたシーンもみたことがあるほど。このような高く上がった弾道でのホームランは柳田選手の真骨頂の一部であり、この角度の打球がスタンドに楽々届いている間は、長く続いている全盛期が途絶えることはないと思われる。
下位の打順でも長打力を潜在する炭谷銀仁朗選手(東北楽天)
滞空時間6秒57のホームランで3位に入ってきたのは、今季7月に金銭トレードで巨人から東北楽天に移籍してきた炭谷銀仁朗選手だ。
2005年高校生ドラフト1巡目でプロ入りした埼玉西武からセ・リーグの巨人でプレーをするというキャリアを経て、東北楽天は3球団目となる炭谷選手。捕手ということで守備に比重を置きがちなせいか、トータルの打撃成績は決して目立つものではないが、実は知る人ぞ知る強打の持ち主である。そのことが、この一打で証明された格好だ。
実際、野手系の打者であっても、これほど高く上がった打球でスタンドまで届かせられる能力の持ち主には限りがある。その意味で、炭谷選手は潜在的には立派なホームラン打者であり、捕手だからと下位の打順に入っていても油断は禁物。常に一発を期待できる存在である。
ハイスペックなフィジカルの岡大海選手(千葉ロッテ)
今シーズンの終盤戦、オリックスと激しく優勝争いを演じた千葉ロッテにおいて、再三の攻守やサヨナラホームランなどで勝利に貢献していた岡大海選手のひと振りが6秒63で2位にランクインしてきた。
岡選手といえば、高い身体能力を駆使した破天荒なプレーぶりに尽きる。打ってはコンパクトな構えから弾丸ライナーを放ち、走っては185センチの大柄な身体をものともしないスピードを披露する。滞空時間の長いこのホームランもフィジカルの強さを物語っており、フルにこの能力を発揮すれば、柳田選手に迫れるほどの成績を残してもなんら不思議ではないはずだが……。いかんせん、故障が多いことや、好不調の波が激しいせいか、そのすべてが数字に表れてこない事実がもどかしい。
「プロとはそういうもの」と言ってしまえばそのとおりだが、今年で30代になり、後半戦の活躍である種きっかけをつかめた部分もあるはず。来年以降の大きな飛躍を期待して止まない。
番外編は生粋のホームラン打者にしかできない「確信歩き」
ここで、1位に踏み込む前にワンクッション置く番外編を紹介しよう。今回登場するのは、T-岡田選手(オリックス)、デスパイネ選手(福岡ソフトバンク)、杉本裕太郎選手(オリックス)による豪華三本立て「確信歩き」ホームランだ。
これができるのは、打った瞬間にホームランであると、文字通り確信できる打球を打てなければとてもできない。万一、フェンスに当たってインプレーになろうものなら、これほど恥ずかしいことはないというだけでなく、「最初から全力で走れ!」とお叱りを受けてしまう。
だからこそ、よほど感触が良かったのだろうと想像できるナイスバッティングをした選手の特権として、滞空時間の長い短いに関係なく、手放しで称賛したいと思う。
ベテランなっても打力健在の「熱男」が1位に
数ある強打者を抑えて、今回のホームランアーティスト1位に輝いたのは、まだまだ元気な「熱男」こと松田宣浩選手(福岡ソフトバンク)だった。
松田選手がこのホームラン滞空時間で1位になったことは、個人的な物言いで恐縮だが、筆者としても大変感慨深いものがある。
実はプロ入り以前、松田選手が亜細亜大学でプレーしていた当時、筆者はちょうど野球のプレーをストップウオッチで計測する取材を本格的に始めるようになり、松田選手の打球の滞空時間も数多く計測する機会に恵まれた。
すると、東都大学野球リーグの選手の中でも、松田選手のフライの滞空時間は群を抜いていることが判明。ドラフト会議前には、1巡目指名(希望枠)の有力候補として、そのタイムを雑誌媒体で大々的に紹介するに至った。
そのような思い入れのある選手が、あれから20年近くの時が過ぎた現在でも第一線を張る滞空時間を記録している。その長打力に、驚きと喜びを抱かずにはいられない。
滞空時間の長いホームランはプロ野球ならではの魅力
しのぎを削る熱い戦いの中で、一瞬の静寂を生み出す滞空時間の長いホームラン。ランキングに入ったメンバーをご覧になって、どのような感想を得ただろうか?
野球の華であるホームラン。その中でも、滞空時間の長い打球を堪能できるのは、プロ野球にしか味わえない魅力であろう。
これからも、高々と上がった打球に期待を込めてファンが顔を上げるようなシーンを数多く生み出してくれることを願っている。
文・キビタキビオ
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