高校野球を「もっと楽しい方向に持っていきたい」
北海道日本ハムは1日、斎藤佑樹投手が今季限りで現役引退すると発表した。球団を通じて、「今シーズン限りでの引退を決断いたしました。ご期待に沿うような成績を残すことができませんでしたが、最後まで応援してくださったファンの方々、本当にありがとうございました。約11年間、北海道日本ハムファイターズで最高の仲間とプレーすることができて幸せでした」とコメントした。
早実高、早大とアマチュア球界のエリート街道を突っ走ってきたが、プロでは右肘など度重なる故障に苦しんだ。早実3年夏の甲子園では連投に次ぐ連投で全国制覇。「アマチュア時代に投げすぎたから」「高校から即プロに行っておけば」との“たられば”意見もあるが、もっとも斎藤佑本人は建設的だった。高校野球の変革プランを挙げたことをハッキリ覚えている。
「僕らが甲子園や高校野球のことを聞かれると、球数問題とか日程とか……。僕らの印象は、そういう印象になってしまっている。何かもっと楽しい方向に持っていきたいですよね。例えば、甲子園で投げる投手のトラックマンの数字やデータを開示してもいいんじゃないかと思います」
トラックマンでは投手は球の回転数や初速、終速などを数値化でき、打者では打球速度、飛距離、足の速さなどを測定できる。大リーグではデータ解析ツール「スタットキャスト」として2015年にMLBのすべての本拠地球場で導入され、ファンにも公開されている。NPBでは一般に公開されていないものの、今では全12球団がトラックマンを導入している。
「高校野球には、すごいいいと思うんですよね。例えば、甲子園で抑えて自信を付けて、プロに行く。それはそれでいいと思うんですけど、プロの相手に投げるのとは違うわけで……。『プロに行こうか、大学に進学しようか』と考えている選手たちに、トラックマンのデータがあることによって、自分の立ち位置が分かる助けになると思うんです。プロの投手と比較して、どのくらいの投手なのか。この数字ならプロに行っても通用する。まだ数字が足りないから大学に行こうか、とか……。そういうことも数字で分かるんじゃないですか?」
「トラックマンは甲子園についているので。それをテレビに載せるだけで、いいじゃないですかと思います。そしたらエンターテインメントとしてはプラスになると思うんですよ。見た目すごそうな子とかいるじゃないですか? でも、意外と大したことないかもしれない。(ファンにも)分かりやすく出来たらいいなと思います。やっぱり野球は楽しいし、だからこそ(夏の甲子園が)100年続いても、あれだけのお客さんが入ってくれる。もっともっと野球を楽しくする方法を考えた方がいいと思います」
早実・斎藤佑は「ずっと自信がなかった」 高校時代にトラックマンがあったら高卒即プロを「考えていたかも」
2006年夏の甲子園。早実の斎藤佑は大会通じて歴代1位となる948球を投じ、決勝再試合では駒大苫小牧の田中将大(現楽天)との投げ合いを制して全国制覇した。同年のドラフトでは複数球団から1位候補に挙がるなど進路に注目が集まったが、早大に進学した。斎藤佑は「あの時にトラックマンがあったら、(高卒即プロを)考えていたかもしれないですね」と振り返る。
「僕はあの時、ずっと自信がなかったので。高校からプロに行くことをあまり考えてなかったんですけど、トラックマンで(プロで通用する)数値が出ていたら考えていたかもしれないですね。目に見える世の中になってきている。やっぱりメディアの情報(ドラフト1位候補)、近くにいる人たちのアドバイスはもちろん嬉しいんだけど、そうでなくて、明確に見える数字があったら自分の人生をはっきり決める材料になるじゃないかと思うんです。すごくやってもらいたいなと思います」
「(早実3年夏は)自分でもうまく出来すぎていると思っていた。だからこそやっぱり、ちゃんと地に足を付けて、自分のレベルを見ないといけないと思っていた。(高卒即プロを選ばなかったのは)あとは早稲田に行きたいという思いが強かったので。両方ですね。ただ、そういう(トラックマンの)数字があったら考えたかもしれないです」
投球数だけでなく、ボールの回転数などから故障を未然に防ぐこともあるだろう。時代に合わせて、高校野球もより魅力に。球界の未来を見据える斎藤佑の思いが届くことを祈るばかりだ。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)
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