「自分だけじゃダメ、周りの支えもあるな、と思います」と語るリチャード
■福岡ソフトバンク 12ー4 オリックス(5日・PayPayドーム)
5日に行われた首位オリックスとの直接対決に12-4で大勝した福岡ソフトバンク。勝利の立役者となったのは若き大砲リチャード内野手だった。プロ初本塁打となる逆転満塁弾を含む2本塁打6打点の大暴れ。大活躍に至るには、周囲からかけられた「言葉」の支えがあった。
「自分だけじゃダメ、周りの支えもあるな、と思います」
プロ初安打を放った4日のオリックス戦後のリチャードのコメントだ。近かったようで遠かった1軍での舞台。ようやく2日の楽天戦で初昇格、デビューを果たすと、2戦目となった4日の試合でプロ初安打、そして、この日のプロ初打点、初本塁打とステップアップを遂げた。
センセーショナルな活躍ぶりだった。この試合では2点を先制された直後の2回に反撃の狼煙をあげる中犠飛でプロ初打点。4回には1死満塁で打席に立つと、フルカウントからの8球目、オリックス先発の増井のストレートを捉えて左翼スタンド中段まで運んだ。NPB史上88人目となるプロ初本塁打が満塁弾。一振りで試合をひっくり返した。
プロ初本塁打となった満塁弾、狙っていたのは「フォークかスライダー」だったが…
1ボール2ストライクと追い込まれてから、リチャードはフォーク、スライダーを見極めてフルカウントへと持ち込んだ。8球目の直前。打席を外して、しばし考えた。状況を踏まえて、頭の中を整理していたのだという。
「歩かせたら同点になる。三振を取りたいだろうから、フォークかスライダーで頭の中は決めていました」。狙いは変化球。投じられたのは“ストレート”だった。「『あっ』ていう感じで逆を突かれたんですけど、うまいこと振れた」。実際は全く予期せぬボールだったが、体が勝手に反応。本塁打を確信すると、走り出しながら雄叫びをあげた。
7回の先頭打者で入った第4打席ではバルガスから左翼スタンドへ、この日2本目のソロ本塁打。初球、まだ構えていない状況でボールを投げられ「なんじゃコイツ、絶対打ってやろうと思いました」。鬱憤をバットに込め、力ずくでスタンドへと運んだ1発だった。前日に続き、この日も両親、祖父がスタンドで観戦。「自分じゃないみたい」。初安打、初打点、初本塁打、2日連続のお立ち台と、この上ない親孝行も果たした。
8月に行われたエキシビションマッチで結果を残したものの、後半戦を迎えるタイミングで2軍行きを言い渡された。「正直に言いますと、モチベーションはガクッときてましたね」。目の前にあった初の1軍の舞台が消えて落胆していたリチャードに声をかけたのは藤本博史2軍監督だった。
消沈するリチャードを奮い立たせた藤本2軍監督の言葉、落ち着きを与えた小久保ヘッドの一言
「お前が物足りないということや」
1対1で話をする中で、言葉をかけられてハッとした。1軍に残れなかったのは、1軍で出番を掴むには足りない何かがあるということ。藤本2軍監督の言葉に「また火がつきました」と奮い立たされた。
4日の試合では初安打を欲しがる姿を見て小久保裕紀ヘッドコーチが諭すように言った。「気持ちは分かるけど、欲しがるな。俺だって初安打を打ったのは9打席目やぞ」。精神的に焦りのあったリチャード。「自分のことばっかり考えそうになっていたので、心がホッとしたというか、欲しがらずに自分のやってきたことをやろうと思った」と、この言葉がその後の初安打に繋がった。
バッティングに対しての考え方もシンプルだ。キャンプ中から王貞治球団会長や小久保ヘッドコーチを筆頭に打撃のアドバイスを受け、試行錯誤を繰り返してきた。ここにきてたどり着いたのは「タイミングだけ」。「打撃コーチの平石さんにも、立花さんにも『あとはタイミング』と言われる」。打席の中ではスイングへの意識はなく、タイミングを合わせることに集中する。
この日の勝利でオリックスとの差を4ゲームとした福岡ソフトバンク。残り40試合を切り、負けの許されない状況が続く。そんな中で突如として現れた“ラッキーボーイ”。「浮かれている場合じゃないんで、地に足をつけて、チームのために頑張って勝てるようにしたいです」と意気込むリチャードが、追う福岡ソフトバンクに勢いをもたらす存在になるかもしれない。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)
記事提供: