台湾プロ野球ドラフトレポート 陳冠宇(チェン・グアンユウ)は楽天モンキーズ、呂彥青(ル・イェンチン)は中信兄弟がそれぞれ1位指名

駒田英(パ・リーグ インサイト)

チェン投手&CPBL蔡其昌コミッショナー (C)CPBL
チェン投手&CPBL蔡其昌コミッショナー (C)CPBL

全体1位指名、富邦はMAX159km/h右腕、江少慶を指名

 7月12日、台湾プロ野球(CPBL)のドラフト会議が行われた。台湾では5月上旬から新型コロナウイルスの市内感染が急拡大、一、二軍の公式戦は中断し、ドラフト会議もオンライン開催となったが、MLB(傘下)や日本プロ野球でプレーした代表クラスの大物6選手を含め、史上最多の157名が参加するとあり、大きな注目を集めた。

 台湾プロ野球のドラフト会議では完全ウェーバー制を採用している。今年は、富邦ガーディアンズ、楽天モンキーズ、中信兄弟、統一セブンイレブンライオンズ、そして味全ドラゴンズ(今季から一軍に参入したため、くじ引きで決定)の順で、指名が行われた。

 1巡目、富邦は、2月下旬に練習生に相当する契約を結び、すでに二軍でも登板していたMAX159km/h右腕、江少慶を指名した。2018年、2019年とインディアンスの3Aでプレー、2019年のプレミア12でも先発の軸として安定した投球をみせた江少慶は、昨オフも日米数球団からオファーを受けていたというが、「いの一番」の指名権を獲得した富邦からの熱いラブコールに応え、台湾でのプレーを決断した。

江少慶投手&CPBL蔡其昌コミッショナー (C)CPBL
江少慶投手&CPBL蔡其昌コミッショナー (C)CPBL

 続く楽天は、社会人チームとの半年間の契約満了後、6月中旬に練習生契約を結び、チームの練習に加わっていた元千葉ロッテの左腕、陳冠宇(チェン・グアンユウ)を指名した。さらに、中信兄弟は元阪神タイガースの呂彥青(ル・イェンチン)、統一はレイズ時代、MLBでプレーした右腕の胡智為、そして、味全は元インディアンス3A、捕手の吉力吉撈.鞏冠(Giljegiljaw Kungkuan ※台湾原住民族パイワン族の名前)を指名、結局、5球団全てが日米のプロリーグでプレー経験のある即戦力選手を1位指名するかたちとなった。2巡目は各チーム、高校生に指名が集中、残り一人の「海外組」、元カブスの曾仁和は楽天が3巡目で指名した。
 
 日本の学生野球出身者では、統一が7位で、謝修銓(岡山県共生-天理大学-合作金庫)を指名したが、高校時代に選抜大会にも出場した蔡鉦宇(八戸学院光星-拓殖大学-福島レッドホープス-兵庫ブルーサンダーズ)は惜しくも指名漏れとなった。

 今年のドラフトは、新型コロナウイルスの影響で新人トライアウトが中止となったため、トライアウトの書類審査通過者95名が直接指名対象となり、参加者は史上最多の157名に達したが、指名選手は昨年より10人以上少ない37名に留まった。

楽天・陳冠宇はすでにチームメイトと息ぴったり、優勝への意気込み語る

 続いては、ファン注目、元NPBの2人について紹介しよう。まずは、元千葉ロッテマリーンズの陳冠宇だ。今回のドラフト中継は、指名ごとに各チームのブースが映し出されるかたちで行われたが、楽天の曾豪駒監督は、司会者が陳冠宇の名前を読み上げると、ファンにアピールするかのように、「チェンチェン大丈夫です!」と日本語で書かれたボードを両手で掲げた。

 指名直後、中継局のインタビューを受けた陳冠宇は、楽天球団の高い評価に感謝、チーム練習への参加期間も、曾監督や許銘傑投手コーチが全力でサポートしてくれたとして、「できるだけ早く桃園国際球場のマウンドに立ち、球団、監督、そしてチームメイト達の為に、優勝を勝ち取りたい」と抱負を述べた。一軍公式戦への出場が可能となる後期シーズンに向け、現在は先発投手として長いイニングを投げる為の調整を行っているといい、怪我なく、シーズンで実力を発揮したい、と意気込んでいる。

 練習参加から約1カ月、元々、ロッテ時代からモンキーズとは交流があったうえ、ナショナルチームのチームメイトも多いこともあり、すっかりチームに溶け込んでいるようだ。「先輩も後輩もとても親切で、面倒見がいい。あたたかいファミリーに加わることができ、とても嬉しい」というコメントからは、満足している様子がうかがえる。
 
 また、陳冠宇は、若手投手数人の名を挙げ、その潜在能力の高さを評価、そのうえで、彼らがスランプに陥った際には、自身の日本プロ野球での経験をもとにサポートしてあげたい、とも述べている。楽天の若手投手陣にとって、「チェン先輩」は心強い存在となりそうだ。
 
