打球が外野の後方へ抜けていくとチャンスが訪れる三塁打。二塁打と比べると発生する確率が低いので、球場で実際にみることができると、なにか「得をした」という気分にさせてくれる。
打者走者が一塁を蹴って二塁へ向かうところまではよくある光景だが、そこから減速することなく一気に二塁ベースをかけ抜けていくときの驚きにはじまり、三塁にたどり着くまで味わうことのできるスリルは、ホームランとはまた違う野球の醍醐味ではないだろうか。
そんな三塁打について、今回はパ・リーグペナントレース終盤の9月14日から10月30日までに記録したケースをピックアップ。打ってから三塁に到達するまでのタイムを計測した。そのトップ5を紹介していこう。
ちなみに、過去の計測で最も速かったのは、2019年に周東佑京選手(福岡ソフトバンク)が記録した10秒55である。
このタイムを破る選手は、果たして登場するだろうか?
ベテランらしからぬスピードを披露した荻野貴司選手(千葉ロッテ)
まずは、11秒29というタイムで5位に入った荻野貴司選手(千葉ロッテ)の登場だ。
今年の10月で36歳となった荻野選手。だが、あまり「ベテラン」というイメージが結びつかないのは、球界を代表するほどのスピードにいささかの衰えも感じさせないところにある。
右中間をライナー性の打球で破ると、外野手の打球処理の様子をみて一気に三塁へ向かい、ヘッドスライディングで飛び込む。荻野選手は、どの方向に打っても踏み出した左足がすぐにめくれて三塁側へ開く。そのぶん、打者走者としてのスタートは遅れがちになるが、二塁を蹴ってからギアを一段上げるようにスピードアップして、好タイムを記録した。
三塁打好タイムの常連がまたも登場 源田壮亮選手(埼玉西武)
そして、4位は三塁到達タイム常連中の常連である源田壮亮選手(埼玉西武)がランクイン。体勢を崩されながらも右腕を伸ばしてとらえた打球はゴロで一塁線を突破。打球が緩かったことが幸いして、三塁を狙うチャンスが訪れた。
このときに限ったことではないが、源田選手の走りはとにかく軽やかだ。まさに「疾走」という言葉がフィットする美しいランニングフォームで、スライディングすることなく三塁ベースにたどり着いた。
いわゆる「スタンディングトリプル」で出したタイムは11秒13。しかし、ちょっと待て? このときの走りは、余力を残していたのは明らかである。終始全力で走ったら、源田選手はどれほどのタイムを出すのだろうか?
過去の当企画を振り返ると、2018年に10秒71、2019年には10秒77というタイムを記録している。
今回はスライディングをしない余裕の走りだったために11秒台に甘んじた格好だが、それでもTOP5に入るのだから、もはや脱帽するしかない。
瞬間の判断からのギアチェンジが秀逸の西川遥輝選手(北海道日本ハム)
右中間に大飛球を放ち、三塁へ怒涛のスライディングで滑り込んだのは西川遥輝選手(北海道日本ハム)。タイムは11秒05で3位に食い込んだ。
西川選手は、筆者がみる限り、少し計算高いところがあるとみている。特に感じるのが大飛球を打った直後の「走り出し」。やみくもに全力で走り出すのではなく、最初は二塁打を前提として打球をみながら余裕の走りをしている場合が多いのだ。
ところが、相手守備の打球処理の様子から「これは三塁まで行ける!」と判断すると、瞬時に反応して全力疾走を始める。この瞬間の切り替えは、紛れもなく球界一だと思う。
そして、一度切り替えたらもう迷わない。怒涛の走りで狙った塁を陥れる。良くも悪くも、それが西川選手の魅力のひとつと言っていいだろう。
新人時代から迫力のある走塁で今回好タイムの山崎剛選手(東北楽天)
2位にランクインしたのは、シーズン後半になって東北楽天のショートスタメンに固定されて出場していた山崎剛選手の11秒03というタイムだった。
実をいうと、山崎選手はルーキーイヤーだった2018年に10秒89というタイムを記録している。それ以来のランクインだが、当時から目をひいた迫力のある走りは相変わらず。決して太っているわけではないのだが、骨太でがっしりしている体型のせいか、重量感にあふれる走りをみせてくれていた。
当時はルーキーということもあり、一軍に上がったばかりのシーズンで無我夢中に走った結果の好タイムかと思っていたが、4年目となった今回もほぼ同等のタイムを出してきた。これはもう、本物のスピードであり、今年の活躍もうなずける走りであった。
番外編 想定外の全力疾走に拍手のデスパイネ選手(福岡ソフトバンク)
1位を紹介する前に、ここでひとつ番外編を挟みたい。
登場するのは、福岡ソフトバンクの大砲・デスパイネ選手。番外編の常連ともいえる存在だ。
デスパイネ選手のような鈍足であることが明らかで(一生懸命走っていることとは別の話)、打点を稼ぐことを仕事と自認している選手が三塁打になるときは、何らかの偶然が絡んでいるのがほとんどである。
今回は、センターの岸潤一郎選手が背走後、落下点を見誤って落球するのをみてから慌ててスピードアップ! 必死に走って三塁に滑り込んだものだった。
そのタイムは14秒24。計測した中では最も遅いタイムであったが、想定していなかった激走に「お疲れさまでした」と申し上げておきたい。
覚悟を決めあとは、全力で三塁を陥れた中川圭太選手(オリックス)が1位!
センターの最深部へ打球がたどり着いたとはいえ、ややレフト側で打球の処理がなされた場合、ライト側と比較すると三塁への送球距離が短くなる。それを視界に入れながら二塁を回るというのは度胸がいる。しかも、そのあとはボールが背中越しとなるのでいつ送球が自分を追い越してくるかもしれず、不安をいだきながら必死で走ることになるのだ。
しかし、このときの中川圭太選手は果敢に三塁を攻めた。最後までスピードを緩めることなく走り切ったために、11秒01という好タイムにつながったと考えていい。
打席位置の関係で、右打者は左打者よりも物理的に遠くからスタートするため、距離の長い三塁打であっても多少は不利となる。短期間に限定した計測とはいえ、それにもかかわらずトップタイムを記録した中川圭選手に惜しみない拍手を送りたい。
来シーズンは再び10秒台の争いをみたい
過去の計測では10秒台がTOP5の多くを占めていたのに対して、今回はすべて11秒台という結果だった。
この背景には、おそらく計測した時期が関係していると思われる。シーズン終盤になると、選手は蓄積された疲労の影響を受けるせいか、際どいタイミングになりそうだとアグレッシブになれなくなる。また、優勝争いや僅差の順位争いをしているチームの場合、三塁を狙ってもしアウトになれば、その試合のダメージは計り知れないものになるため、どうしても慎重になってしまうということもある。そのため、三塁まで行くときは確実にセーフになるときに限られてしまうのだろう。
しかし、そのような時期に計測したことで11秒台の争いになり、右打者の名が多数登場するという、これまでにないおもしろい結果を体験することができた。実は、右打ちの俊足選手も、ほんの一瞬置いた後に「スキあらば抜かん」と待ち受けているのである。
それどころか、ひょっとすると、来年以降は、ほぼ全力で走る三塁打が頻発する時期の計測においても右打者が登場してくるかもしれない。
そう思うと、やはりタイムは毎年のようにチェックしなくてはならないとあらためて感じる。ファンや筆者のような、プロ野球をみている側の人間を驚かせるようなパフォーマンスは、決して底をつくことはないのだから。
文・キビタキビオ
パ・リーグの三塁打到達時間TOP5 動画はこちら
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