当時埼玉西武の涌井から打ったCS第3戦での同点適時打
今季限りでの現役引退を決めた福岡ソフトバンクの長谷川勇也外野手が9日、本拠地PayPayドーム内で引退会見を行った。大粒の涙を流し、言葉に詰まりながら、言葉を紡いだ長谷川だが、会見後に行われた囲み取材では、衝撃的なエピソードまで明らかにした。
現役通算1108安打を放ってきた長谷川。印象に残る1本を問われると「やっぱりクライマックスシリーズの涌井投手との対戦ですかね。10年経ってるんですけど、CSの涌井投手といえば『あの試合ね』と思い出てくるくらいのいい試合だった。両投手の意地のぶつかり合い、その中で打つことができたのが嬉しいですし、今考えても、あの場面で涌井投手の素晴らしいボールを打つことができたのか分からないですね」と回顧した。
2011年11月5日に行われた埼玉西武とのクライマックスシリーズ第3戦で。この試合は両チーム先発の杉内俊哉と涌井秀章の息詰まる投手戦となり、両チーム無得点のまま、試合は延長戦に突入した。延長10回表に杉内が1点を失うと、ホークスはビハインドで裏の攻撃を迎えた。2死二塁の場面で打席に立ったのが、他ならぬ長谷川だった。
フルカウントからの6球目を捉えた打球は右中間を破る起死回生の適時二塁打に。CS敗退まであと1球のところでチームを蘇らせる一打を放った。12回裏には再び長谷川がサヨナラの一打を放ち、チームは日本一へと駆け上がった。チームの命運を変えた一打が、長谷川にとっての思い出の1本だという。
さらに、長谷川はこう続けた。
「もう1つ格好いいこと言っていいですか?」
「『痛いから出られません』と言えるような覚悟で試合には挑んでなかった」
そう言うと、この時に起きていた衝撃的なエピソードを語り出した。
「あの時、骨折れていたんですよ。肩。肩の骨が折れていて、腕上がらなかったんです」
クライマックスシリーズの調整のために出場した秋季教育リーグ「みやざきフェニックスリーグ」。その試合中にダイビングキャッチを試みた際に肩を強打し「変な音がした」という。激痛に襲われ、食事の際に箸も持てなくなっていた。
そんな状況でも長谷川に戦列を離れる気はなかった。「その年はスタメンで使ってもらっていたので意地でしたね。監督の気持ちにも応えないといけないし『痛いから出られません』と言えるような覚悟で試合には挑んでなかったので、腹をくくってやっていた。ですけど、あの試合で限界だったので、翌日には監督に『無理です』と言おうと思っていたんです」。決死の覚悟で挑んでいたクライマックスシリーズ。ただ、体は限界に近づいていた。
肩も上げられない状態で、涌井から打った起死回生の適時打。だからこそ長谷川も「今日が終わらないと明日もないなと思って、そういう気持ちもあったので、自分でも分からないような、どう打ったか分からないような火事場のクソ力じゃないですけど、本当に今考えても説明できない打席だったと思います」と懐かしそうに、当時の秘話を語った。
類稀なる打撃技術と、野球に取り組む姿勢は若手選手にとって生きた教材でもあった長谷川。「僕198本しか打ってないんで、200本打てる打者を育てる、育てるというか、そういう選手に関わりたいなと思うので、そういう夢は持っています」と、今後の指導者への希望を語った。
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