ケガを乗り越えたニック・マルティネスの“進化”の理由とは

2021.8.12(木) 10:30 パ・リーグ インサイト 望月遼太
福岡ソフトバンクホークス・マルティネス投手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・マルティネス投手(C)パーソル パ・リーグTV

故障からの完全復活を果たし、さらなる進化を感じさせる投球を続けている

 福岡ソフトバンクのニック・マルティネス投手が好調を維持し、来日4年目にしてキャリアベストのシーズンを過ごし、先発陣の軸の一人として快投を続けている。2019年のシーズンを棒に振った故障から完全復活を果たしただけでなく、さらなる進化を感じさせる勢いだ。

 今回は、そんなマルティネス投手の経歴に加えて、NPB入りした2018年以降に記録した成績、各種指標、球種別の被打率といった要素を紹介。それらの数字から見えてくる好調の理由や、過去の投球との変化について、あらためて考えていきたい。

来日1年目から活躍を見せたが、その後はケガに苦しめられた

 まず、マルティネス投手がNPBで残した年度別の成績について見ていこう(2021年は前半戦終了までの成績)。

(C)パ・リーグ インサイト
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 マルティネス投手は2014年にテキサス・レンジャーズでメジャーデビューし、2015年には24試合に登板して7勝7敗、防御率3.96という成績を残すなど、世界最高峰の舞台でも一定の活躍を見せていた。

 2018年に海を渡って北海道日本ハムに入団すると、来日1年目からさっそくローテーションに定着し、安定した投球を見せて2桁勝利を達成。レンジャーズで先発ローテーションの一角を務めたていた実力をNPBの舞台でも発揮し、先発の軸の一人としてチームのAクラス入りにも大きく貢献した。

 しかし、2019年に故障の影響でシーズンを棒に振ると、翌2020年には防御率4.62と不振に陥ってしまう。シーズン途中にはクローザーへの転向も経験したが定着はしきれず、オフには3年間を過ごしたチームから退団する運びとなった。

 福岡ソフトバンクに移籍して迎えた2021年は入国の関係で開幕一軍入りはならずも、5月1日のシーズン初登板で6回無失点の好投を見せてシーズン初勝利を記録。そのままローテーションの一角に定着すると、チームトップの7勝を挙げ、防御率も2.03と、すばらしい投球を披露している。

 今季は11試合に先発してすべて3失点以下、QS率も90.9%(10/11)と、安定感はまさに抜群。故障から2年が経過して、かつてのトップフォームを取り戻したというだけでなく、さらなる上積みをも感じさせるような投球内容となっている。

来日1年目の2018年には打たせて取るピッチングを展開していたが……

 ここからは、セイバーメトリクスの分野で用いられる指標をもとに、今季のマルティネス投手の投球がどう進化したのかについて、より具体的に見ていきたい。

(C)パ・リーグ インサイト
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 2018年の奪三振率は5.18とかなり低く、打たせて取る投球を主体としていたことがわかる。そのスタイルを支えていたのは、与四球率2.23という数字を記録した優れた制球力だった。自滅に近い形で走者を出すケースが少なかったことにより、奪三振が少なくとも安定したピッチングを実現していた。

 しかし、2020年は与四球率が大きく上昇し、それに伴って防御率も1点以上悪化。一時期リリーフに回ったこともあってか奪三振率は向上したが、投球の根幹を成していた制球力が失われてしまったことが、同年の不振の主要因となったことは確かだろう。

 そこで2021年の数字に目を向けると、与四球率は2.03と、2018年を上回る水準にまで向上した。それに加えて奪三振率も大きく改善され、イニング数を上回る奪三振を記録。その結果として、奪三振を四球で割って求める、制球力を示す指標の「K/BB」も大きく向上。一般的に3.50を上回れば優秀とされる中で、大きくその値を上回っている。

今季の絶好調は、「運」ではなく「実力」?

 また、被本塁打率も顕著に改善が見られる部分の一つだ。2018年は四球による走者を許す割合が低かったぶんだけ、被本塁打が大量失点につながらなかった面もある。被本塁打率が悪化した2020年は防御率も大きく悪化していることからも、決して軽視できない要素であることがうかがい知れる。

 そんな中で、2021年の被本塁打率は目に見えて改善されている。それが防御率の向上にもつながっているというだけでなく、外野フェンスが高い札幌ドームから、ホームランテラスがあるPayPayドームに本拠地が変わったにもかかわらず、被本塁打のペースが大きく減少しているという点も特筆すべきだろう。

 もう一つ、本塁打を除くインプレーの打球が安打になった割合を示す指標で、一般的に運が占める要素が強いとされる「BABIP」についても見ていきたい。通常、特定のシーズンに大きく成績が向上した投手のBABIPを見てみると、その他の年に比べてその値が低くなっているケースが少なくはない。

 しかし、マルティネス投手の場合は、好成績を残した2018年と2021年はそれぞれ.288と、平均値の.300よりもやや低くなってはいた。しかし、NPB通算での.291という値とは、ほぼ差のない数字でもある。また、2018年よりも2021年のほうが成績が大きく向上しているにもかかわらず、両年のBABIPが同じ数値であるという点が、運に左右されない要素によって投球内容が向上していることを示してもいる。

球種別の被打率にも、投球スタイルの転換が如実に表れている

 最後に、2018年以降にマルティネス投手が記録した、球種別の被打率についても見ていきたい。

(C)パ・リーグ インサイト
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 2018年は最速で150km/h台に達するストレートと、140km/h台半ばのカットボールとツーシームを活かして、ゴロを打たせる投球を展開していた。チェンジアップ、カーブという球速の遅い2球種の被打率は低く、速球系の3球種の被打率は高くなっていたところにも、打たせて取る球と、空振りを狙う球の違いが表れているといえよう。

 不振だった2020年はツーシームの代わりにスライダーを用いていたが、3球種が被打率.300を超えるなど苦戦した。だが、2021年は再びレパートリーに加えたツーシームの球速が向上し、150km/hを超えることも珍しくはなくなった。加えて、3シーズン全てで安定して被打率が低かったチェンジアップもさらに進化し、低めに制球して三振を奪えるように。この2球種の被打率がとりわけ低くなっているのも、その威力と精度の表れといえよう。

 また、カットボールと速球・ツーシームとの間に球速差が生まれたことにより、チェンジアップよりもやや速いカーブも含めた、4つの球速帯で勝負ができるように。2018年には同じような速度から逆方向に曲がるカットボールとツーシームを活かしていたが、また違ったかたちで的を絞りづらい投球スタイルを構築している。

不屈の闘志で復活と進化を遂げた右腕は、後半戦も輝きを放てるか

 打たせて取る投球から多くの三振を奪うスタイルへの転換が奏功し、安定感が大きく向上。それに加えて、持ち味だった制球力の復活や、被本塁打の減少といった要素も、現在の好投へとつながっている。故障前の自分の幻影を過度に追い求めることなく、投手としての完成度をさらに高めた姿勢と、故障と不振を乗り越えてカムバックを果たした不屈の闘志は、見事の一言に尽きるだろう。今後もどんな投球を見せてくれるか。ぜひ、注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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