林威助氏は中信二軍監督として奮闘中、そして台湾プロ野球は来季から一軍5球団へ

2020.12.1(火) 17:29 駒田英
林威助氏 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL
林威助氏 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL

厳しくも「愛情」ある指導で高評価、指揮官3年目を迎えた林威助・中信兄弟二軍監督

 台湾プロ野球の現役選手、及び指導者を務める元NPBの台湾人の中で、日本で最も高い人気を集めた選手といえば、現在、中信兄弟の二軍監督を務める林威助氏だろう。

 2013年、阪神から戦力外通告を受けた林氏は、台湾プロ野球のドラフトを経て2014年から中信兄弟でプレー。怪我に悩まされながらも、高い打撃技術はもちろん、チームリーダー(2015年、16年はキャプテン就任)として、プロ野球選手としての姿勢を若い選手たちに伝えた。そして、2017年限りで現役を引退すると、経験の伝承、後進の育成を期待され、2018年から二軍監督を務めている。

 台湾最南端、屏東県の中心、屏東駅から10キロほど離れた、一面に農地が広がるエリアに、中信兄弟のファームはある。台湾で、林威助監督率いる中信兄弟二軍は「挙頭三尺有威助」という言葉で形容されることがある。これは「挙頭三尺有神明」、意訳すれば「神様は、いつもあなたのそばにいる(だから、決して悪いことをしてはならない)」という、ことわざにかけた言葉である。二軍では、林監督が常に厳しく目を光らせている、というわけである。

 日本でのプレーを希望していた亡き父の希望を叶えようと、高校1年の途中で、福岡県の柳川高校へ留学、近畿大学を経て、阪神で10年プレーした林二軍監督は、指導者として、フィジカル面、技術面はもとより、グラウンド内外の規律、マナー、そして態度についても、プロ野球選手として「あるべき姿」を求める。台湾では「日本式の厳格な指導」と例えられることが多いが、台湾で選手として4年間プレーした林二軍監督は、その「異文化体験」もふまえた上で、噛み砕いて伝える工夫をしているようだ。

 林二軍監督は、伸び悩んでいた中堅選手の復活や若手選手の成長をサポート、前期シーズン優勝、後期も優勝争いをし、台湾シリーズに出場した一軍の選手層の底上げをバックアップした。育成と同時に、二軍公式戦でも、初年度の2018年は2位、昨年は1位、今年も2位と安定した成績を残し、一昨年、昨年は二軍チャンピオンシップでも優勝した。

 屏東の酷暑、野球に打ち込むしかない環境に加え、林二軍監督の厳しい指導もあり、「ファームには戻りたくない」と、一軍残留の大きなモチベーションにしていた選手もいる。 

 11月16日に行われた年間表彰式でも、近年は怪我の影響もあり低迷も、今季復活し、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を受賞した2015年の新人王、許基宏が「一番辛い時に支えてくれた」と謝意を示した。また、今季、正捕手に返り咲き、ゴールデングラブ賞を受賞した陳家駒も、諦めかけた際、林二軍監督の「ユニフォームを脱いでしまえば楽だよ。もう努力しなくていいんだから」という言葉を思い出し奮起、復活を果たした。

 選手たちから「林桑(リンさん)」と呼ばれている林威助二軍監督。厳しさの中にも「愛情」があるその指導力、統率力は高く評価されており、ファンの中には、近い将来の一軍監督就任を期待する声もあるようだ。

 なお、12月27日には、台湾観光協会大阪事務所の協力により、甲子園歴史館で、林氏のオンライントークショーが行われる(すでに11月28日よりチケット販売開始、定員に達し次第、販売終了とのこと)。幸運にもチケットを入手できたファンは、ぜひ、指導者としての苦労や、やりがいについても質問してもらいたい。

来季は味全が一軍参戦、5球団に

 話を一軍に戻そう。近年、低迷が続き、観客動員も苦戦していた統一の復活優勝は、リーグにとっても朗報といえる。台湾シリーズで再び涙をのんだ中信、あと一勝で後期優勝を逃した富邦、そして、初年度、シリーズ進出及びモンキーズとしてのリーグ4連覇を逃した楽天、3チームそれぞれが、臥薪嘗胆の思いで来季に臨むだろう。

 ただ、来季の一番の目玉は、第5の球団、味全ドラゴンズの一軍参戦だ。かつて3連覇を含め台湾王者に4度輝いた味全は、1999年に解散したが、昨年4月、CPBLへの「復帰」を表明、5月、正式に第5の球団となり、7月にはドラフト会議に参加した。「新生」味全ドラゴンズについては、昨年7月、兼任コーチとして川崎宗則(BC栃木)がプレーしたほか、アジアウインターベースボールリーグ(AWB)で歳内宏明(東京ヤクルト)がプレーしたチームとして記憶されている方もいるだろう。

味全ドラゴンズ 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL
味全ドラゴンズ 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL

