千葉ロッテ、勝利の名物儀式はキャプテンの心意気で誕生

パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

2016.12.27(火) 00:00

千葉ロッテマリーンズ ※球団提供
千葉ロッテマリーンズ ※球団提供

2016年シーズン、マリーンズに勝利の儀式があった。試合終了のアナウンスが流れると、キャプテンの鈴木大地内野手は、声をかけた選手たちを連れてライトスタンドに走り出す。「マリーンズ、勝ちました!」。拡声器片手に勝利の喜びをスタンドのファンに伝え、「WE ARE」と3回、連呼。最後に選手たちが肩を組み、「CHIBA LOTTE!」と何度も叫びながら、飛び跳ねる。3月25日、ファイターズとの開幕戦から始まった本拠地での勝利の儀式。今シーズン、マリンでの勝利ゲーム全試合で行い、選手とファンによる「WE ARE」はマリン名物として、すっかり定着した。それは主将の、ファンと一体になりたいとの強い想いから始まった。

「勝利を共有して、みんなで楽しむ。一緒に飛ぶことで、より一体感が出たと思います。楽しかったし、自分はやって良かったと思っています。いろいろな方に『良かったよ』と言ってもらえる。嬉しいですね」

他球団にも認知されるほどの名物となったこの「WE ARE」。それはキャプテンの一言で決まった。あれは毎年2月に石垣島での春季キャンプ中に行われる選手会と球団とのミーティングでのこと。毎年、そこで大まかなファンサービスの内容が議論される。開幕セレモニーやシーズン中イベントの概要など一通りの議題が終わった時、話題は「WE ARE」になった。元々、昨年の2015年シーズンに球団側の提案を選手側が組む形で試験的に数試合、行った。ただ、過去にプロ野球ではやったことがない試みということもあり、チーム全体でみると戸惑いを感じさせる雰囲気があった。その感覚は受け取るスタンドのファンも感じ取ってしまっていたように思えた。

継続するか、同じような趣旨ではあるものの、なにか新たなことに切り替えてチャレンジするか。意見は分かれた。「戸惑いながら、照れながら行っていてはファンも喜ばない。無理して続けるより、ここは一回、方法を考え直すのが手かもしれない」。一人の球団職員が意見をした。一時は、その方向で会議はまとまりつつあった。その時、突如、鈴木が手を挙げた。「ちょっと、待ってください」。会場にいた全員が主将に注目をした。静かに立ち上がるとキッパリと言った。「続けましょう。続けたいです。せっかく、ファンとの方と一体になるように何かできないかと考えて試みたことを一年であっさりと止めてしまうのは、僕はどうしても嫌です。僕が率先して選手を連れて、中心になってやりますので、続けましょう」。少しの沈黙が続いた。今度は球団職員が話し出した。「続けてくれるという積極的な意見はありがたいし、大変嬉しい。大地(鈴木)が率先して行ってくれるという姿勢は助かる。ただ、それをシーズン途中で止められたり、今日はやらないという日があったりしては困る。時には大地が体調の悪い日もあるかもしれない。勝ったけれど、君自身はミスをしたり、チャンスの場面で凡退したりして出たくないようなこともあるかもしれない。それでもやってくれるのかな?」。建設的な意見ではないが、それは事前にしっかりと意見を酌み交わさないといけない大事なことだった。長いシーズン、何が起こるか分からない。いい時もあれば、必ず悪い時もある。予期もしないマイナスな出来事も多数、発生するものだ。夏場は疲れがドッと出る。もしかすれば、率先して勝利の儀式を行う鈴木が試合に出られずにベンチを温める日があるかもしれない。それでも勝ったら、中心となって元気よくライトスタンドに行ってくれるのか。その覚悟を最初にハッキリと問う必要は確かにあった。

「もちろん、行きます。ファンの方に喜んでもらうために絶対にやります。昨年みたいな特定の何試合か限定ではなく、僕は全試合やります!」

キャプテンの心は固まっていた。ブレることが絶対にない強い信念に、会場にいた全員が圧された。こうして、本拠地マリンで勝利した試合では、選手たちが自分たちで人選をして、率先してライトゾーンまで走り、拡声器を手にしての勝利の儀式を行うことが決まった。過去のプロ野球の歴史を紐解いた時に前例が見当たらない、まったく新しいファンサービス。それは主将の強い決意から生まれた。

「僕にとっては誇りです。あれは他球団にも過去にもないこと。ファンの方々と僕たちが勝利の喜びで一つになれる瞬間だった。もちろん、ミスをしたり、調子が悪くて悩んでいる日もありました。特に今年は自分自身の思い通りの結果が出なくて辛いこと、悔しいことが多かった。雨の日もあった。それでも、外野に行って一緒に飛び跳ねていると、不思議と気持ちが晴れやかになったんです。それにあの時、『僕は絶対に行く!』と約束をした。ファンの方から直接、意見を聞いたわけではないので、何とも言えませんが喜んでくれたのではないかと信じています。僕はあの時、『やりたい』と意見をして本当に良かったと思っています」

マリーンズは2016年シーズン、本拠地で38勝をした。だから、38回、「WE ARE」をした。最初はぎこちない部分もあった。が、徐々に形ができた。最初は不安で一杯だった。ファンが受け入れてくれるだろうか。仲間たちは一緒にやってくれるだろうか。そもそもイメージ通りにうまくできるのだろうか。ただでさえ、キャプテンとしてチームをまとめる重い任務を背負っていながら、背番号「7」は自ら率先して動き、新たな挑戦をした。スタンドではファンが肩を組み、飛び跳ねていた。試合前に小さな子供たちから「今日、WE AREしましょうね」と声を掛けられることがなによりも嬉しかった。グラウンドでは選手たちも拡声器でスピーチをして率先して喜びを表現してくれた。その中心にいたのは間違いなく背番号「7」だ。12球団でマリーンズにしかない誇れる勝利の儀式。それはキャプテンが魂を込めて作り上げた手作りのイベント。みんなでマリーンズの勝利ということに、心が一つになれる最高の瞬間だった。

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パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

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