台湾プロ野球に驚異の新人現る。味全の20歳右腕、徐若熙

2021.4.19(月) 17:00 駒田英
写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL
写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL

初登板は11のアウト全て三振、3試合12.1回で26奪三振の衝撃デビュー

 開幕から1カ月あまり経った台湾プロ野球から、注目のトピックをご紹介しよう。今、台湾の野球ファンの間で一番ホットな話題となっているのが、今季から一軍に参入した味全ドラゴンズの新人右腕、20歳の徐若熙(シュー・ルオシー)だ。
 
台湾原住民族、プユマ族の血を引く徐若熙は2000年に北部・桃園で生まれた。地元の強豪、平鎮高校の主力投手の一人として活躍、高校卒業後、2019年の台湾プロ野球ドラフト会議で、味全から1巡目全体6位(味全は4巡目まで1巡につき各2名の指名権を保有)で指名された。

 昨年4月、肘の骨棘を切除する手術を行ない、秋に復帰したため、昨季は二軍公式戦以外を含めても約40イニング投げたのみ、しかし、リハビリ期間のウェイトトレーニングとフォーム改造により平均球速はアップ、10月に行われた二軍チャンピオンシップで台湾プロ野球所属の台湾人投手最速タイとなる157km/hをマークし、注目を集めた。そして、元メジャーリーガーの王維中に次ぐ、チーム二番手の先発として、開幕2戦目、3月17日の中信兄弟戦を託された。

 徐若熙はその期待に応え、いきなり三者連続三振という素晴らしい立ち上がりをみせた。2回に2本の内野安打、3回には3塁打を打たれたものの、平均約150km/hの直球と、スプリットチェンジを主体にカーブ、スライダーを交え、次々に三振を積み重ねていき、4回2死、62球を投げた場面で球数を考慮し降板するまで無失点、何と11のアウト全てを三振で奪うという衝撃的なデビューを果たした。味全はその後も、抑えの田澤純一まで4投手が無失点リレーをみせ、4対0で勝利、実に7819日ぶりとなる一軍公式戦勝利をあげた。

 3月23日は楽天モンキーズ戦に先発、2回、連打で迎えたピンチも、併殺打に打ち取り1失点のみに食い止め、4回を54球、被安打3、1失点、5奪三振と好投、テンポのいい投球に打線も乗せられ4回までに7得点、この日もチームは白星をつかんだ。

 そして3月28日、本拠地、天母球場で行われた富邦ガーディアンズ戦に中4日で先発すると、この日も三振の山を築いていった。4回まで被安打1、8奪三振も、55球投げており降板かと思われたが続投、初めて5イニング目のマウンドに立った。その5回、先頭打者を三振に仕留めた後、ヒットと死球で1、2塁のピンチをつくったが、高校の先輩、戴培峰を150km/hで三振に切ってとった場面で上限の70球に達し降板した。2対0とリードしており、あと一人抑えれば勝ち投手の権利を得られる場面であったが、笑顔でマウンドを後にした。この日も、4回2/3を投げ、被安打2、四死球2、奪三振10、無失点という見事な内容であった。

 デビューから3試合で12回1/3を投げ、被安打8、四死球3、26奪三振(奪三振率18.92)、防御率0.73という驚くべき数字を叩き出した徐若熙、MAX157km/h、平均球速約150km/h、伸びのある直球が投球の軸だが、高い奪三振率を支えているのがスプリットチェンジだ。昨年10月に、郭勝安投手コーチのアドバイスで覚えたというスプリットチェンジは、徐によれば、握りは、かつて投げていたというフォークと同じでありながら、フォークのように意識して挟んで落とそうとはせず、ストレートのように素直に投げるのだという。平均135km/h前後と一定のスピードがあり、ベースに近いところで変化するため、見極めがしづらく、また、横への変化も大きいことから、特に左打者に有効なボールとなっている。初戦の11奪三振のうち左打者から9つの三振を奪ったが、このうち6つがスプリットチェンジであった。