 味全は、ドラフトで指名された若手選手のほか、エクスパンション・ドラフトあるいはテスト入団したベテランや中堅選手などで構成されている。AWBに単独チームで参戦し3位となった味全は、今季から二軍公式戦に参戦、実戦を通じ、じわじわと力をつけた味全は、まず7月、二軍公式戦と平行して行われたアマチュアとの二軍交流戦で優勝、さらに公式戦も、林威助監督率いる中信兄弟二軍とのデッドヒートを制した。さらに、その中信兄弟二軍との二軍チャンピオンシップも3勝1敗で優勝、中信兄弟二軍の5連覇の夢を打ち砕いた。

 打者では、19年のドラフト1位、20歳の4番、劉基鴻が、.343(3位)、15HR(3位)、75打点(1位)、左の強打者、黄柏豪が.342(4位)、16HR(1位)、73打点(2位)と、リーグ上位の成績を残した(しかし、二軍チャンピオンシップで負傷し、来季後期の復帰が濃厚)。86試合で、チームのHR数は5チーム中4位の78本だが、盗塁はリーグ1位の147盗塁、盗塁ランキングトップ10に5人と、足が使える選手が多い点は魅力だ。

 一方、投手は、細かい継投でしのいだ試合が多く、規定投球回数到達者は1人のみに留まったが、今年のドラフトでMLB、KBOでもプレー経験がある左腕、王維中を1位指名。ローテーションは、この王維中を軸に、外国人2人、かつてMLBでプレーした羅嘉仁、そして、残り1枠を、MAX157キロの20歳右腕、徐若熙ら、数人の若手が争う形となりそうだ。

 新規参入の味全に対しては、この2年、ドラフトの優先指名権が与えられてきた。さらに、昨年に続き、今年もエクスパンション・ドラフトが行われ、11月27日、4球団から1名ずつ指名された。

 葉君璋・監督が最大の補強ポイントと明言していた捕手は、大学の一年後輩に当る王維中の推薦もあり、楽天で出場機会が減少していた劉時豪を指名、一軍出場400試合強の実績もさることながら、明るい性格でムードメーカーとしての「活躍」も期待される。中信兄弟の呉東融は、今年の台湾シリーズこそメンバーから漏れたが、昨季、二塁手でゴールデングラブ賞、今季もベストナインに選出されており、レギュラーとしての活躍はもちろん、若い内野陣を牽引する役割も求められる。富邦の陳品捷は、カブス傘下のほか、徳島インディゴソックスでもプレー経験をもち、外野手登録ながら内野もこなし、ユーティリティーな活躍が期待される。統一の王玉譜はMAX152km/hの左腕。制球難で伸び悩んできたが、投手育成を得意とする葉監督のもとで「開花」が期待される。また、初年度の来季は、外国人枠が他チームよりも1枠多い「支配下5人、一軍登録4人(野手ないし投手は最大3人まで)」となる。

 味全には、エリート街道を歩んできた選手もいるが、「ムネリン」イズムを感じさせる下位指名からハツラツとしたプレーでアピールしチャンスをつかんだ選手もいる。中堅、ベテランの中には、挫折、遠回りを経験した苦労人も少なくない。

 来季は、台北市の天母球場はじめ、各地の球場を転々とする予定だが、2022年ないし2023年のシーズンからは、北部・新竹市の旧新竹球場跡地に建築中の新球場を本拠地として使用する予定となっている。来季の一軍初年度は、タフなシーズンになることが予想されるが、「3年以内のポストシーズン進出」という目標達成に向け、新球団の奮闘を期待したい。

 甘いルックスをもち、人気、実力を兼ね備えた「プリンス」王維中の入団は、味全にとってはもちろん、台湾プロ野球全体の興行面にとってもプラスと考えられる。市中感染は抑え込んでいる台湾だが、それでも入場制限の影響で、今季一軍公式戦の平均観客動員数は約3500人と、昨季比で4割減となった。当然、各球団の収益面にも影響を与えている。こうした中、5球団となったことを「パイの奪い合い」とマイナスに捉えるのではなく、リーグ全体でプラスに変え、盛り上がりにつなげることを期待したい。

川崎宗則選手(現・栃木BC) 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL
川崎宗則選手(現・栃木BC) 写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL

無観客から15,600人へ、無事終えたシーズンを支えた関係者たち

 世界各国の野球界が新型コロナウイルスに振り回された一年、NPBも厳しい日程の中、無事シーズンを終えることができた。パフォーマンスで盛り上げた選手はもちろんだが、運営を支えたリーグ、各球団の関係者、裏方さんたちの貢献も非常に大きかったといえよう。

 前篇で、台湾シリーズでは今季最多15600人入場、ビジター応援も解禁され、「ほぼ通常通り」のシリーズが行われたと紹介したが、コロナ禍において、台湾プロ野球の運営を陰で支えていた人たちについて触れよう。

