2年連続の最高出塁率を獲得
2019年に自身初の打撃タイトルとなる最高出塁率を獲得した、北海道日本ハムの近藤健介選手。続く2020年も持ち前の卓越した選球眼は健在で、吉田正尚選手や柳田悠岐選手といったリーグを代表する強打者たちを抑え、.465で最高出塁率を獲得した。
そして、近藤選手が持つ魅力はその優れた選球眼だけではない。2018年から3シーズン続けて打率.300を超える数字を残し、今季もリーグ3位となる打率.340を記録している事実にも示されているように、その打撃技術の高さもリーグ屈指だ。今季は得点圏での貴重な一打も多く、勝負強さも随所で発揮。主砲の中田翔選手が休養等で4番を外れた試合においては、代役として4番を務める機会もあった。
打率や出塁率といった数字のみならず、セイバーメトリクス的な観点で用いられる各種の指標においても、近藤選手の打撃成績はおしなべて優れたものとなっている。今回は、そんな近藤選手の具体的な長所や特徴について、それらの指標をもとに分析。それに加えて、今季の近藤投手が得意としているコースや球種といった要素についても紹介し、安定した打撃を続けられている理由に対してデータの面から迫っていきたい。
これまで規定打席に到達したシーズンでは、全て打率.300以上の数字を記録
まず、近藤選手がこれまで残してきた各シーズンの成績、および通算成績について見ていきたい。
初めて規定打席に到達した2015年以降、年間打率が.300を下回ったのはわずかに1度だけ。通算成績でも打率.309、出塁率.412とそれぞれ大台を超えており、現在のパ・リーグを代表する好打者の一人といえる。怪我に苦しめられるシーズンも少なくはないが、これまで規定打席に到達したシーズンではいずれも打率.300を超えている。
各年の成績では、やはり規定打席未満ながら打率.400超えの数字を記録した、2017年の圧倒的な数字が目を引くところ。2015年にもリーグ3位の打率.326という好成績を記録していたが、この2017年を境に、その打撃はさらなる進化を遂げている。2018年からは3年連続で規定打席に到達して打率.300超えを果たし、出塁率もそれぞれ.420以上を記録。2019年には3桁を超える四球を記録するなど、そのチャンスメイク能力は際立っている。
指標の面でも示されている、近藤選手の打撃の完成度の高さ
続けて、近藤選手の打撃をセイバーメトリクスの観点から分析していきたい。出塁率と長打率を足して求める「OPS」、三振数を打席数で割って求める「三振率」、四球を打席で割って求める「四球率」、出塁率と打率の差を示した「IsoD」といった各種の指標は、下記の通りとなっている。
高いミート力を有する近藤選手は当然ながら投球をバットに当てることも上手く、キャリアを通じて三振率は2013年の.175が最も高い数字に。規定打席に到達したうえで三振率.117という優れた数字を記録した2015年をはじめ、主力に定着してからの三振率は安定して低く抑えられている。
その一方で、直近4シーズンにおける四球率はすべて.150を上回っており、四球を奪う割合の高さも示されている。とりわけ脅威的なのが、先述の通り出色の成績を残した2017年。その数字を見ると、実に4打席に1度以上の割合で四球を選んでいたことになる。今季の四球率も.1905と、およそ5打席に1回に近い割合で四球をもぎ取っている計算に。四球を選ぶペースにおいても、今季の近藤選手の好調さは表れているといえよう。
近藤選手は打順としては3番打者を務めることが多く、四球で出塁して後続のポイントゲッターにつなぐ、という打席も多い。そういった打線の中での役割に、冷静な見極めが持ち味の一つでもある近藤選手の打撃スタイル上、四球を勝ち取るために2ストライクから際どいコースの球を見逃すという、三振のリスクを負う判断を行うことも少なくはない。
そのような打撃スタイルにもかかわらず、直近4シーズン中3度、四球率が三振率を上回っているという事実が、近藤選手の打者としての非凡さと、チームに対する貢献度の高さを物語っている。「三振が少なく、四球が多い」という近藤選手の資質は、まさにチャンスメーカーとして理想的なものだ。
安定して高いOPSを記録してきたが、今季の数字はさらなる進化を感じさせるもの
また、OPSも2015年以降の5度、一流打者の基準とも言える.800を超える数字を記録。中でも、打率.400を超える数字を記録していた2017年には、OPS1.124という驚異的な数字を記録している。今季は長打率の面でも例年に比べて数字を伸ばしており、OPSも.934と超一流の打者の領域に近づいてきている。これまでも優秀な成績を残してきた近藤選手だが、今季はさらなる長足の進歩を見せていることが示されている。
