コロナ直撃の台湾プロ野球、2カ月ぶりにリーグ再開、今後は有観客での開催目指す

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2021.7.31(土) 10:30

(C)中華職業棒球大連盟(CPBL)
(C)中華職業棒球大連盟(CPBL)

一軍公式戦開催は実に56日ぶり

 7月13日、台湾に56日ぶりに球音が戻ってきた。この日、台湾南部、台南市の台南球場では楽天モンキーズと統一セブンイレブンライオンズの試合が、中部、雲林県の斗六球場では味全ドラゴンズと富邦ガーディアンズの試合が行われた。台南の試合は、ホームの統一が初回に先制、4回には4番林安可の「祝砲」となるソロホームランも飛び出し、8対1で勝利。降雨の影響で約1時間遅れで始まった斗六の試合は、暫定的に同球場をホーム球場とした富邦が8回、一挙7得点の猛攻をみせ、9対5と逆転勝ちした。試合は無観客で開催され、ファンはテレビを通じての観戦となったが、台湾プロ野球の再開は、巣ごもり生活が続き、気持ちがふさぎ気味だった人々を元気づけた。

 台湾プロ野球は昨季、コロナ禍においてプロ野球リーグとして世界に先駆け開幕し、有観客試合も最初に行った。台湾プロ野球を運営するCPBL(中華職業棒球大連盟)は今季も、台湾の新型コロナウイルス対策本部、中央感染症指揮センターの専門的な判断に基づき、防疫対策を行ってきた。今季は開幕から、場内でのマスク着用を義務付けたうえで、座席での飲食は可能とし、入場者の上限も収容人数の78%と、昨季の台湾シリーズ並みに引き上げ、開催してきた。

 しかし、5月11日、クラスターを含め、感染経路が不明な感染者が複数発見された。昨年、台湾では約8カ月間に渡って市中感染が発生していなかったこともあり、人々に大きなショックを与えた。中央感染症指揮センターによる「感染状況警戒レベル」2級への引き上げを受け、CPBLは「梅花席(梅の花の形のように指定席の前後左右を空席とする座席配置)」の実施、観戦中の飲食の禁止などを決定した。当初、飲食禁止にはファンから戸惑いの声も起きたが、翌12日、感染者数がさらに増えたため、無観客となった。

 市中感染の拡大は止まらず、5月15日、感染者が特に多かった北部の台北市と新北市の「感染状況警戒レベル」が、4段階の内、上から2番目の3級に引き上げられ、15日、16日に両市で開催予定だった試合が延期となった。そして、17日、CPBLはその週の全試合の延期を決定、さらに19日、「感染状況警戒レベル」が台湾全域で3級となったことを受け、台湾プロ野球は一軍、二軍ともに休止となった。

五輪最終予選の開催、本戦出場もコロナで断念

 新型コロナウイルスの市中感染急拡大は、台湾代表の東京五輪への道も阻むこととなった。台湾では元々、CPBLが主導的な立場で、台湾を含め5チームが出場する東京五輪の世界最終予選を6月16日から20日まで、中部の台中市などで開催する予定であった。

 しかし、市中感染の拡大に加え、政府により、居留証(ARC)をもたない外国人の入国停止が決定、関係者はこうした状況下での大会開催は困難だと判断し、5月20日、スポーツ行政を担う教育部體育署が正式に開催返上を発表した。
   
 その後、世界最終予選はメキシコでの代替開催が決定したが、メキシコも台湾同様に感染状況が深刻であるなか、CPBLは出場選手の健康面を考慮し、大会への出場辞退を表明した。

 CPBLの蔡其昌・コミッショナーはかねてより、CPBL主導で最強のナショナルチームを結成し、地元ファンの大声援を背に最終予選で出場権を獲得、五輪では過去最高となる金メダルを目指す、と公言していた。それだけに、最終予選出場辞退については「断腸の思い」と悔しさをにじませた。

 CPBLによる出場辞退表明後、アマ球界を統括するCTBA(中華民國棒球協會)が、国内のアマ選手、米マイナー選手、FA選手らによりナショナルチームを結成、最終予選出場へ出場するプランを打ち出した。実際にコーチ陣や選手の選抜のほか、国内合宿の準備も行ったが、市中感染が拡大していた中、合宿を受け入れる地方自治体はなく、また開催地メキシコの防疫対策も十分に安心といえるレベルではなかったことから、結果的に出場を断念、野球競技台湾代表の東京五輪出場への望みは、完全に断たれることとなった。

リーグ再開へ向けた防疫対策

 台湾全域に対する「感染状況警戒レベル」3級の実施は、当初5月28日までとされていたが、5月25日、6月14日まで延長され、6月7日に再び、6月28日まで延長された。

