日本シリーズ第6戦。北海道日本ハムファイターズが広島での2連敗から本拠地・札幌ドームで3連勝をマークし、日本一制覇に王手をかけた後に迎えた試合だった。そこには真っ赤に染まるマツダスタジアムで声を枯らしてファイターズを応援するファンの姿があった。
さかのぼると、試合の4時間以上前からファイターズファンはスタジアム周辺に集まっていた。応援団仲間が集結していたり、ファイターズの選手の球場入りを待っていたりとその過ごし方は人それぞれだった。勝利すれば10年ぶりの日本一と、王手の掛かった一戦なだけに地元北海道のテレビ局や新聞社もファイターズファンを見つけてはインタビューを敢行していた。
そんな中、ファイターズの陽岱鋼選手のユニホームを身にまとった夫婦がいた。話を聞くと、その家族は台湾からわざわざやってきたとのことだった。パシフィックリーグマーケティングをはじめとするパ・リーグ球団の台湾での活動がこのような形として、広島にあらわれていたのだ。日本シリーズという舞台にわざわざ海外から観戦に来るファンが増えれば今後またその価値も高まっていくはずだ。
試合開始前からファイターズのユニホームを身にまとうファンの姿がポツポツと見えたが、多くの種類のユニホームを身にまとっていた人たちが目立った。真っ赤なカープに対抗して、違う色のユニホームは自然と目立ったが、緑、白、ピンクとさまざまなファイターズのユニホームを着ており、中には東京を本拠地としていた時代のユニホームを着ている者もいた。
球場入りするとファイターズファンのほとんどが座ったのは、3塁線上にあるビジターパフォーマンスシートだ。その箇所のチケットを持っていないと入ることすら許されないエリアである。スタジアムの他の箇所から多少隔離された状態ではあるが、専用の箇所を設けることでビジターのファンたちも一体感を持つことができる。
米国の場合、ベンチ上のエリアが暗黙の了解でビジター側と思われているものの、チケットが区別化されていることはない。そのため球場の中で見られるビジターファンはそれぞれが一匹狼のような存在で孤立してしまう。ホームのファンに囲まれて応援することを逆にパワーに変えているのかと思うほどその逆境を楽しんでいる強さを持つ。だがこれは日本では少ない光景であり、ビジターであってもファンは一体となり逆境の中でもひとつとなってアウェー感を吹き飛ばすために選手たちを鼓舞している。
さて、NPB主催の日本シリーズではどのような盛り上げが行われていたのだろうか。まずはお祭りごとに付き物なのが、グルメだろう。この日の広島で見られた日本シリーズにまつわるグルメは北海道メロンサワーと“ハムにカツ”というメッセージ性も加えたハムカツが販売されていた。スタンドで働いていた職員に確認したところ、こちらは日本シリーズ限定で加わったメニューだそうだ。
一方ワールドシリーズでも限定的なグルメは存在するのか確認したところ、クリーブランド・インディアンスの本拠地プログレッシブ・フィールドでは「ナップ・アタック」と「When Pigs Fly(豚が羽ばたくとき)」と題した特別メニューが販売されていた。
「ナップ・アタック」とは今季キャリア最多の34本塁打を放ったマイク・ナポリにちなんだメニューで七面鳥の足の部分をアップルサイダーとバターに漬けた後に燻製にしたものだ。そしてもう1つのユニークな命名となった「豚が羽ばたくとき」というのは、その言葉に秘められた意味合いが関係している。豚が羽ばたくときというのは、決して起こりえないことを意味するイディオム(俗にいう慣用句)である。1908年以来優勝から遠ざかっているシカゴ・カブスと最後に優勝したのが1948年だったクリーブランド・インディアンスの対決にふさわしいメニューである。こちらは豚の脛肉をメープルホットソースに漬けたものであった。共に13ドル(約1380円)で販売されていた。
そして試合を盛り上げるグッズに関しては、ビジターにも関わらずスタジアム前にはファイターズグッズ専用のビジターグッズショップが設けられていた。そこにはユニホームやタオルだけではなく、うちわやボールペンなど多岐に渡った商品が並んでいた。一方米国でよく見られるのは、両チームのロゴが記された記念グッズの数々だ。どちらのホームであっても、この1度しか見られない記念グッズが棚に並ぶ。この日本シリーズでは第6戦に足を運んだだけに過ぎないが、すでにハンドタオルも完売しており、限られた売店での販売しか見られなかった。
最後にスタジアムを盛り上げるためには欠かせない存在であるキャラクターの交流はこの試合でも多く見られた。メインスポンサーである三井住友銀行の“ミドすけ”も加わって、カープのスラィリーとファイターズのB・Bが外野スタンドのファンを試合前やイニング間も大いに盛り上げていた。一方今回のワールドシリーズでは、一部で論争を巻き起こしているクリーブランド・インディアンスのキャラクターChief Wahoo(ワフー酋長)が話題となることが多く、違った意味でワールドシリーズに新たな話題を提供することとなってしまった。
さらに今回のワールドシリーズでは普段でもチケットが入手しにくいシカゴ・カブスが進出したため、シカゴ在住であっても6時間運転してクリーブランドで観戦するほうが安いのではないかと言われる対決であった。現にクリーブランドでも多くのカブスファンの姿が球場内では見られ、日本の球場ではあまり見ない内野席でも両軍のユニホームが入り混じった光景だった。ホームチームとしては、日本のようなビジターパフォーマンスシートを設けないことによってアドバンテージを失いかねない状況となる。
日本シリーズは最終戦こそビジターのファイターズが広島の地で優勝を決めたが、最初の5戦はホームチームが全て勝利を果たす“内弁慶シリーズ”とも言われていた。皮肉にも、日米両方のシリーズではビジターチームが敵地で優勝を決めるという展開で幕を閉じた。
クリーブランドに多く乗り込んだカブスファン、そして広島でも一体感を見せたファイターズファン。完全アウェーの雰囲気の中、チームの勝利のために声を枯らしたファンたちの声援が届いた結果となった。
国内最高のチームを決める戦いではホーム側としては少しでもアドバンテージを作りたいというのが本音であるかもしれないが、キャラクターやグルメなど色んな形でビジター側を盛り上げる演出や企画もシリーズを成功させるには不可欠である。今後も各スタジアムがビジター側をどのように迎え入れるかという点にも注目していきたい。
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