「2年目のジンクス」は、若手選手がブレイク翌年、周囲からの研究や前年の疲労の影響で成績を落とすことを指す。その性質上、前年の新人王がそう言われることは少なくない。
2020年のパ・リーグ新人王は、埼玉西武の平良海馬投手だ。高卒3年目ながら、160km/hの剛速球を武器に勝ちパターンに定着し、楽天・小深田大翔選手との新人王争いに競り勝った。2021年は「ブレイク翌年」にあたり、2年目のジンクスの可能性を囁かれることになるわけだが、おそらくその心配は無用だろう。
新人王以前から信頼を得ていた平良投手
平良投手の年度別成績を見ると、ルーキーイヤーの2018年は一軍登板が一度もなく、2年目の投球回は24イニングだ。もちろん2020年開幕前は新人王の条件(一軍通算投球回が30イニング以内)を満たしており、その意味では、ルーキーと同様に評価される立場だった。しかし、2019年のシーズン終盤はすでに一軍のブルペンに定着し、クライマックスシリーズではセットアッパーとして起用されたという事実は見逃せない。
平良投手は新人王を獲得する前年、ブレイクとまでは言えないまでも結果を残していた。そして翌年期待に応えて飛躍しているため、そもそも2年目のジンクスの対象とは言えないかもしれない。なんにせよ、2021年に平良投手が苦しむ可能性は低いだろう。なぜなら平良投手のように、「前年までに15イニング(新人王資格の半分)以上を投げて」新人王となった投手は全員、2年目のジンクスをものともしていないからだ。
では、平良投手と共通点も多い2019年新人王・福岡ソフトバンクの高橋礼投手について見ていこう。
新人王資格をギリギリで保持、翌年に大ブレイク
高橋礼投手はルーキーイヤーの2018年から12試合に登板し、クライマックスシリーズではファイナルステージ第5戦の先発に抜擢された。オフには日本代表に選出され、その時点ですでに実績十分だったが、新人王は楽天の田中和基選手に譲っている。しかし、通算投球回がちょうど30イニングだったため、新人王資格を残して迎えた2019年、期待通りの好投を披露。規定投球回に到達して12勝を挙げ、新人王に輝いた。
そして2020年は、開幕から中継ぎの一角としてフル回転。前年とはまた違った役割を全うし、チームのリーグ優勝・日本一に貢献した。1年目にしっかり台頭し、2年目に大ブレイク、3年目に主力定着と順調にステップアップしているため、「ブレイク翌年」をプロ2年目、新人王獲得翌年のどちらにするにせよ、2年目のジンクスは発動しなかったことになる。
平良投手と高橋礼投手の新人王は稀なケース
パ・リーグでは平良投手、高橋礼投手のように、「前年までに15イニング以上を投げた投手」が2年連続で新人王を獲得した。しかし、これは歴史上稀なケースである。
最優秀新人の受賞資格が現行のルールとなった76年から2020年までの「プロ2年目以降の新人王投手」と、彼らの前年までの投球回は以下の通りだ。
まず計44シーズン中、「プロ2年目以降の新人王投手」はわずか9名。さらに「前年までの投球回が15イニング未満」だった投手は5名と、過半数を占める。新人王獲得の年までは、登板機会が少なかった選手がほとんどだということだ。
そして、「前年までに15イニング以上を投げた投手」は、平良投手と高橋礼投手、平井氏と榊原氏の4名のみ。ここ2年のケースが非常に珍しいということがわかる。では、平良投手の大先輩にあたる平井氏と榊原氏の成績を、詳しく見ていきたい。
平井正史氏
平井氏は1993年ドラフト1位でオリックスに入団し、高卒1年目から15イニングを投げてプロ初勝利も記録。2年目の1995年にはストッパーとして大車輪の活躍を見せ、15勝・27セーブという驚異的な数字を残した。さらに、新人王に加えて最高勝率と最優秀救援投手の二冠に輝き、チームのリーグ優勝の立役者の一人となった。
翌シーズンは、前年のフル回転の影響もあってかセーブ数こそ激減したが、防御率2.50と安定感は維持。イニング数とほぼ同じ奪三振を記録するなど力強い投球内容も相変わらずで、日本シリーズでは第1戦でセーブを記録。チームの2年連続のリーグ優勝と、前年には逃した日本一にも貢献している。
榊原諒氏
榊原氏はルーキーイヤーの2009年から26.2回に登板したが、防御率は6点台とプロの壁に苦しんだ。しかし続く2010年にはロングリリーフ要員として一軍に定着し、味方の援護を呼び込む快投を披露。最終的には中継ぎながら2桁勝利を挙げ、防御率2点台中盤という見事な成績を残し、新人王に輝いた。
翌2011年にはセットアッパーとなったが、前年以上の安定感を発揮。60試合に登板して防御率1点台という素晴らしい投球内容のうえ、登板数とホールド数はいずれもチーム2位と、ブルペンの中心的存在として奮闘した。
2年目のジンクスにはまらない投手たち
パ・リーグでは「前年までに15イニング以上を投げた」新人王投手は4名しかいないが、まだ結果のわからない平良投手を除き、誰も2年目のジンクスには陥っていない。
逆に「前年までの投球回が15イニング未満」だった新人王投手5名のうち、藤田氏と高梨投手は翌年にも大きく成績を落とさなかったが、森山氏、正田氏、小松氏の3名は、前年に比べて安定感を欠く内容となってしまっている。
こうした傾向から、ある程度のイニングを経験してから新人王となった選手は、受賞直後に2年目のジンクスのような大きなスランプに陥る可能性は高くないと言えそうだ。
平良投手の強みに2021年も期待
平良投手は160km/hに達する速球だけでなく、チェンジアップ、カットボール、スライダー、カーブ、ツーシームといった、多彩な変化球も持ち合わせている。今後さらなる研究が進んだとしても打ち崩しにくいことに変わりはなく、そういう意味でも平良投手が2年目のジンクスにはまる可能性は高くない。
もちろん、それだけのポテンシャルを持った投手だからこそ、1年以上一軍で活躍し、新人王を獲得できたとも言えるだろう。今回紹介した先輩たちと同じように、2021年もシーズンを通して、重要な役割を担うことを期待したい。
文・望月遼太
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