 一時は1日700人を突破した感染者数は、次第に落ち着きをみせ、6月21日にはようやく二桁まで減少、こうした中、CPBLも6月29日からのリーグ再開を目指し、體育署(日本で言うスポーツ庁)と中央感染症指揮センターへ防疫計画を提出した。

 CPBLの防疫計画は、「リーグ再開前、選手・指導者、リーグ及び中継局スタッフは全員、抗原検査を実施(再開後も週1回実施)」、「試合は感染状況が比較的落ち着いている地域で開催」、「全ての関係者は同一の場所に宿泊し、名簿を管理」、「球場への出入りは団体行動、個人での移動は禁止」、「個人での外出、外食の禁止」、「観客の入場と、メディアの球場での取材禁止」、「1チーム内の濃厚接触者が14人を越えた場合、同チームの試合出場を見合わせる」という内容であった。

 その後、南部でデルタ株の市中感染が確認された影響を受け、6月29日の再開は延期となり、一週間後、7月6日のリーグ再開も、北部でのクラスター発生により見合わせとなったが、7月8日、中央感染症指揮センターは、「感染状況警戒レベル」3級については7月26日まで再延長するとした一方、12日から一部の規制について緩和を行うと発表、台湾プロ野球もこれらの緩和の対象となった。そして、各球場所在地の自治体も試合の開催を認め、実に56日ぶりとなるリーグ再開が決定した。

 7月13日のリーグ再開後、防疫対策が確実に実行されたことを受け、16日には、北部の台北市、新北市、そして南部の高雄市も翌週からの試合開催を許可、北部の両市が本拠地の味全、富邦は、本拠地で試合が開催できるようになった。また、20日からは、メディアについても、選手、関係者同様の厳しい防疫対策を行うことを条件に、球場への入場が認められた。

リーグ休止の影響と今後の計画

(C)中華職業棒球大連盟(CPBL)
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 リーグ休止期間、各チームは、感染防止に気を配りながら紅白戦を行うなどして調整を行ってきたため、選手たちは再開後もすぐに高いパフォーマンスを発揮している。
 
 しかし、2カ月にも及ぶ休止の影響が全くなかったわけではない。6勝、防御率1.07と、統一のローテーションの軸として活躍していた右腕、テディ・スタンキウィッツと、リーグ奪三振2位、富邦の左腕、マニー・バニュエロスがメキシコ代表として東京五輪に出場するため、急遽チームを退団、いずれも五輪閉幕後も台湾に戻らないことが判明したほか、富邦は4勝をあげていたニカラグア人右腕、J.C.ラミレスも退団、メキシカンリーグへ移籍した。

 これらの外国人選手の退団についてはさまざまな理由が囁かれているが、2カ月間休止したことで、シーズン閉幕が12月に突入する可能性も高く、来季に向けた調整が難しくなること、また、オフの期間、ゆっくり家族と過ごせなくなることが原因、という指摘もある。

 このほか、シーズン長期化が余儀なくされるなか、公式戦の日程調整や選手の負担を考慮し、オールスターゲームは2年連続で中止となった。

 さらに、ようやく無観客での再開にこぎつけたものの、各球団にとっては入場料収入を得られないなかでの試合開催となっており、経営面への影響は計り知れない。こうしたなか、CPBLでは収容人数の25%を上限に、観客の入場を可能とする第2弾の防疫計画を提出した。

 読者の皆さんのなかには、台湾の一連の対応は慎重過ぎる、と思われる方もいるかもしれない。台湾においても、さまざまな産業が新型コロナウイルスの打撃を受け、零細自営業者や低所得者を中心に人々の生活にも影響を与えている。政府は各種の救済支援策を打ち出しているが、それでもさまざまな意見は出ている。ただ、台湾においては、「防疫最優先」という政府のスタンスに対し、国民のコンセンサスが得られているように感じる。こうしたなか、CPBLや各球団も、台湾社会の一員として、中央感染症指揮センターの防疫対策に呼応し、リーグ、球団を運営しているのだ。

 感染爆発から約2カ月、台湾の1日の感染者数は7月17日、ついに一桁の8人まで減り、この一週間ほどは平均20人前後を推移している。依然、感染源が不明なケースがあるうえ、致死率も諸外国に比べやや高く、日米などの支援もあり伸びてきたワクチン接種率も、1回目を終えた人がまだ30%前後、2回目を終えた人はわずか1%あまりと、決して油断はできない。ただ、制御はされつつあるといえる。

 7月23日、中央感染症指揮センターは、27日から「感染状況警戒レベル」を2級に引き下げることを発表、台湾プロ野球でも27日から、スタンドに、ゲームを盛り上げる応援団やチアガールたちが戻ってきた。今回のタイミングではCPBLが希望していた観客入場の解禁はならなかったが、その日も近づいているといえそうだ。

文・駒田英

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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