 チームを率いる曾監督も、陳冠宇の人柄に魅了されているようだ。曾監督は指名翌日、陳冠宇について、選手としての実力への高い評価はもちろん、彼の話し方や態度からはEQの高い選手ということが伺えると賞賛、さらに「陳冠宇の笑顔が好きだ。彼の笑顔は皆を楽しい気分にさせる」と「告白」し、報道陣を笑わせた。

呂彥青は、林威助監督率いる中信兄弟入り 

 一方、昨季限りで阪神タイガースを退団した呂彥青は、当初は海外でのプレーを希望していたが、2月に味全の練習に参加、その後、練習生契約を結び、味全二軍の一員として10試合(3試合先発)に登板、27回を投げ被安打16、28奪三振、失点3(自責2)、防御率0.67と活躍した。

 その後、6月中旬に味全との契約を終えると、中信兄弟の練習に合流、25歳と若く、先発もできる貴重な左腕とあり、指名が有力視されたなか、1巡目全体3位で中信兄弟の指名を受け、再び黄色を基調としたユニフォームに袖を通すこととなった。
  
 中信兄弟の林威助監督は、指名の理由について「呂彥青には3年の日本球界での経験がある。一軍登板は少なかったが(実際は未昇格)、彼の経験は現在の投手陣にとってプラスになる」と説明、期待を示した。
 
 呂彥青は、台湾でのプレーを決断したことについて、「プロ野球選手にとって最も必要なのは舞台だ。今の自分にとって台湾プロ野球はベストの選択なので戻ってきた」と説明、機会を与えてくれた中信へ感謝を示すとともに、実力を発揮し、チームの優勝のために貢献したい、と意気込んだ。

 呂彥青によると、約1カ月間の練習参加を通じ、チームメイトとも仲良くなったといい、阪神タイガースの先輩でもある林威助監督とは、日本での生活や阪神時代の練習について話をしたと語った。

 中信兄弟は、阪神同様、熱狂的なファンが多いことで知られるが、呂彥青は「プレッシャーはない。やるべきことをやり、しかるべきパフォーマンスをみせ、自分に恥じることないプレーができればいい」と決意を示した。
 
 起用方法については現時点では決まっていないというが、中信では後期シーズンスタート後、すぐに一軍登板ができるよう、早速、契約に向けた話し合いを進めていくという。ドラフト会議ではやや硬い表情であったが、もともと台湾では、陳冠宇と共に「微笑左投(笑顔のサウスポー)」というニックネームをもつ呂彥青、台湾プロ野球の環境に慣れたあとは、リラックスした表情もたくさんみせてくれそうだ。阪神では外国人枠の関係もあり、一軍昇格のチャンスをつかめなかったが、体もたくましくなり、昨季は開花の兆しも見せていた。大学時代から将来を嘱望されていた左腕の本格的なブレイクを期待したい。

ドラフト指名選手は、後期シーズンから一軍出場可能に

 冒頭でも触れたように、台湾では、5月中旬から新型コロナウイルスの市中感染が急拡大、5月18日から一軍公式戦が、5月19日からは二軍公式戦が一時中断となった。2カ月近い休止期間を経て、ようやく7月13日、一軍公式戦が無観客で再開された。
 
 ドラフト会議は例年、前期シーズン終了後に行われるのが恒例であったが、今年は、リーグ休止期間が長期間に及んだことから、前期シーズン中に開催される異例の事態となった。今年は即戦力の選手がドラフト会議に多く参加するなか、仮に、指名選手と正式契約後、即一軍でのプレーを可能とした場合、前期シーズンの各チームの戦力に大きな影響を与えることが必至であることから、GM会議で、本ドラフトの指名選手は、後期シーズンから出場可能とすることを決めた。
 
 使用球場の調整もあり、前期シーズンの詳細日程は明らかにされていないが、順調に残り試合を消化できた場合、前期シーズンは8月中旬ないし下旬にも終了、後期シーズンは8月下旬ないし9月初旬にもスタートできるものと思われる。つまり、早ければ来月の末にも、陳冠宇、呂彥青ら、元NPB勢の台湾プロ野球でのプレーが見られるわけである。なお、台湾プロ野球は、有料のOTT、CPBLTVなどを通じ、日本からも中継観戦が可能だ。
 
 同時に楽しみなのがグッズの販売だ。特に各球団のドラフト1位の選手たちは正式加盟後、すぐにさまざまなグッズが販売されるものと思われる。ちなみに、陳冠宇は指名後、中継局のインタビューに対し、キャリア初となる、名前が中国語で記されたユニフォームに袖を通すことを楽しみにしていると話していた。なお、楽天モンキーズのグッズは、日本の楽天市場でも購入が可能となっている。残念ながら、今季も日本から台湾の球場へ応援にかけつけることは厳しそうだが、モニターの前でグッズを身に着けて声援を送れば、気分も盛り上がりそうだ。

文・駒田 英

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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