また、IsoDにおいても2017年以降は4年連続で.100を上回る数字を記録しており、この指標においても選球眼の良さが表れている。2017年以降はいずれのシーズンにおいても打率.300を上回っているにもかかわらず、そこからさらに.100以上も高い出塁率を記録し続けていることになる。早打ちせず、じっくりとボールを見極めながら安打と四球を量産する、近藤選手の打撃スタイルが簡潔に示された項目といえよう。
比較的リスクの少ない低めの投球だが、近藤選手に対しては……
続けて、今季の近藤選手が記録している、投球コース別の打率についても見ていきたい。
唯一真ん中高めのゾーンは苦手としているが、それ以外のストライクゾーンのコースに関しては打率.290以上を記録。中でも、低めのコースにおいてはいずれも打率.400前後の数字を叩き出している点が驚異的だ。それでいて、外角高めのストライクやボールゾーンの釣り球、外角高めに大きく外れる球に対しても打率.400以上の数字を記録しており、高めを苦手にしているという気配もないのが頼もしいところだ。
近藤選手が示している低めへの強さは、なにもストライクゾーンに限ったものではない。低めならばボールゾーンにおいても5つのゾーンのうち4つで打率.333以上を記録。本来リスクが低いとされやすい低めのゾーンだが、近藤選手に対しては結果球として用いるのは厳禁と言えよう。
内角に対しては.300以上とインコース攻めも苦にせず、ど真ん中の甘い球に対しても逃すことなく対応。アウトコースに対しても全て打率.290以上とおしなべて良い成績を残しているだけに、唯一といっていいウィークポイントである真ん中高めを克服することができれば、さらなる成績の向上も見込めるかもしれない。
真ん中高めという明確な弱点は存在するものの、ストライクゾーンの内外で得意なゾーンを数多く有している近藤選手。際どいコースの球のみならず、釣り球や低めに落ちるボールコースも決して安全とは言えないだけに、バッテリーにとっては打ち取るための組み立てが難しいと言える。近藤選手が多くの四球を記録しているのは、持ち前の選球眼に加えて、相手が慎重な攻めをせざるを得ないほどの弱点の少なさも手伝ってのことかもしれない。
コース別の打率のみならず、球種別の打率にも示される圧倒的な対応力
最後に、今季の近藤選手が記録している、球種別の打率についても見ていきたい。
このように、フォーク以外の全ての球種に対して打率.300以上という、抜群の対応力を示している。フォークのみ極端に苦手としているが、それ以外の7つの球種は全て得意と形容してもいいほどの、極端に穴の少ないバッティングを披露している。
また、カットボール、スライダーという同じ方向に曲がる2つの球種はとりわけ得意としており、ともに球種別打率は.400を超えている。全体の割合として左投手よりも多い右投手がこの2球種を用いる場合、左打者の近藤選手にとっては内に食い込んでくる球になる。そういった球種を打ち込んでいる点も、先述したインコースへの強さを支える要素となっていることだろう。
先の段落で触れたカットボールへの強さも含めて、ストレート、シンカー・ツーシーム、シュートといった速球系の球種に対しては、すべて打率.300以上の数字を記録。それに加えて、チェンジアップとカーブといったブレーキの効いた球に対しても優れた数字を記録しており、緩急どちらにも対応できるだけの懐の深さを示している。
コース別の打率と同様、明確な弱点こそ1つ存在するものの、それ以外の球種に対しては極めてハイレベルな数字を記録している近藤選手。そして、先ほど紹介した低めの球への強さを考えれば、安易に落ちる球に頼ることも難しい。ほとんどの球種に対応できることを考えれば、フォークを持たない投手にとっては決め球を設定するのにも難儀するところだ。やはり、打者としての穴の少なさ、打ち取りづらさはリーグ屈指のものがあるだろう。
来シーズンは自身初の栄冠を勝ち取れるか
コース別の打率、球種別の打率ともに穴が極めて少なく、指標の上でも安定した数字を残し続けている近藤選手。今回取り上げた各種の要素を見るだけでも、安定した打率と出塁率を記録している理由の一端が見えてくることだろう。そんな中でも、今季残している成績は2017年に次いでハイレベルなものであり、規定打席に到達した中ではキャリアハイの打率.340をマークした。
レギュラー定着以降は安定して高打率を記録し続けている近藤選手だが、柳田選手、吉田正選手、秋山翔吾選手、森友哉選手といった好打者たちの壁に阻まれ、首位打者や最多安打といったタイトルを獲得したことは一度もない。抜群の対応力を活かしたシュアな打撃を勝負どころでも発揮し、来シーズンは初の栄冠を勝ち取れるかに注目したい。
文・望月遼太
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