東京五輪で“再会”も? ブランドン・ディクソンの8年間の足跡を、数字と映像で振り返る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

ディクソン投手(C)パーソル パ・リーグTV
ディクソン投手(C)パーソル パ・リーグTV

2013年の入団以来、オリックスの投手陣を支え続けてきたディクソン投手

 ブランドン・ディクソン投手は2013年にオリックスへ入団して以来、2020年シーズンまで8年間にわたって奮闘を続けてきた。在籍9年目となる予定だった今季も活躍が期待されたが、新型コロナウイルスの影響で家族の来日が難しくなった影響もあり、5月27日をもって自由契約に。持ち場を問わずにチームに貢献し続けた助っ人右腕の退団は、多くのオリックスファンから惜しまれた。

 今回は、そんなディクソン投手がオリックスに在籍した8年間で見せた投球について、実際の映像や数字をもとに振り返っていきたい。ナックルカーブを武器に、チームに求められた役割で結果を出し続けた優良助っ人の足跡を見ていきたい。

先発だけでなく、最後の2年間はクローザーとしても登板を重ねた

 まず、ディクソン投手がNPBでの8年間で記録した、年度別成績を見ていきたい。

ディクソン投手 年度別成績(C)パ・リーグ インサイト
ディクソン投手 年度別成績(C)パ・リーグ インサイト

 来日1年目の2013年から先発として防御率2点台の好投を見せると、2014年にはチームが福岡ソフトバンクとの熾烈な優勝争いを演じるなかで、先発陣の一角として奮闘。この年の先発陣は強力リリーフ陣の影響で継投が早くなる傾向にあったが、規定投球回に到達していたことも特筆に値するだろう。

 その後も先発陣の中心的存在の一人として活躍を続け、2014年からは3シーズン連続で9勝を記録。毎年あと一歩のところで2桁勝利には手が届かなかったものの、2015年にはキャリアベストの防御率2.48を記録するなど、一定以上の働きが常に計算できる投手だった。2018年は初めて投球回が100を割り込んだものの、防御率は例年通りの安定感を保っていた。

 長年先発として活躍してきたディクソン投手だったが、2019年は自身が故障で出遅れたことに加え、抑え不在のチーム事情もあり、一軍への合流後はクローザーとして登板を重ねた。故障明けかつ、シーズン途中からの抜擢にもかかわらず、新たな持ち場でもチームの穴を埋める活躍を見せ、マルチな才能の一端を垣間見せた。

先発時代は典型的な「打たせて取る投手」だったが……

 続けて、ディクソン投手が記録した各種の投球指標を紹介しよう。

ディクソン投手 年度別各種指標(C)パ・リーグ インサイト
ディクソン投手 年度別各種指標(C)パ・リーグ インサイト

 ディクソン投手は取ったアウトの内訳におけるゴロアウトが占める割合が多い、典型的な“グラウンドボールピッチャー”として知られた。打たせて取る投球スタイルを軸としていたことは、通算奪三振率が6.79という数字にも裏付けられている。

 具体的な例としては、奪三振率が7.30と比較的高かった2016年は、防御率が4.36とNPB移籍後ではワーストの数字に。その一方で、奪三振率5.69と最も低かった2017年の防御率は、3点台と大崩れしていなかった。こうした傾向からも、奪三振が多いシーズンは好調、とは一概に言えない投球スタイルだったことがうかがえる。

 また、ディクソン投手は投球内容そのものだけでなく、制球面においても一定の水準を保ち続けていた。先発時代の与四球率は6年連続で3点台以下と、どのシーズンも大崩れはせず。奪三振が多くはないにもかかわらず、K/BBが2.00を下回った年は2度のみという点も、その制球力の証明と言えよう。特に、2017年以降は2年続けて与四球率が2点台とより安定度を増しており、ベテランとなってからの投球にはより円熟味が加わっていた。

 しかし、2019年に先発からリリーフへ転向してからは、ディクソン投手のピッチングスタイルにも少なからず変化が見られた。2019年には来日後初めて奪三振数が投球回を上回った代わりに、与四球率は2年続けて4点台に。打たせて取る投球が持ち味だった先発時代とは異なり、より空振りを狙っていく方向へとシフトしていたことがうかがえる。

