試合数の減少もあり、昨季までと同様の成績を残すのは難しいシーズンだった
2020年のプロ野球は開幕が6月19日まで延期されたこともあり、従来の143試合制ではなく、120試合に短縮された日程が組まれた。その影響は、各選手の成績にも波及している。試合数の減少に伴い、いくら調子が良かったとしても、本塁打、打点、安打、盗塁といった積み上げ式の数字においては、昨年までと同等の数字を残すことは難しい状況となっていた。
そんな中で、北海道日本ハムの中田翔選手は、108打点を稼いで自身3度目の打点王に輝いただけでなく、本塁打数もリーグトップまであと1本に迫る、自己最多の31本を記録。長年チームの主砲として活躍を続けてきた中田選手にとっても、今季はキャリアベストに近いシーズンの一つだったと言えるだろう。
また、福岡ソフトバンクの周東佑京選手も短縮シーズンながら50盗塁を記録し、自身初めて盗塁王のタイトルを獲得。出場試合数が103試合だったことを考えると、およそ2試合に1度の割合で盗塁を決めていたことになる。もちろん、例年と同じく143試合制のシーズンであれば、その盗塁数はより伸びていたことは想像に難くない。
そこで、今回はこの2選手が今季残した数字を143試合相当に換算すると、その成績はどれほどの水準に達するのかを紹介していきたい。それに加えて、過去のパ・リーグにおけるタイトルホルダーたちとの比較も行い、今季の中田選手と周東選手が残した数字の、一見するだけではわかりづらい傑出度について図っていく。
中田選手にとっては、キャリアの中でもとりわけ活躍を見せたシーズンの一つに
まず、中田選手がこれまでのキャリアで記録してきた成績について紹介したい。
今季記録した31本塁打はこれまでのキャリアハイだった2015年の30本を上回り、犠飛の数も、NPB史上2番目の多さとなるシーズン13犠飛を記録した2018年に次ぐ数字に。打率こそ.239と前年を下回ったものの、OPSも2015年以来5年ぶりに.800台に乗せており、打率から来る印象以上に、さまざまな面で充実したシーズンだったと言えそうだ。
続けて、2020年の成績を143試合に換算した際の数字を見ていきたい。
本塁打数は37本まで伸び、打点数も2016年に記録した自己最多の110打点を大幅に上回る計算に。犠飛の数も11と2桁に乗る計算であり、これは歴代7位タイに相当する数字だ。また、四球もキャリア最多となるペースで選んでいたことも見逃せない。やはり、今季の中田選手は、過去のシーズンと照らし合わせても、かなりのハイペースで各種の数字を積み上げていたと考えてよさそうだ。
「129打点」という数字は、過去の例に照らし合わせても相当に優れたもの
ここからは、今季の中田選手が積み上げた打点のペースを、過去の例と照らし合わせて評価していきたい。まず、直近10年間のパ・リーグにおける打点王獲得者と、その打点数は以下の通りだ。
ここ10年間においては、2018年に浅村選手が記録した127打点が最多となっている。すなわち、今季の中田選手の129打点ペースを超える選手は、近年のパ・リーグには存在しなかったということだ。こういった過去の傾向は、今季の中田選手が残した数字が、108打点という見た目上の数字以上に優れていたということの証左にもなるだろう。
続けて、直近10年間というスパンに囚われずに評価すると、129打点という数字は歴代の中でどれほどの価値があるのかについて迫っていきたい。2リーグ制導入以降のパ・リーグにおける、シーズン129打点以上を記録して打点王を獲得した選手たちの顔ぶれと、その打点数は下記の通りだ。
70年にわたるパ・リーグの長い歴史の中でも、129打点以上の数字を記録して打点王のタイトルを獲得したのはわずかに6名。2001年の中村紀洋氏を最後に20年間も空白が続いていることを考えても、今季の中田選手の打点ペースは、まさに歴史的なものだったと言えそうだ。
6名の選手たちの顔ぶれを見ていくと、三冠王の獲得経験がある野村克也氏、ブーマー氏、落合博満氏に加え、本塁打王と打点王をそれぞれ2度獲得し、史上初の両リーグ1000安打を達成した大杉勝男氏、1979年から2年連続で本塁打王に輝いたマニエル氏、2000年に本塁打と打点の2冠に輝き、2001年に2年続けて打点王を獲得した中村紀洋氏と、そうそうたる大打者たちが揃っている。
