開幕戦試合前のロッカールーム、試合前の円陣風景、ブルペンでの投球練習、ドラフト会議で佐々木千隼投手の交渉権を獲得し、控え室で喜ぶスカウト陣…。
試合中継やスポーツニュースではなかなか見られない場面や選手の一面を映し出しているのが、千葉ロッテ公式YouTubeチャンネルのコンテンツ「広報カメラ」だ。この広報カメラで自ら企画・撮影しているのが球団広報の梶原紀章氏。スポーツ紙の記者から2005年に球団広報へ転身し、「カジさん」の愛称で選手、チームスタッフから慕われている。
「広報カメラ」がスタートしたのは、球団が公式YouTubeチャンネルを開設した翌年の2014年。始まったきっかけはYouTubeの普及だった。
「近年、スマートフォンやタブレットPCの普及もあって、YouTubeで動画を見るのが当たり前の社会になっています。YouTubeに試合中継では見られない動画をアップして、千葉ロッテや野球について好きになってもらいたいなと思いました。もう一つは2013年に伊東勤監督が就任した際、『MLBのようにロッカールームを開放しよう』というアイデアが出たんです。でもロッカールームの狭さなどもあって断念しました。その時に私が代表してロッカールームに入ってカメラを回し、舞台裏を披露する形もアリかなと思い付きました」
公式YouTubeチャンネルを開設した初年度は、試験的な意味で球団キャラクターの動画を中心に配信。その後、検証・調査を経て、選手に密着した映像を撮り始める。しかし、始まった当初は選手たちの反応は決して芳しいものではなかった。梶原氏が振り返る。
「口には出さなかったけれど、違和感はあったと思います。表情も固かったし『この映像、何に使うの?』という印象でした。でも2015年のCSぐらいから選手たちにもすっかり当たり前の雰囲気になって、撮られていることに違和感がなくなっていましたね。以前は事前に『映像撮るよ』と言っていましたが、最近は流れの中で自然に撮っています。もしも今、事前に言ってしまったら自然な表情は出せないでしょう」
中には偶然撮影できた映像も存在する。昨秋の鴨川キャンプ、ジョギングで球場入りする伊東監督に密着したものだ。
「マネージャーから『球場まで監督走ってきますよ』と連絡があって、監督が来るであろうコースで待っていたんです。でもなかなか来ないのであきらめて球場に戻ろうとしたら、監督が私の後ろ姿に気付いて声を掛けてきました。実はこの時、監督は道を間違えていたんです。迷っていたらたまたま私と会った。偶然撮れた映像だったんです。私の中では「やった!」と感じましたね」
昨年11月に行われたファン感謝デー「スーパーマリンフェスタ」ではこんな一幕があった。普段は撮影する立場の梶原氏だが、ロッカールームで選手に撮影されるという普段とは逆の立場を経験した。
「撮られる立場になって初めて気付いたんですが、なかなか笑顔になれませんよね。その時に『あぁ、選手たちはいつもこんな気持ちで撮られていたんだな』と実感しました。同時に撮影に協力してくれる選手たちに対して、改めて感謝の気持ちが生まれましたね」
また、密着映像だけではなく、プロならではの技にも迫ってきた。200本以上を超える「広報カメラ」の動画の中で、最も再生回数が多かったのは2014年、15年に在籍したルイス・クルーズ選手(現巨人)の巧みなグラブさばきを集めた守備練習の映像だった。
「クルーズが巨人に移籍した後、『いろいろな人からあの映像を言われるんだ』と言われました。母国メキシコからはもちろん、遠い海外の知り合いからも『動画見たよ』と連絡があって、そのコメントは嬉しかったです。これこそがYouTubeで配信する狙いでした」
2015年の秋季キャンプでは、ブルペンで自身の前にネットを立てカーブを特訓する南昌輝投手の投球練習映像を配信した。この映像はチームスタッフが「こんな練習しているよ」と教えてくれたからこそ撮れたと梶原氏は言う。
「この映像は『プロってすごいな』と感じさせる映像です。この翌年となった昨年、南は自己最多の57試合に登板し中継ぎ陣の一角を担う活躍をしました。この映像の記憶があるファンは『あれほど練習した南が頑張った』とより感情移入しますよね」
(後編につづく)
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