 以前とは大きく異なる投球スタイルに変化したにもかかわらず、リリーフ転向後も防御率は2年続けて3点台と、一定水準の投球を見せていた。クローザーとして絶対的な安定感とは言えなかったものの、これらの数字は、持ち場の変化に応じたスタイルの転換と、それを可能にしたディクソン投手の引き出しの多さ、ならびに高い適応力を示したものでもある。

代名詞ナックルカーブの他にも、大きな武器が

 次に、ディクソン投手が持っていた“2つの武器”について、映像とともに紹介していこう。

《PLAYER OF THE DAY》ディクソンのナックルカーブ

 ディクソン投手の最大の武器といえば、通常のカーブよりも球速が速く、大きく縦に変化するナックルカーブだ。ストライクゾーンに入れて見逃しでカウントを取ったり、打者のタイミングを外して内野ゴロを打たせるだけでなく、落差の大きい日には、三振を奪うための決め球としても機能する。投球の軸としてあらゆる用途に使うことができる、まさに“魔球”と呼ぶに相応しいボールだろう。

バファローズ・ディクソンの高速けん制

 ディクソン投手は投球技術のみならず、素早いターンからの巧みなけん制という技も持ち合わせていた。1試合で2度一塁走者をアウトにした、2016年8月13日の埼玉西武戦の動画には、相手チームの走者との駆け引きや、タッチアウトに至るまでの一連の経過が収録されている。まさに、ディクソン投手のけん制の巧さが詰まった映像と言えよう。

“三振を奪う試合のディクソン投手”の持ち味が詰め込まれた、2つの快投

 ここからは、実際にディクソン投手が見せた印象的な投球を、実際の映像とともに振り返っていきたい。

バファローズ・ディクソン KKKKKKKKKK

 先述の通り、先発時代のディクソン投手は打たせて取るピッチングを展開するケースが多かった。しかし、試合によっては落差のあるナックルカーブを活かし、おもしろいように空振り三振を奪う試合もあった。2016年9月11日の千葉ロッテ戦はまさにそのナックルカーブの出来が抜群で、8回10奪三振の快投を繰り広げた。まさに、「三振を奪う試合のディクソン投手」の投球内容を端的に示した試合だったと言える。

バファローズ・ディクソン 9回146球12奪三振で4年ぶり完封勝利

 2018年7月17日の北海道日本ハム戦では、速球と持ち前の多彩な変化球が冴え渡り、9回無失点12奪三振と、圧巻の投球で相手打線を封じ込めた。146球を投じて一人で投げ抜くタフネスぶりも発揮し、実に4年ぶりとなる完封勝利を飾った。この勝利はディクソン投手だけでなく、開幕から先発投手の完投が1度もなかったチームにとっても、不名誉な記録をストップさせる、非常に大きな価値のあるものだった。

2021年のうちに、ディクソン投手が再び日本の地を踏む可能性も

 抜群の切れ味を誇ったナックルカーブと、けん制のような小技も含めた投手としての技術の高さを武器に、オリックスの投手陣を支え続けたディクソン投手。それだけでなく、真面目な性格で、チームメイトの助っ人にも助言を惜しまず、来日後に生まれた娘に「ナラ」と名づけるなど、日本の球界や文化へのリスペクトも持ち合わせた、優れた人格の持ち主としても知られていた。

 残念ながら2013年から在籍したオリックスを離れることになったが、今年、日本の地でファンと“再会”する可能性があるのをご存じだろうか。フリーエージェントの選手やMLB球団傘下の選手で構成されている、2021年の東京五輪に向けた野球アメリカ代表のロースターの一員として、ディクソン投手の名前が登録されているのだ。

 ディクソン投手は昨季、家族の来日が叶わなかったために、単身赴任で登板を続けていた。今季は家庭の事情で退団することになったが、単身かつ短期間での来日というかたちで、再び日本の地を踏むかもしれないということだ。ディクソン投手の雄姿と、打者を手玉にとる宝刀・ナックルカーブが、日本のマウンドで再び披露されることを、今から心待ちにしたいところだ。


文・望月遼太

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