先発揃った楽天は救援陣も奮闘、得点力は千葉ロッテが1位
スタートダッシュに成功した選手をデータで探り出し、3、4月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。【鳥越規央】
まずは3、4月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○楽天:14勝9敗6分
打率.232、OPS.680、本塁打21、援護率3.99
先発防御率3.32、QS率62.1%、救援防御率2.80
○福岡ソフトバンク:15勝12敗3分
打率.267、OPS.728、本塁打25、援護率4.39
先発防御率3.90、QS率40.0%、救援防御率2.85
○千葉ロッテ:14勝13敗4分
打率.242、OPS.718、本塁打28、援護率4.80
先発防御率3.44、QS率51.6%、救援防御率4.15
○埼玉西武:13勝13敗3分
打率.226、OPS.629、本塁打17、援護率3.45
先発防御率3.97、QS率34.5%、救援防御率3.72
○オリックス:11勝13敗6分
打率.243、OPS.669、本塁打21、援護率3.61
先発防御率2.51、QS率66.7%、救援防御率4.59
○北海道日本ハム:9勝16敗4分
打率.218、OPS.629、本塁打14、援護率3.03
先発防御率3.28、QS率51.7%、救援防御率5.09
田中将大や早川隆久の加入で先発投手陣の層が厚くなった楽天だが、救援投手陣もリーグ1位の防御率でチームに貢献し、下馬評通り首位を争う位置にいる。
福岡ソフトバンクは柳田悠岐、グラシアルの活躍によりチーム打撃成績は打率、OPSでリーグ1位だが、得点はリーグ2位。福岡ソフトバンク以上に得点が多いのは千葉ロッテである。
楽天浅村は1本塁打もOPSは3位、出塁率は1位
パ・リーグの月間MVPは今月12日に発表予定。ここでは、セイバーメトリクスの指標による3、4月の月間MVP選出を試みる。
【打者部門】
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。各チームのwRAA上位3人は以下の通り。
楽天:浅村栄斗11.80、茂木栄五郎5.37、島内宏明4.36
福岡ソフトバンク:グラシアル9.34、柳田悠岐7.15、甲斐拓也5.35
千葉ロッテ:マーティン10.47、中村奨吾9.66、荻野貴司4.23
埼玉西武:森友哉4.83、呉念庭3.42、愛斗1.69
オリックス:吉田正尚10.29、杉本裕太郎5.50、頓宮裕真3.76
北海道日本ハム:近藤健介9.36、渡邉諒2.01、西川遥輝1.95
山川穂高、外崎修汰の主力2選手が怪我で抜けた埼玉西武打線において、呉念庭と愛斗が頭角を現しているが、まだ2人の穴を埋めるほどの数値は残せていないという現状である。
各チームの主力が期待値通りの貢献を見せている中、最もwRAAが高かったのが楽天の浅村栄斗である。浅村は本塁打の数は1本だったが、OPSはリーグ3位、出塁率はリーグ1位である。今季の浅村は選球眼が良く、ボール球見極め率が改善され、四球数が増え、三振が減少している傾向が見受けられる。
高い出塁率によってチームに大きく貢献した浅村をセイバー目線による月間MVPに推挙する。
○3、4月の月間MVPパ・リーグ打者部門 浅村栄斗(楽天) wRAA11.80
出塁率.483(リーグ1位)
打率.326(リーグ2位)
OPS.929(リーグ3位)
オリックス山本由伸はHQS5度、完封2度の安定感
【投手部門】
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。
各チームのRSAA上位3人は以下の通り。
楽天:則本昂大6.77、涌井秀章4.63、早川隆久4.59
福岡ソフトバンク:武田翔太3.30、モイネロ2.55、津森宥紀2.35
千葉ロッテ:鈴木昭汰3.83、佐々木千隼2.60、益田直也0.94
埼玉西武:平良海馬3.50、平井克典2.60、ギャレット2.52
オリックス:山本由伸7.48、宮城大弥5.88、山岡泰輔4.34
北海道日本ハム:加藤貴之4.70、伊藤大海3.40、堀瑞輝3.33
最も目立つのはオリックス。オリックスの先発投手陣は防御率、クオリティスタート(QS)率ともにリーグ1位の安定感である。
山本由伸
登板6、45回1/3、防御率1.39、QS率83.3%、被本塁打2、奪三振率7.74、K/BB6.50、被打率.202、被OPS.499、WHIP0.86
宮城大弥
登板4、28回2/3、防御率1.26、QS率100%、被本塁打0、奪三振率9.10、K/BB3.63、被打率.152、被OPS.408、WHIP0.80
山岡泰輔
登板6、38回、防御率2.84、QS率50.0%、被本塁打1、奪三振率9.24、K/BB3.00、被打率.217、被OPS.557、WHIP1.16
田嶋大樹
登板5、30回1/3、防御率2.97、QS率80.0%、被本塁打1、奪三振率7.12、K/BB2.18、被打率.212、被OPS.567、WHIP1.15
特に山本由伸の投球は群を抜いており、7回以上登板し自責点2以内で抑えるハイクオリティスタート(HQS)が5度、完封も2度記録している。ストレートやカットボールでの空振り奪取率も20%近くあり、バットに当たったとしてもゴロ/フライ率1.40とゴロの山を築いている。
よって、セイバーメトリクス目線で選ぶ3、4月の月間MVPに推挙する。
新人では3投手が奪三振率9超、楽天早川のK/BBは8.00
月間MVPルーキー賞を設けるとしたら楽天の早川隆久を推挙することになるだろう。
早川隆久
登板5、31回2/3、防御率2.56、QS率60%、被本塁打2、奪三振率9.09、K/BB8.00、被打率.246、被OPS.622 WHIP1.07
伊藤大海
登板5、32回、防御率2.25、QS率100%、被本塁打3、奪三振率11.53、K/BB3.15、被打率.211被OPS.625 WHIP1.16
鈴木昭汰
登板5、29回1/3、防御率2.45、QS率60%、被本塁打1、奪三振率9.51、K/BB2.21、被打率.194被OPS.554 WHIP1.16
3投手とも奪三振率が9を超えており、奪三振能力の高さが伺える。特に伊藤は初登板から23イニング連続奪三振のNPB新人記録を打ち立てた(1980年の木田勇に並ぶ)。また、早川は四球4でK/BBは8.00。これは山本由伸を超える安定感を示している。
上記3投手に加え、宮城大弥も新人王有資格選手である。この4投手の今後の活躍にも注目だ。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
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