走攻守で抜群のインパクトを残す韋駄天。映像で見る、和田康士朗の長所と魅力

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2020.9.9(水) 16:00

千葉ロッテマリーンズ・和田康士朗選手(C)パーソル パ・リーグTV
千葉ロッテマリーンズ・和田康士朗選手(C)パーソル パ・リーグTV

支配下登録1年目から、圧倒的な俊足で大きなインパクトを残している和田選手

 支配下登録を勝ち取ってからわずか3カ月にして、その活躍はマリーンズファンの間でセンセーションを巻き起こしつつある。千葉ロッテの和田康士朗選手が9月8日の試合終了時点でパ・リーグトップとなる18盗塁と、支配下登録1年目での盗塁王獲得の可能性も出てきている。

 和田選手は埼玉県立小川高校からBCリーグ富山GRNサンダーバーズを経て、2017年の育成選手ドラフト1位で千葉ロッテに入団。入団1年目の2018年から二軍で94試合に出場と積極的に起用されたが、打率.167、1本塁打、3打点と打撃面でプロの壁に当たり、現在の和田選手にとって大きな武器である盗塁に関しても、6盗塁に対して7盗塁死と、盗塁失敗の数が成功数を上回る結果に終わっていた。

 だが、プロ2年目の2019年は前年を上回る103試合に出場し、打率.264、6本塁打、20打点と、前年から打率を約1割向上させ、大きく成長した姿を見せる。リーグ2位タイの23盗塁(8盗塁死)と持ち前の脚力も実戦で活かせるようになり、走攻守全てでレベルアップを果たした。この活躍が認められ、今季開幕前の6月に支配下契約へと移行すると、代走要員として自身初の開幕一軍の切符を勝ち取った。

 そして、開幕戦では1点ビハインドの9回表に代走で出場し、強肩で知られる甲斐拓也選手を相手にプロ初盗塁を決める。緊迫した場面でも臆することなく自らの武器を活かすと、後続の中村奨吾選手の安打でホームを踏み、土壇場での同点劇へとつなげた。その後も主に代走として出場を重ねながら盗塁を決め続け、その圧倒的な脚力は、今やチームにとっても大きな武器となっている。

規定打席未到達で盗塁王を獲得すれば、パ・リーグでは極めて稀な例に

 ちなみに、先述の通りにリーグトップの盗塁数を記録している和田選手だが、打席数としては9月8日の試合終了時点で52打席と、規定打席に届く可能性は高いとは言えない状況となっている。仮に規定打席未到達で盗塁王を獲得することになれば、パ・リーグの選手としては、1967年に千葉ロッテの前身である東京オリオンズに在籍していた、西田孝之氏以来ということになる。

 セ・リーグでは近年においても藤村大介氏が2011年に規定打席未満で盗塁王を獲得しているが、パ・リーグにおいてはかなり珍しい記録と言えそうだ。この1967年以来という数字は、代走としての出場が大半という状況にある選手がリーグ最多の盗塁を記録することが、どれだけ難しいことであるかを示す証左でもあるだろう。

 和田選手はここまで盗塁成功率.857と高い水準を維持しており、僅差の試合終盤に代走で出場し、相手バッテリーが強く警戒する中で盗塁を決め続けているという点も特筆ものだ。また、その脚力と一歩目の早さを活かし、難しい打球も難なく処理する外野守備に関しても見応えは十分。打撃面でも出塁率.347と足を活かすことにもつながる選球眼の良さを持ち合わせており、その魅力はなにも俊足だけにとどまらない。

 今回は、走攻守に魅力たっぷりのポテンシャルを秘めた和田選手のプレーを、映像と共に紹介していきたい。見るものに強い印象を残すインパクト十分の躍動の数々を振り返るとともに、和田選手の優れた点がどこにあるのかについても紹介しよう。

相手の警戒をかいくぐり、勝負所で決めてみせる盗塁技術の高さ

 和田選手が一軍で台頭を見せた最大のきっかけが、その圧倒的な俊足にあるのは間違いないところ。今や、代走要員として出場するだけで相手バッテリーから常に盗塁を警戒される存在となっているが、和田選手はそういった状況でも確実に盗塁を決め続け、着実に盗塁数を伸ばしている。純粋なスピードのみならず、二塁ベースに滑り込む際のスライディングの伸びも素晴らしく、野手のタッチをかいくぐってセーフにするシーンも多い。

