パ・リーグトップ「犬鷲打線」も機動力が課題か…… 野手陣の展望【東北楽天ゴールデンイーグルス2020:野手編】

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2020.12.30(水) 10:59

東北楽天 シーズンレビュー2020 vol.1(C)パーソル パ・リーグTV
東北楽天 シーズンレビュー2020 vol.1(C)パーソル パ・リーグTV

 強打者・浅村栄斗選手や島内宏明選手らが並ぶ楽天打線は、今季新戦力として鈴木大地選手やロメロ選手を迎え、さらに厚みを増した。ルーキーの小深田大翔選手も躍動し、岩見雅紀選手や下妻貴寛選手、田中貴也選手にプロ初本塁打が生まれるなど、野手の収穫は多かったといえる。東北楽天ゴールデンイーグルスのシーズンレビュー後編は打者に注目し、2020シーズンを振り返っていく。

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グラウンド内外で期待に応えた鈴木大地

「与えられたポジションで全力を尽くす」という宣言とともに、8年間プレーした千葉ロッテから楽天に移籍した鈴木大地選手。その宣言通り、チーム状態に合わせて一塁手と三塁手をこなし、全120試合に出場した。キャリアハイとなる打率.295、リーグ3位の141安打と、期待に応える活躍を見せた移籍1年目となった。

 千葉ロッテでキャプテンを務めた経験がある鈴木選手は、試合中、投手のもとへ寄って声をかける姿が印象的である。今季はキャプテンの茂木栄五郎選手が怪我でたびたび離脱したため、鈴木選手がチームの精神的支柱となって引っ張った試合もあっただろう。また連敗を喫し、今季初めて3位に転落するなどチームが苦しかった8月は、26試合中24試合で安打を放ち、月間打率.394をマーク。チームに欠かせない存在となった鈴木選手の活躍に、来季も期待しよう。

重責を力に変え、自身初の本塁打王に

 楽天に移籍して2年目のシーズンを迎えた浅村栄斗選手。昨季はキャリアハイの33本塁打を放つ活躍を見せ、4年連続5度目となるベストナインも受賞するなど、環境の変化に対応し、主力として申し分ない成績を残した。そして迎えた今季。周囲の期待はさらに大きくなっていたが、攻守にわたって要となる重責を、見事に力に変えてみせた。

 シーズン序盤から本塁打を量産すると、9月には全26試合に出場してリーグ最多の10本塁打、27打点を記録し、2016年以来となる「大樹生命月間MVP賞」を受賞。最終的には全120試合に出場、32本塁打で自身初の本塁打王も獲得した。

 また、今季は勝負強さも光った。昨季より23試合少ない今季だったが、打点は昨季を12点上回る、リーグ2位の104打点を記録。チーム内打点2位のロメロ選手は63打点だったため、楽天打線の中で浅村選手が果たした役割の大きさは言うまでもない。ただ、まだ楽天では打率3割未達である。来季は自身もこだわる「打率」でもより上を目指したいところだ。本塁打王を獲ってもなお注文をつけられるのは、球界を代表する打者の証。周囲の期待を力に変えて、来季もさらなる飛躍を遂げる1年にしたい。

1年目でリードオフマン…「コブクロ」コンビに期待

 球団史上初となるドラフト1位「内野手」として大阪ガスから入団した小深田大翔選手は、即戦力として期待された通りの働きを見せた。6月30日の千葉ロッテ戦でプロ初安打を放つと、その後は徐々にスタメン起用が増え、苦しみながらも7月下旬に打率を2割台に乗せる。そこからは調子を上げていき、終盤には「1番・遊撃手」として固定された。

 最終的には112試合に出場し、打率.288。チームの規定打席到達者としては、鈴木大選手に次ぐ2番目の高打率で、リーグでも堂々6位という結果を残したことは、大きな自信となるはずだ。しかし、それだけに来季からの期待は当然大きくなり、他球団からのマークも厳しくなるだろう。楽天は田中和基選手や辰己涼介選手など、早いうちにポテンシャルを発揮した後、壁にぶつかる若手野手が多い。今季の良い感覚のまま、「2年目のジンクス」を打ち破ってほしい。

 また、智弁学園和歌山高校出身のドラフト2位・黒川史陽選手も、今季一軍デビューを果たした。二塁を本職とし、鋭いスイングでプロ初安打も記録。小深田選手と並んで「コブクロ」コンビとして注目を集めつつあり、次世代の若鷲二遊間誕生なるか、要注目だ。

若手外野手が切磋琢磨、それぞれの長所でアピール

 今季の楽天は、若手外野手が熾烈な出場争いを繰り広げたシーズンでもあった。開幕スタメンの座をつかんだのは、昨季ルーキーながら124試合に出場し、高い守備力と勝負強い打撃で首脳陣に猛アピールした辰己涼介選手。今季20代の外野手の中では最多の104試合に出場し、本塁打も昨年の2倍となる8本を放つなど、長打力の成長を見せた。しかし、終盤は代走や守備固めでの出番が多かった。打率.223、出塁率.286は辰己選手の実力からすると物足りない。来季は「率」も残してスタメン奪取なるか。

