若い投手陣をリードし、代打でも6打数2安打と結果を残す
北海道日本ハムにFA移籍した鶴岡慎也捕手が、存在感を発揮している。5年ぶりに戻った古巣で、若い投手陣を好リード。代打としても期待され、6打数2安打と結果を残している。
6日の本拠地千葉ロッテ戦では、初めて組む加藤貴之投手を引っ張り、7回途中5安打1失点で今季2勝目に導いた。吉井理人投手コーチは「ツルがカーブ、緩急を上手く使ってくれて、持ち味の強い真っすぐがうまく生かせた」とベテランの好リードを評価した。
北海道日本ハムと福岡ソフトバンクで7度のリーグ優勝を経験した37歳の優勝請負人は、着実にチームを勝利に導いている。鶴岡が先発出場した試合はここまで7勝4敗。「本当にピッチャーがよく頑張っていると思いますよ」と真っ先に投手陣を称えるところに、首脳陣や選手から厚い信頼を寄せられる人柄がにじみ出ている。
代打として、ファンの心をつかんだのは3日本拠地での楽天戦だった。1点を追う7回1死から清宮が右前打、代打の杉谷も内野安打で続き、1死一、二塁の絶好機。代打で登場した鶴岡は、楽天の辛島-嶋のバッテリーとの駆け引きの末、痛烈な中前打を放ったのだ。直後に清水の逆転満塁打が飛び出し、チームは連敗を3で止めた。
捕手ならではの読み勝ちだったに違いない。そう思ってあの打席を振り返ってもらった。
栗山監督が敵として見ていた鶴岡の打撃「ここ一番の勝負強さをものすごく持っていたから」
「もちろんキャッチャー心理で打席に入りましたよ。代打が出てきて、自分なら初球どう入ろうかなって」
◯1球目(外角低めチェンジアップ=ボール)「チェンジアップを狙っていました。だからバットが止まった。あれがストレートなら空振りしていましたね」
◯2球目(内角のチェンジアップ=ボール)「真っすぐで来るかなと思っていたら、チェンジアップでボール。この時点でもうフォアボール狙いです」
◯3球目(外角低め直球=ストライク)には手を出さなかった。
◯4球目(外角直球=中前打)「球種は問わず、甘かったら打ちにいこうと考えていました。チェンジアップをひっかけてゲッツーだけは嫌だなと気を付けていました」
完璧にとらえた当たりでチャンスを広げたこの場面。途中で四球を狙っていたとは意外だった。「いや、本当ですよ。俺が打って決める場面じゃないでしょ。あれが二、三塁ならまた違ったでしょうけど。謙虚な気持ちは大事です。どうせ打てない作戦です」と鶴岡は明るく笑い飛ばした。
栗山英樹監督は昨年12月に鶴岡入団が決まった際、こんな話をしていた。「苦労をして上り詰めた選手の底力みたいなものがある。(対戦相手として)ツルのバッティングがすごく嫌だった。ここ一番の勝負強さをものすごく持っていたから」。何度も修羅場をくぐり抜けてきた男の代打起用は再入団時から想定していたものだった。
今季代打ではここまで6打数2安打。代打での心構えを鶴岡に聞くと「今度、関本さんに聞いてみよう」と笑った後でこう答えた。「難しいですよね。パッと出て行って打てるわけがない。俺みたいに何も考えていない方がいいのかも」
21歳の清水にも大きな影響、栗山監督も「優心にとってプラスになっている」
もちろん何も考えていないはずはない。その言葉の真意は邪念を持たないという意味ではないか。目の前の1球毎に、勝利への最善策を探り、泥臭く実行していく。それは代打でもほかの打席でも、守備でも変わらないのだろう。今季の打撃成績は38打数11安打1打点、打率.289の好成績だ。
先発マスクは21歳の清水優心捕手に譲ることが多いが、試合中はとにかく忙しい。ブルペンでリリーフ陣のボールを受けたり、代打の準備をしたり、後半の守備機会に備えたり。「やることがあった方がいいのかもしれないです。出てなくても試合をしている感じなので」。常にゲームに集中していることが、余計なことを考えずに、代打でスッと打席に入る極意なのかもしれない。
清水の逆転満塁弾に湧いた3日楽天戦の試合後、栗山監督は鶴岡の野球に取り組む姿勢を絶賛していた。「試合を出ようが出まいが、前向きな準備の仕方とか一生懸命な考え方とかいうものが、(清水)優心にとってプラスになっている。そういう意味でも本当にツルに帰ってきてほしかった」と若い清水に与える波及効果にも大いに期待している。
実際、鶴岡は清水にどんな助言を送っているのだろうか。「聞かれたら答える程度ですよ。今は自分の感性を研ぎ澄ませた方がいい。ここはキャッチャーの感性を大事にしてくれる球団だから。まだ大学(なら)4年生。俺が21歳の頃はプロに入ってまだファームでも試合に出てないですよ」と豪快に笑った鶴岡。その大きくて温かい37歳の存在感が、若いチームにじんわりと変化をもたらしている。
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