中田選手も3度の打点王に加えて、内野と外野で計2回ずつベストナインを獲得し、一塁手としてゴールデングラブ賞も3度獲得。広い札幌ドームを本拠地としながら、通算250本を超えるホームランも記録してきた。31歳と選手としてはまだまだこれからという年齢であり、今後も長距離砲として活躍を続け、偉大な大打者たちの領域にさらに近づいていく可能性も大いにあることだろう。
打撃力の向上に伴い、盗塁数も前年のちょうど倍に
続けて、周東選手の過去の成績についても、中田選手と同様に確認していきたい。
昨季は俊足やユーティリティ性を活かしたスーパーサブとしての出場がメインで、試合数と打数は全く同じ。代走としての出場が主ながら25盗塁を稼ぎ、俊足を買われて日本代表にも選出された機動力はまさに卓越したものだったが、打率は1割台とバッティングの面では苦戦を強いられ、レギュラーの座に迫るには至らなかった。
しかし、今季は課題だった打撃面が大きく改善され、スタメン出場の機会が飛躍的に増加。9月からはトップバッターを務める機会が大半となり、出塁率.325とリードオフマンとしての適正を示した。出塁数の増加に伴って盗塁数も伸び、ちょうど前年から倍となる長足の進歩を遂げた。13試合連続盗塁というプロ野球記録も打ち立てた抜群の脚力を活かし、見事に自身初タイトルとなる盗塁王の座に輝いた。
そして、今季の周東選手の成績を143試合に換算してみると、安打数は99と、あと1本で3桁というペースであった。盗塁数もちょうど10個増加し、60の大台に乗る計算に。一見すると2019年とさほど変わらないように見えた出場試合数も、143試合換算であれば123試合という数字となり、レギュラー1年目としては十二分に優れた成績を残していたことが、各種の数字からもあらためて見えてくる。
1970年代まではシーズン60盗塁以上の選手も少なからず存在していたが……
周東選手の今季の盗塁のペースを評価するにあたり、直近10年間のパ・リーグ盗塁王と、その盗塁数についても紹介していきたい。
過去10年間のパ・リーグにおいて60盗塁の大台に到達したのは、2011年の本多氏ただ一人だった。盗塁王獲得者の顔ぶれを見てもわかる通り、近年のパ・リーグは数多くの快速ランナーがしのぎを削ってきた激戦区といえる。その中でもトップクラスのペースで盗塁を積み重ねた今季の周東選手は、近年のリーグ内においても、とりわけ傑出した存在の一人であると言えそうだ。
シーズン60盗塁という数字は、もちろん容易に到達できる数字ではない。2リーグ制導入以降のパ・リーグにおいて、60盗塁以上を記録して盗塁王に輝いた選手たちの顔ぶれは、下記の通りとなっている。
1970年から13年連続で盗塁王に輝き、そのうち最初の10年は全て60盗塁以上を記録するという離れ業を見せた「世界の盗塁王」こと福本豊氏をはじめ、1970年代まではシーズン60盗塁以上を記録した盗塁王の数は少なくなかった。しかし、1980年代以降は10年周期で1名ずつと、その割合は大きく減少している。試合数自体は2000年代に入ってからむしろ140試合以上に増加していたこともあり、盗塁の難易度そのものが上昇していると言えそうだ。
野球を取り巻くデータの細分化、およびフィードバックの速度や質の向上に伴い、捕手のスローイング精度や、投手のクイック技術も進歩している。その影響で、時代を経るごとに盗塁という行為へのハードルが上がっている面はあるだろう。そんな中で、本多雄一氏以来10年ぶりに、シーズン60盗塁の大台に乗るペースを維持した、周東選手の脚力と技術。過去のケースに照らし合わせてみても、やはり希少な存在の一人と言えそうだ。
単純な数字では測れない、今季の中田選手と周東選手の傑出度
今季記録された中田選手の打点と周東選手の盗塁は、いずれも近年のパ・リーグにおいては抜きん出たペースで積み上げられたものだった。それだけに、120試合にシーズンが短縮されたことで、単純な数字の面ではそのペースに比してやや少ない数字となってしまったのが惜しまれるところだ。だからといって、今季の両選手が見せた出色の活躍ぶりが、色あせるようなことも決してないであろう。
ファイターズの主砲と、ホークスの切り込み隊長。共にチームの屋台骨を担う両選手は、あらゆる意味で特殊な事例となった今シーズンを経て、来季以降もチームをけん引するような活躍を見せてくれるだろうか。その期待を持たせてくれるだけの数字を残した両者の今後のプレーぶりと、それに付随する数字にも、大いに注目していく価値はありそうだ。
文・望月遼太
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