大卒5年目、本格的に中継ぎに転向しフル回転
「このままでは終われない」と意気込んだシーズン。5年目を迎えた千葉ロッテの佐々木千隼投手は32試合に登板し4勝0敗13ホールド、防御率1.03(8月17日現在)の成績を残し、初の球宴にも出場するなど、絶対的なリリーフとしてチームからの信頼をつかみ取った。「離脱することもなく、非常に充実したシーズンを送れているかなと思います」。時間をかけ、言葉を選びながら、飛躍の前半戦を振り返った。
2016年のドラフト会議で、1位の再指名としては史上初となる5球団競合。1年目は開幕ローテ入りを果たし、15試合登板で4勝を挙げたが、その後は怪我に苦しみ、結果を残せなかった。ドラ1の肩書を背負い、周囲からの期待を受けるのにも苦労。自身も想像していなかった度重なる怪我に苦しみながら、4年間もがいてきた。
昨季から投球時の「脱力」に取り組んできた。昨年春に肩を痛めたのをきっかけに、力を抜いて投げ始めると肩が動くようになったという。プロ入団時から比べると、テークバックまでの時間をかなり大きく取るようになった。投球時にはグラブでタイミングを取り、足をゆったりと上げる。よく脱力のイメージを「ゼロから100」と表現する投手もいるが、佐々木千は“ずっとゼロ”のイメージを持っている。
「できるだけ腕を振らないようにというか、リリースの時もゼロの方が、(フォームとボールの)ギャップが大きくなると思います」。平均球速こそ例年とほとんど変化していないが、今季は、スピンのかかった直球で打者を差し込めていると感じていた。直球のキレが増し、カーブのような独特の遅いスライダーで奥行きを使って投球することができるようになった。
初めて中継ぎとしてシーズンを過ごし、感じた「難しさ」
昨年10月6日にチーム内で新型コロナウイルス感染者が判明し、選手の大幅入れ替えに伴って一軍昇格した。中継ぎで5試合に登板し、4回1/3を投げ4失点。3週間で登録を抹消された。チャンスをつかみ取れなかった悔しさもあったが、新たな思いも芽生えていた。
「中継ぎの大変さだったり、経験できたのはよかったかなと思いますし、先発だけじゃなくて、なんでもできる役割になりたいなって思うような経験でした」
先発でも中継ぎでも、投げられるところで精一杯やりたい――。そんな思いを胸に、今年の1軍キャンプを過ごした。今季はここまで全てリリーフで登板。初めて中継ぎ投手としてシーズンを過ごし、結果は残せているが、難しさも感じている。
「先発と中継ぎというのは全く別物なので。1球で後悔することも中継ぎの方が多いです。準備の仕方も違いますし、初めてなので、やっと流れが分かってきたという感じです。1球で試合をひっくり返されてしまったりするのが中継ぎなので、1球の重みというのを改めて感じました」
先発と違い、任されるのは終盤の短いイニング。接戦の場面では1つの失点がチームの勝敗に影響する。6月3日の中日戦(バンテリン)では1点リードの7回に登板。先頭のビシエドに浮いたスライダーを左翼線二塁打され、その後スクイズで同点に追いつかれた。
7月10日の北海道日本ハム戦(ZOZOマリン)では3-3の同点の場面で登板。2死から清水優心に真ん中に入ったスライダーを左翼席へ運ばれた。その後チームが同点に追いつき勝ち負けはつかなかったものの、“1球の重み”を感じた2試合だった。
3月には「充実した1年だったなと、振り返って思えればいいかなと思います」と語っていた。自分の成績には、まだまだ満足はしていない。「これまで戦力になっていなかったので、まずは1年間やり切りたい。そしてチームに貢献できるようにしたいなと。それだけです」。苦しみぬいてようやく覚醒の時を迎えた右腕は、更なる高みを目指す。
(上野明洸 / Akihiro Ueno)
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