開幕後しばらくは平均失点が平均得点を上回りバランスが崩れていた
開幕前はエース千賀滉大の出遅れ、グラシアル、デスパイネの不在など不安要素を抱え、開幕してからも、バレンティン、松田宣浩の不調で波に乗り切れなかった福岡ソフトバンク。しかし、観客を迎え入れるようになってからは徐々に貯金を積み重ねていった。9月25日の千葉ロッテ戦に敗れて1ゲーム差に迫られたものの、貯金12で首位と前評判通りの戦いぶりを見せている。
そんなホークスのペナントレース前半戦の得点と失点の「移動平均」から、チームがどの時期にどのような波だったかを検証してみよう。(数字、成績は9月20日現在)
「移動平均」とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、
「得点>失点」の期間はレッドゾーン
「失点>得点」の期間はブルーゾーン
で表している。
開幕当初、無観客で試合をしていた頃はチーム打率.231、OPS.690、平均得点4.22、平均失点5.11とチームバランスが崩れ、7月9日時点では借金3で5位だった。特に先発の防御率が5.79と苦しみ、クオリティスタート(QS)率39%と序盤から失点する苦しい試合展開が多かった。
スタジアムに観客を迎え入れるようになると、チーム状況は一変し、いきなり5連勝。ローテーションに復帰した千賀をはじめ、開幕投手の東浜巨、石川柊太、和田毅、二保旭がしっかりとQSで試合を作り、盤石の救援陣が抑える。さらには先発・笠谷俊介、2番手・板東湧梧の“ピギーバック”という投手起用も結果を残した。また、栗原陵矢、中村晃、柳田悠岐を固める上位打線でアドバンテージを作り、初回得点確率は35%に及んだ。
傑出した投手陣の安定感、被本塁打はリーグ最少に
次に、福岡ソフトバンクホークスの各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。
グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAA(失点ベース)を表しており、赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いということになる。
今季の投手陣の安定感は12球団でも群を抜いている。
先発 防御率3.33 被打率.230 奪三振率8.33
救援 防御率2.75 被打率.213 奪三振率9.01
防御率は先発、救援ともにリーグ最小の数値を誇っており、ホームランテラスの影響でホームランが出やすいとされるPayPayドームを本拠地にしながら、被本塁打60というのもリーグ最少である。
救援投手陣は前年にも増して強力だ。特にセットアッパーのモイネロは最高球速158km/h、奪三振率15.85と圧巻の数字を記録している。また今季は救援に回っている高橋礼や嘉弥真新也、泉圭輔、川原弘之、松本裕樹といった面々が随所で貢献し、クローザーの森唯斗までつないでいる。
攻撃陣では、センター柳田の攻撃力が異次元の領域に達していると言っても過言ではないだろう。今季はストライクゾーンにきた球を高い確率で積極的に振るようになり、昨季までゴロが多いのが特徴だった打球がフライボールとして上がるようになった。その結果、本塁打率は2018年の13.2よりもハイペースの11.9となっている。
ただ、他のポジションに目を向けると、リーグ平均より突出した攻撃力を持つポジションはない。8月下旬からチームに合流したグラシアルとデスパイネの攻撃力が加わり、中村晃や栗原の起用もあるレフトと指名打者がプラスに転じているが、内野陣とライトのポジションではマイナスとなっている。また、1番打者の出塁率が.295、2番打者も.282と柳田の前を打つ打者の出塁率が低いため、得点効率も悪くなっている。
後半に向けて、内野手の攻撃力強化、さらには柳田の前を打つ上位打線の出塁率向上が急務となるだろう。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
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