シーズン2桁勝利のためには、多くの登板機会と投球回が重要となってくるが……
「シーズン2桁勝利」という記録は、投手にとっては大きな勲章の一つである。先発投手として2桁勝利を挙げた投手は、シーズン中の大半の期間をローテーション投手として過ごし、規定投球回にも到達していることがほとんどだ。登板数の多さや、1試合で投じたイニング数といった要素は勝ち投手の権利を得る確率にも繋がってくる数字であるため、こういった傾向が表れるのも当然と言えよう。
しかし、当該シーズンに規定投球回に到達することなく、シーズン2桁勝利を記録した投手たちも過去には少なからず存在している。1試合平均の消化したイニング数が少なかった、シーズン中に離脱した期間があった、先発としてではなくリリーフとして勝ち星を積み重ねた……というように、投球回が少ないにもかかわらず2桁勝利を記録できた理由は、各投手によってさまざまだ。
また、2017年には規定投球回到達者が13名いたものの、2018年には9名、2019年は6名と、その数は年を経るごとに減少傾向にある。球界全体で早めの継投策が多くなっていることがその背景にはあるだろうが、そういった事情は規定投球回未到達で2桁勝利を記録した投手の人数に、どのような影響を及ぼしているのだろうか。
今回は、直近10年間のパ・リーグにおいて、規定投球回に到達することなくシーズン2桁勝利を記録した投手たちを紹介。その顔ぶれを確認していくとともに、そこから見えてくる傾向についても探っていきたい。
該当者の人数は、各シーズンごとに大きくばらついた
まずは、直近10年間のパ・リーグで、規定投球回未到達ながらシーズン2桁勝利を記録した投手たちを紹介していきたい。その結果は、以下の通りとなっている。
以上のように、大半のシーズンにおいては、0~2名と決して多くはない数字にとどまっていた。中には、2013年と2017年のように2桁勝利を挙げた投手が全て規定投球回に到達したシーズンも存在。2桁勝利を挙げた投手の大半は、同時に規定投球回にも到達していたと考えてよさそうだ。
また、攝津正氏は、2014年から2年連続で規定投球回未到達での2桁勝利を記録。この2年間の勝利数と投球回は全く同じで、敗戦数も1つ違いとかなり近似した数字を残していた。17勝・防御率1.91で沢村賞を受賞した2012年の活躍を筆頭に、2011年に14勝、2013年に15勝を挙げ、ホークスのエースとして活躍した攝津氏ならではのピッチングのうまさが、投球回が少ない年にも安定して2桁勝利に到達できた理由だろうか。
また、ほぼリリーフとしての登板だけで10勝を挙げて新人王に輝いた2010年の榊原氏をはじめ、シーズン途中で抑えから先発に転向した2016年の増井投手や、先発とリリーフを兼任しながら2桁勝利を挙げた2016年の高梨投手と2018年の石川投手のように、該当シーズンにリリーフとしての登板が少なくなかったがゆえに、規定投球回に到達しなかったケースも。こういった例も、投手分業が進みつつあるからこその現象と言えそうだ。
また、今回取り上げた16名の投手は全て、当該シーズンの敗戦数が1桁にとどまっていることも特徴的だ。上記の投手たちは、いわば登板数やイニング数が少ない中で効率的に白星を重ねてきた。そのためには高い勝率を維持しなければならないのは自明であり、各投手の敗戦数の少なさは、それだけ効率よく勝ち星を重ねてきたことに証でもあるだろう。
近年のパ・リーグにおいては、規定投球回への到達者数自体が大きく減少しているが……
各シーズンの人数の違いに目を向けてみると、5名存在した2018年が他の年に比べて突出して多くなっているところが目につく。その中でも10勝ギリギリだった投手はバンデンハーク投手ただ一人であり、規定投球回に到達せずに13勝を挙げた投手も3名存在。各投手の勝ち星の多さも含めて、投手分業制が進んでいる影響がここにも表れている。
ところが、2019年は規定投球回に到達した投手がわずか6名という少なさだったにもかかわらず、規定投球回未到達で2桁勝利を挙げた投手は2名と、例年とほぼ同じ水準の数だったところは興味深い。2018年と同様の傾向が示されるのであれば、2019年は規定投球回に到達せずに10勝を記録した投手がさらに増えると考えるのが自然だろう。
そこには、2桁勝利を挙げた投手の数自体が影響している可能性はありそうだ。2017年が9名、2018年が12名に対し、2019年は6名と2桁勝利を挙げた投手自体が大きく減少していた。リーグ内における投手を取り巻く傾向を見極めるという意味でも、今後の2桁勝利者数と、その中に規定投球回未到達者が何名いたのかの推移は興味深いものになりそうだ。
また、今回の条件に合致した投手が3名と、2番目に多い数字となった2016年には、リーグ優勝を果たした北海道日本ハムから全ての投手が輩出されているのも示唆的だ。この年の北海道日本ハムは、マーティン投手、バース投手、宮西尚生投手、谷元圭介投手といった優秀なリリーフ投手を数多く擁しており、増井投手が不振で先発に配置転換されてからも、安定して試合終盤を締めくくる体制が維持できていた。
そのため、増井投手や高梨投手のようなリリーフから先発への配置転換が行いやすくなっていたことに加え、大黒柱の大谷投手がケガの影響で登板できない時期が一定期間ありながらも、投手陣が破綻をきたすことなく終盤戦の快進撃を演出できたと考えられる。規定投球回に到達しなかった投手が3名も2桁勝利を挙げたことと、該当シーズンのチームの好成績は、決して無関係ではなかったと言えるだろう。
今後のプロ野球界において、現在の傾向がこのまま続いていくのか否か
先述した通り、近年は規定投球回到達者自体が年々減少している傾向にある。しかしながら、2018年と2019年の傾向を鑑みるに、規定投球回未到達で2桁勝利を挙げた投手が増えているか減っているかを断ずることはまだできないだろう。即ち、2020年以降にその数がどう増減するかが、投手分業の進行がこの分野にどのような影響を及ぼしているかを推し量るための材料となってくる。
規定投球回到達と2桁勝利は、どちらも先発投手にとっては重要な目標の一つとなる。ただ、投手全体の投球イニングが減少していることもあり、近年はそのハードルが以前に比べて高まりつつあるのも事実。白星と投球回の関係は、今後も注意深く見守っていく価値のある題材と言えるのではないだろうか。
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