8月25日に決めた、鮮やかなディレイドスチール

 和田選手の盗塁センスが凝縮されたシーンの一つといえるものが、8月25日の楽天戦で決めたディレイドスチールだ。相手投手が投球モーションに入るのと同時にスタートを切るのではなく、投げたことを確認してから走り出し、それでも余裕で盗塁を決めてみせた驚異的な脚力。いわば「見てから決めた」と言えるような鮮やかな判断で二塁を陥れており、俊足に加えて、判断力の高さも持ち合わせていることを示してみせた。

プロ初のスタメン出場で3安打3盗塁

 8月上旬までは途中出場が続いていた和田選手だったが、8月16日の北海道日本ハム戦において、「1番・センター」として自身初のスタメンに抜擢される。この試合では初回の第1打席で初球を叩いていきなりプロ初安打を放つと、次の打者の初球でいきなり盗塁を決めてみせる。この活躍で勢いに乗った和田選手はその後の打席でも快音を響かせていき、3打席連続で安打を記録。そして、それぞれ直後に盗塁も記録するという離れ業を披露した。

 1打席目と2打席目に放った安打はドリュー・バーヘイゲン投手の150km/hを超える球を弾き返して記録したものだった一方で、3打席目ではカーブにしっかりとタイミングを合わせてライト前に運んでいる。打撃面でも直球と変化球の双方に対応できる、和田選手のポテンシャルの高さを示した試合と言えるだろう。

一塁からシングルヒットでホーム生還

 これまで見てきた通り、和田選手は盗塁時の思い切りの良さや技術に関しては極めて優れたものを有している。ただ、その脚力と判断力は盗塁時だけではなく、ベースランニングにおいても活かされている。その走塁力を端的に物語っていたのが、8月19日の福岡ソフトバンク戦において長躯ホームインを果たした場面だ。

 一塁走者として塁に出ていた和田選手は、中村奨吾選手の打席でヒットエンドランのサインを受けてスタートを切る。中村選手の打球はベースカバーに入った二塁手の右を抜け、センター右に転がる安打に。スタートを切っていた和田選手は当然ながら三塁まで到達するが、野手の反応を受けて躊躇なく三塁ベースを蹴ってホームに突入。ヘッドスライディングで本塁に滑り込み、一塁からシングルヒットで生還するという驚きのシーンを生み出した。

 この場面で和田選手が一塁からホームに帰ってくるまでに要した時間はわずか9秒90と、3つの塁を駆け抜けるのに10秒もかからなかった。ほとんど無駄のないベースランニングで得点をもぎ取ることが可能な走塁技術を持ち合わせる和田選手は、相手の守備にとって常にプレッシャーを与える存在となりそうだ。

広い守備範囲を活かした、数々の好守備

 盗塁とベースランニングの双方でチームの大きな武器となっている和田選手だが、その脚力が活かされるのはなにも攻撃時だけではない。外野の守備でも広い守備範囲を誇り、外野手の間を抜けようかという当たりをたびたび好捕。一歩目の早さやスライディングキャッチの巧みさも出色であり、まだ21歳の若さながら、守備面においても総じて高いクオリティを有しているといえる。

 中でも、8月29日のオリックス戦での、外野の間を抜けようかという打球に飛びついて好捕し、ボールが落ちていれば同点というピンチを防いだ守備は特筆ものだ。そういった滑り込んでの捕球だけではなく、ランニングキャッチの安定感もかなりのもの。守備の名手として知られた岡田幸文氏から譲り受けたグラブを現在も使用し続けているというエピソードもあり、現役時代の岡田氏になぞらえて「エリア63」と呼ばれる機会も増えつつある。

残りのシーズンにおいても、見るものを驚かせるようなプレーが生まれるか

 和田選手はこれまで紹介してきた脚力と判断の良さに加えて強肩も持ち合わせており、外野守備の名手に必要な要素を多く備えている。今シーズンもまだ50試合以上を残しているが、シーズンの約半分を終えた段階で、すでに打撃、走塁、守備の全てにおいて多くの見せ場を作っているという点が、和田選手の持つ才能の非凡さを物語ってもいるだろう。

 規定打席未到達で盗塁王獲得という珍しい記録のみならず、近い将来のレギュラー奪取に向けても挑戦を続けている和田選手。ある時はファンを感嘆させ、またある時は見る者の度肝を抜くようなプレーを見せてくれる21歳の若武者は、今後我々にどのようなプレーを見せてくれるだろうか。驚異のスピードを誇る韋駄天の活躍に、今後も注目していく価値は大いにあることだろう。

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