次世代エースの試金石、信頼の証……「裏の開幕投手」に注目

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2021.3.30(火) 16:30

オリックス・田嶋大樹投手(左)、楽天イーグルス・岸孝之投手(右)(C)パーソル パ・リーグTV
オリックス・田嶋大樹投手(左)、楽天イーグルス・岸孝之投手(右)(C)パーソル パ・リーグTV

 開幕投手を任されることは、言うまでもなく投手にとって非常に大きな栄誉だ。チームを代表する投手という意味合いもあり、あくまでその大役にこだわる投手も少なくない。 ただし「開幕第4戦」の先発も、開幕投手に負けず劣らず重要な役割だ。

 開幕第4戦は「開幕2カード目の頭」であり、先発は裏ローテの一番手が務める。ローテーションが崩れない限り、開幕投手と同じくその後もカード頭を担うため、いわば「裏の開幕投手」ともいえる。今回はその「裏の開幕投手」と開幕投手の関係、過去の試合について見ていこう。

2021年の「裏の開幕投手」は?

 まず、2021年の開幕投手と、開幕第4戦に先発する「裏の開幕投手」は以下となる。

【開幕投手/裏の開幕投手】
北海道日本ハム→上沢直之/河野竜生
楽天→涌井秀章/岸孝之
埼玉西武→高橋光成/松本航
千葉ロッテ→二木康太/小島和哉
オリックス→山本由伸/田嶋大樹
福岡ソフトバンク→石川柊太/笠谷俊介

 名前だけ見ても、ともに一流の投手、期待の若手が並んでいる印象だ。このうち、開幕カードで負け越した北海道日本ハムとオリックス、いまだ白星のない千葉ロッテの「裏の開幕投手」は、流れを変える重要な役割を任されることになる。

開幕投手の半数以上が「裏」経験者

 開幕投手と同様に責任重大な「裏の開幕投手」だが、過去のパ・リーグを振り返ると、彼らはのちに開幕投手を託されるケースが多い。2021年の開幕投手を見ても、北海道日本ハムの上沢直之投手、楽天の涌井秀章投手、埼玉西武の高橋光成投手、千葉ロッテの二木康太投手と、実に6名中4名が「裏」を経験している。

 では、過去の同様のケースを見ていこう。2016年から2020年までの5シーズン、パ・リーグで「裏の開幕投手」を務めた後に、開幕投手となった投手は以下の通りだ。

「裏の開幕投手」を務めた後に、開幕投手となった投手(C)PLM
「裏の開幕投手」を務めた後に、開幕投手となった投手(C)PLM

5年間の「裏の開幕投手」計30名のうち、その年以降に開幕投手を任された投手は半分近い13名。「裏→開幕投手」のパターン自体は、実に17回あった。「裏の開幕投手」には、いずれ開幕投手を担うエース格が並ぶ傾向があり、言ってみれば次世代エースの試金石になっているのかもしれない。

 福岡ソフトバンクの千賀滉大投手は、2016年に2桁勝利を挙げてブレイク後、2017年に「裏の開幕投手」となり(その年の開幕投手は和田毅投手)、2018年からは2年連続で開幕投手を務めた。チーム戦略や適性があるため、開幕投手と「裏」に明確な序列があるとは言い切れないが、このようにステップアップしていると言っていい例も少なくない。

開幕投手がエースなら「裏」はベテラン、勝ち頭

 次に、ここ5年で複数回にわたって「裏の開幕投手」を任された投手を見ていく。

 ここ5年で2回以上「裏の開幕投手」を務めた投手(C)PLM
 ここ5年で2回以上「裏の開幕投手」を務めた投手(C)PLM

 ここ5年で、2回以上「裏の開幕投手」となった投手は5人いる。千葉ロッテの石川歩投手は3年連続だが、その期間はすべて涌井投手(現・楽天)が開幕投手だ。そして石川投手が開幕投手となった2019年は逆に涌井投手が「裏」になっており、エース格をそれぞれ別カードの頭に立てたいという、チーム全体の方針がうかがえる。

 楽天の岸孝之投手の場合はどちらも埼玉西武時代で、ともに開幕投手は菊池雄星投手(現・マリナーズ)。絶対的エースで開幕し、その裏で実績十分のベテランが構えているのは、他チームからすれば脅威だろう。福岡ソフトバンクは、東浜巨投手が「裏」だった2018年と2019年は千賀投手が開幕投手で、千賀投手が開幕に出遅れた2020年は、東浜投手が開幕投手となった。東浜投手に対する、チームからの信頼が垣間見える。