 台湾プロ野球は4月12日(11日の開幕戦は雨天中止)、台中インターコンチネンタル球場で、プロ野球リーグとして世界に先駆けて開幕した。一足早く3月に開幕した二軍公式戦同様、当初は完全無観客でスタートしたが、5月8日から、これまた世界に先駆け、上限1000人ながら観客を入れて試合を開催、同15日からは上限2000人に引き上げたほか、球場内での調理済弁当、飲料の販売、親子並んでの観戦などを認めた。

 さらに、政府による国内旅行解禁に呼応する形で、6月7日からは入場者の上限を収容人数の50%まで引き上げ、マスク着用も座席着席時は「免除」、入場時及び場内移動時のみの義務付けへと緩和した。こうしてレギュラーシーズンは、最大で10000人強の観客を集めた。

 そして、台湾シリーズでは上限が収容人数の78%にまで引き上げられ、2万人収容の台中インターコンチネンタル球場には、全試合、今季最多となる15,600人のファンが入場した。

 中華民国(台湾)政府が、水際対策、サージカルマスクの供給含め、「先手、先手」の対策を行った事で、国内での感染拡大抑え込みに成功したという「前提」があるとはいえ、開幕戦の無観客から、台湾シリーズの15,600人まで入場者数を緩和し、台湾シリーズが、例年とほぼ変わらない形で開催できたことは、台湾プロ野球を運営するCPBL及び、各球団の防疫対策に対する努力の賜物だといえよう。

 CPBLの呉志揚コミッショナーは開幕直後、選手、球団関係者、審判、マスコミ含め、感染者が確認された場合には、リーグを一時中断する方針を示していた。実際、この時期、二軍の選手や審判が、感染者の利用が確認された商業施設に立ち寄ったことが判明した際には、自主的に隔離させ、二軍の他の審判も念の為、試合中にマスクを着用した。

 このほか、開幕前から各球団がシミュレーションを行い、選手、関係者、メディア、ファンを問わず、球場入場者に対して徹底的な感染防止対策を取ったほか、選手に対しては、日常生活からガイドラインを定めた。結果的に、台湾プロ野球は一、二軍、選手やスタッフを含め、感染例を一例も出す事なくシーズンを終えた。
 
 世界に先駆けて開幕し、観客を入場させて試合を開催した台湾プロ野球は、台湾のコロナ対策の成功例の一つとして、世界のメディアで大々的に報道された。また、英語によるライブ中継も、北米を中心に大きな反響を呼んだ。中国との関係から、国際社会への参加に様々な制約を受けている台湾は、世界、特に先進国からの目を非常に重視する傾向がある。当然、関係者は喜びや誇りを感じただろうが、同時に、台湾プロ野球を「防疫の穴」にするわけにはいかないという大きなプレッシャーを抱えていただろう。

 シーズンの終了に際し、各選手がSNSでメッセージを発したが、多くの選手が、無事にシーズンを戦えたことについて、最前線の防疫スタッフやリーグ関係者の貢献、そして防疫対策に協力的だったファンに感謝した。

 コロナ対策を通じて、世界における台湾の存在感は高まったといえるが、台湾プロ野球もまた、そのイメージアップに大きく貢献したといえよう。

国際交流の再開、往来解禁に期待

 ただ、非常に残念なのは、現時点においては、日本の皆さんに向け、自信を持って「台湾プロ野球の魅力を体感しに、来春、是非台湾に来てください」と呼びかけられないことだ。今年は、CPBL主催のアジアウインターベースボールリーグの開催が見送られたほか、台湾で開催予定だったWBSC、BFA主催の国際大会も、来年へ延期となった。また、これまで各球団がオフに企画していたNPB球団との交流試合や、レギュラーシーズン中の日本をテーマとしたイベントの開催についても、現時点では不透明とみられる。コロナ禍は、特に国境を越えた交流、人的往来に深刻な影響を与えている。

 この7カ月あまり、市中感染が確認されていない台湾だが、ここに来て、海外からの入境者、帰国者の感染者数は増加の一途をたどっており、中央感染症指揮センターでは、12月1日から、入境者及び国内における感染防止対策を厳格化、入境時には3日以内のPCR検査陰性証明提出が必須となった。

 日本の観光庁に相当する交通部観光局は11月上旬、観光目的の往来の解禁時期について、日本など低リスク国についても、来年の第4四半期以降となる見通しを示した。交通部は、日本との「トラベルバブル」実施について、今後協議を行う可能性はあるとしているものの、その可否については中央感染症指揮センターのアドバイスに従うとしており、慎重な姿勢は崩していない。

 従来からのファンに加え、今季、ツイッターやスポーツ専門局などによる試合中継、また、チアガールに関する報道など、各種メディアにおける露出が増えたことにより、新たに台湾プロ野球に興味をもった日本のファンもたくさんいるだろう。当面は、CPBLや各チームの公式SNS、YouTubeの動画など、オンラインを通じて、「台湾野球ロス」を凌いでいただきたい。そして今は、ワクチンの開発、普及も含め、新型コロナウイルスの早期収束、そして、自由に往来できる日が一日も早く訪れることを望みたい。

文・駒田 英

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