「お前をドラ1にしてやる」西日本工大・隅田知一郎を埼玉西武1位に導いた相棒の“引退撤回”

Full-Count

2021.10.13(水) 16:03

埼玉西武から1位指名を受けた西日本工大・隅田知一郎(右)と大学でコンビを組んだ山名浩伸捕手※写真提供:Full-Count(写真:上杉あずさ)
埼玉西武から1位指名を受けた西日本工大・隅田知一郎(右)と大学でコンビを組んだ山名浩伸捕手※写真提供:Full-Count(写真:上杉あずさ)

隅田をドラフト1位で送り出すために4年春での引退をやめた山名浩伸捕手

 今ドラフトで最多の4球団が競合し、埼玉西武が交渉権を獲得した西日本工大の隅田知一郎投手。ドラフト前から1位入札を公表していた埼玉西武が当たりクジを引くと、マスク越しに安堵の笑みを浮かべた。会見や囲み取材対応を終え、同室で見守ってきた野球部の同級生たちが駆け寄ると、そこでようやく緊張の糸が解けたように満面の笑みで喜びの声を上げた。

 指名直後の会見の中で、隅田は全国制覇を目指して戦ってきた同級生たちへ感謝の気持ちを述べていた。その中でも、隅田がことさら感謝する存在がいる。それが山名浩伸捕手(4年)。「山名がいると鬼に金棒」と隅田が厚い信頼を寄せる“相棒”だ。

 実は山名は4年春で野球部を引退する予定だった。西日本工大では部員の多くは4年春で引退し、秋までプレーを続けるのは大学後も野球を続けるごく僅かの選手だけ。実際に、隅田の同級生たちも、ほとんどが4年春の戦いを終えて引退を選んだ。山名もそうするつもりだった。

 だが、山名は隅田のために引退を撤回した。自分が引退することで、慣れない後輩の捕手と組んだ隅田が力を出しきれず、プロからの評価が下がってしまわないか……。それは本望ではなかった。隅田からも「残って欲しい」と口説かれた。気持ちは固まった「俺がお前をドラ1にしてやるわ」。冗談めかした言葉だったが、それは本心。「お前になんかされんわ」と返した隅田も、もちろん「嬉しかった」と意気に感じた。

西日本工大・隅田知一郎※写真提供:Full-Count(写真:福谷佑介)
西日本工大・隅田知一郎※写真提供:Full-Count(写真:福谷佑介)

隅田を思う山名の気持ち「知一郎のために秋まで野球を続けました」

 2人は秋のリーグ戦が終わるまで共に駆け抜けた。「知一郎のために秋まで野球を続けました」と山名は全力でサポート。隅田は元々好投手だったが、春の全日本大学野球選手権を境に急成長したと山名は感じている。秋は目付きも気持ちの入り方も今までとは違った。三振を取った時のガッツポーズや雄叫びからも、気持ちの強さを感じたという。

「隅田の足を引っ張らないように」と、山名は4年間、少なからずプレッシャーも感じてきた。大学生になったばかりの頃は、キャンパスライフを謳歌する学生たちを見て羨ましくも思った。「今はやる気がない」と武田監督に爆弾発言し、メンバー入りした遠征への参加を“拒否”したこともある。

“野球より遊びたい”時期があった山名もいつしか隅田のボールを受ける“喜び”を感じるようになった。「隅田は本当に凄かった。(プレッシャーより)リードしていて楽しいという気持ちの方が大きかった」。1年生の時に「やる気がない」と言い放った青年は結果的に4年秋までプレーを続け、隅田は周囲の願いの通りにドラフト1位で指名された。

「隅田の球を受けている方が楽しい」「隅田のお陰で自分も変われた」と笑う山名は、すでに就職が決まっており、社会人になったら草野球を楽しむつもりだ。「隅田は調子が上がらない時期もあったけど、リーグ戦にはしっかり合わせてくる。コントロールは安定しているし、プロでもやっていけると思う」と誇らしそう。4球団競合という今ドラフトで受けた最高評価。隅田がこの日を迎えられた裏には、頼もしい相棒の存在があった。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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