 予想外に遅れをとったのは、2018年に新人王を獲得した田中和基選手だ。昨季は怪我の影響もあり、59試合の出場にとどまった。今季はフルシーズンの活躍を目指したが、開幕からファームでの調整が続き、今季初出場は8月4日の福岡ソフトバンク戦だった。しかし、そこからはチームの勝利に大きく貢献する活躍を見せる。外野手の中では島内選手、ロメロ選手に次ぐ61安打を記録。また、得意の守備でも守備率.992をマークするなど、攻守にわたって存在感は示した。来季は開幕からの活躍を期待したい。

 また、主にシーズン終盤に猛アピールに成功したのは小郷裕哉選手である。序盤は守備固めでの出番が多かったが、打撃で結果を残すとスタメン出場も増え、10月28日、29日の埼玉西武戦では、日をまたいで2打席連続本塁打を記録。規定打席には届かないものの、長打率.438は50試合以上出場したチームの野手の中で4位の成績だった。今季は勝敗に関わる場面で失策を喫するなど、守備面の課題も残っただけに、今オフでは課題を克服しつつ、打撃を伸ばして出場機会をさらに増やしていきたい。

育成も経験した下妻貴寛、8年目でチャンスをつかむ

 昨オフ、嶋基宏選手が東京ヤクルトに移籍し、正捕手が定まっていなかった楽天。一番手捕手として太田光選手が期待され、開幕からスタメンマスクを被ったが、9月下旬に怪我で離脱してしまう。そしてその機会を生かし、成長を見せたのが26歳の下妻貴寛選手だった。育成契約、独立リーグへの派遣も経験し、今季開幕前までの一軍出場はわずか13試合という苦労人は、勝負の8年目で巡ってきたそのチャンスをものにした。

 9月2日の北海道日本ハム戦で今季初出場を果たし、初打席で初安打と幸先の良いスタートを切ると、9月24日の千葉ロッテ戦では、「8番・捕手」で先発出場。すると第1打席で、楽天ファンの待つレフトスタンドへ待望のプロ初本塁打を放った。

 配球面や、勝負どころでは代打を送られるなど、正捕手奪取へ向けてはまだ課題も多く残るものの、確実に自信をつかんだシーズンとなっただろう。今年の開幕前に支配下復帰を果たした際には、石井一久一軍監督(当時GM)が「自分で道を切り開いてくれた。まだ多くの技術や経験を学べる年齢なので期待している。頑張れ!下妻!」とコメントを寄せている。山形県出身の「東北魂」下妻選手の来年にぜひ注目してほしい。

得点力の高さは示した野手陣、来季への課題は

 楽天のリーグ順位は4位に終わったものの、打率.258、1029安打、534打点という打撃成績は、優勝した福岡ソフトバンクをも凌いでリーグトップだ。打点は12球団の中でもトップで、一度つながると止まらない今年の楽天打線の印象を裏付けている。しかし、失速したシーズン終盤は、淡白な攻撃で残塁の山を築く場面が多く、リーグワーストの87併殺打も見過ごせない。小技も丁寧に決められる強力打線を作ることが求められている。

 また、打線の破壊力においては十分なインパクトを残した一方、昨年に引き続き盗塁数はリーグワーストの結果に終わった。今季のパ・リーグ盗塁王、福岡ソフトバンクの周東佑京選手が50盗塁を記録していることを考えると、チーム合計67盗塁は明確な機動力不足と言える。しかし昨季は47盗塁だったことから、意識の変化も垣間見えた。「機動力野球」は一朝一夕では浸透しない。小深田選手や辰己選手、田中和選手など足のある選手を筆頭に得点力を上げ、抜け目のない打線を構築したいところだ。

骨太な常勝チームに…来季は石井一久氏が一軍監督

 楽天は、2018年9月から取締役ゼネラルマネージャー(GM)を務めていた石井一久氏が一軍監督に就任。今季の一軍監督だった三木肇氏は二軍監督へ配置転換され、コーチの顔ぶれも新しくなるなど、新体制で2021シーズンへスタートを切った。

 GM兼任監督という、文字通りチームの舵取りを任された石井氏。指導者経験がない中大役を引き受けた形となるが、就任会見では「物事の変化をもたらすときに、勇気や覚悟を持つことはすごく大事なことなので、何を言われようがブレずに邁進していくことが大事だと考えています」と、確固たる決意表明を述べた。また、その上で「骨太な常勝チームにする」ことや「中長期的な底力をつける」ことを目標として掲げている。

 積極的な大型補強や若手選手の育成など、これまでも数々の改革を実行してきた石井新監督。まだまだ歴史の浅い楽天に新時代が到来するのだろうか。石井監督のもと、東北の地に再び日本一の歓喜が巻き起こることを期待しよう。

文・小野寺穂高

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