 他チームの首脳陣も賛辞を惜しまない。中信兄弟の林威助監督は、投球時、打者から、踏み込み足の足の裏が見える徐若熙のフォームについて、千賀滉大(福岡ソフトバンク)、山岡泰輔(オリックス)、さらには前田健太(ミネソタ・ツインズ)らの名前も挙げ、「股関節の使い方が日本の投手のようだ」と指摘、柔軟な股関節が直球の伸びを生んでいると評価した。そして、「将来、日本でプレーする可能性もある」と述べ、さらなる成長を期待した。

球数制限による「保護」も、4試合目は左膝違和感で2回途中降板

 読者の中には、チームが徐若熙を二番手の先発として期待していながら、なぜ早く降ろしてしまうのか、「過保護」ではないかと疑問を持たれた方もいるだろう。実際に台湾でもそうした声は出ている。ただ、味全では、徐若熙がまだ若いこと、高校時代及び昨年と2度、肘の骨棘を切除する手術を行っていること、また高校時代も救援が主体であったことなどを考慮した上で、概ね一試合4イニングないし70球まで、最多でも5イニング、80球とする方針を定めている。こうした球数の制限についてはグレッグ・ヒバード投手コーチに一任されているというが、葉君璋監督も、今季は年間100イニング以上投げさせることはないと明言、3年計画で一般の投手並みに球数を増やしていく、と述べている。

 しかし、4月3日、上限を「75球、5イニング」に設定し先発した統一ライオンズ戦で予期せぬ事態が起こった。初回、2三振を含め三者凡退に抑えた徐若熙だったが、冴えない表情でベンチに引き上げると、葉監督、ヒバード投手コーチ、トレーナーらが徐を取り囲んだ。徐若熙は2回も続投したものの、連続ヒットでピンチをつくり、3人目の打者への初球が外角に大きく外れると、葉監督はベンチを飛び出し、既にブルペンで準備させていた廖文揚にスイッチした。試合後に発表された交代理由は、左膝の「膝蓋腱炎(ジャンパー膝)」であった。葉監督によると、3月23日の楽天戦で違和感を覚えたといい、ほぼ回復したため先発させたが、2回以降、制球が乱れ、ベースカバーもできなかったため、交代を決断したと説明、「膝を痛めたまま無理させると、今度は肩を痛めることになる」と述べた。

 登録抹消、休養を経て中10日の先発となった14日の中信兄弟戦は、70球を上限として登板した。速球主体の組み立てで2回までに3つの三振を奪い、MAX153km/hをマークしたものの、3回途中から速球が高めに抜けるようになり、甘いコースに入った球もあった。また、初登板で三振の山を築いたスプリットチェンジもほとんど投げなかった。4回は球速も落ち、先頭打者に四球を出したが、次の打者をフルカウントから併殺打に打ち取った場面で降板、3回2/3、48球、被安打0、1四球、3奪三振、無失点という内容であった。本人は試合後、身体は問題ないと強調、「ブルペンでの調子は良かったものの、久しぶりのマウンドで制球に苦しんだ」と打ち明けた。

 本人にとって、この2試合はいずれも納得のいかない内容だったといえそうだが、徐若熙のプロでのキャリアは始まったばかりだ。今後、大きな怪我にはくれぐれも気をつけながら、まずは先発投手として十分な球数を投げられるよう、フィジカルを強化してもらいたい。そして、台湾プロ野球を代表する投手に成長し、国際大会で活躍する姿もみてみたいと思う。なによりも、台湾プロ野球に、こうした見る者をワクワクさせるスケールの大きい投手が生まれたこと、特に復活した味全ドラゴンズに新たなスター選手が生まれたことは、台湾プロ野球全体にとってもすばらしいことだといえる。今季は、各チームで、2000年以降生まれの若い投手が活躍している。彼らが互いに刺激を与えあうことによって、リーグ全体のレベルアップにつながることを期待したい。

文・駒田英

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