過去の「裏の開幕投手」の成績は…

 では、さらにここ3年間に絞って「裏の開幕投手」を深掘りしていく。彼らはこの大役を任される前年、どのような成績を残していたのか? また、開幕第4戦に先発した後、シーズンを通してチームの期待に応えられたのか? 2018年から2020年における「裏の開幕投手」の成績と、その前年の成績は以下の通りだ。

2018年は上沢直之が飛躍、岸孝之はベテランの風格

2018年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM
2018年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM

 2018年「裏の開幕投手」を務めた投手のうち、オリックスの金子千尋投手(現・北海道日本ハムの金子弌大投手)と、福岡ソフトバンクの東浜投手は、前年にチームの勝ち頭(東浜投手は最多勝)だった。また、金子投手はこの時点ですでに六度の開幕投手を経験していたが、この年は西勇輝投手(現・阪神)にその座を譲り、裏ローテの頭にどっしりと座った形だ。

そして、則本昂大投手が楽天の開幕投手を務める裏で、開幕第4戦に投げた岸投手は、北海道日本ハムを相手に8回無失点の快投。試合には敗れたが、シーズンでは防御率2.27で最優秀防御率に輝くなど、さすがの貫録を見せた。なおその試合で岸投手と投げ合った北海道日本ハムの上沢投手は、この年自身初の2桁勝利(11勝)を達成。エース格として一本立ちし、翌年と2021年には開幕投手を託されている。

2019年はショートスターターが話題に

2019年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM
2019年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM

 前年にリーグ優勝を果たしながら、チーム防御率リーグ最下位だった埼玉西武で、2019年「裏の開幕投手」を務めたのは、NPB1年目のニール投手だ。6月から破竹の11連勝を記録し、リーグ連覇に大きく貢献したことは記憶に新しい。この活躍と、同年の開幕投手だった多和田真三郎投手の病気などもあり、翌年には開幕投手を任されている。

 楽天の「裏の開幕投手」だった辛島航投手は、北海道日本ハム相手に7回無失点で白星スタート。主力が相次いで離脱したシーズンでも奮闘し、自己最多の9勝を挙げた。その辛島投手と開幕第4戦で投げ合ったのは、北海道日本ハムの加藤貴之投手。3回無失点で降板したが、これはこの年、日本で初めて本格的に採用されたショートスターターとしての初陣でもあった。さまざまな議論に晒され、難しい調整を余儀なくされながらも、シーズンを通してチームの先進的な起用に応えた。

2020年は埼玉西武と千葉ロッテのエース候補が覚醒?

2020年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM
2020年「裏の開幕投手」の成績とその前年の成績(C)PLM

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、開幕が6月にずれ込んだ2020年。北海道日本ハムの「裏の開幕投手」を務めたニック・マルティネス投手(現・福岡ソフトバンク)は、ケガで前シーズンを棒に振ったが、来日1年目の2018年に10勝を挙げた実力者だ。しかし楽天との開幕第4戦は5回4失点と崩れ、シーズンも振るわなかった。

 楽天の弓削隼人投手は当時プロ2年目だったため、「裏の開幕投手」のうえ、本拠地開幕戦の先発と、二重の意味での大抜擢。対戦相手である北海道日本ハムとの前年の好相性も関係していたと思われ、実際に7回途中無失点で白星を挙げた。しかしシーズンでは先発ローテーションを守り切れなかった。

 埼玉西武の高橋投手と千葉ロッテの二木投手は、エース候補として球団から期待をかけられている点で共通している。2020年、高橋投手は二度のノーヒットノーラン未遂、二木投手は抜群の制球力と福岡ソフトバンク戦7連勝など、ポテンシャルの開花を予感させたこともあり、ともに2021年は開幕投手の座を勝ち取っている。

「裏の開幕投手」のおもしろさに注目

「裏の開幕投手」は、開幕投手に比べれば注目度が低く、誰が務めるのか事前に大きな話題になることは少ない。しかし逆に言えば、やはり「エースであるべき」という雰囲気の開幕投手とは違い、実利的な思惑が垣間見えるポジションでもある。それぞれのチーム事情を探り、シーズンを占ううえでも、「裏の開幕投手」にぜひ注目してみてほしい。

文・ 望月遼太

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

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