盗塁阻止率より重要? 盗塁抑止力に優れる甲斐拓也と小林誠司の貢献

Full-Count

2020.5.21(木) 08:10

巨人・小林誠司(左)と福岡ソフトバンク・甲斐拓也※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)
巨人・小林誠司(左)と福岡ソフトバンク・甲斐拓也※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

1球単位で分析、走者の能力も考慮に入れて弾き出した盗塁抑止力

 捕手にとって走者の盗塁を防ぐことは大きな仕事の一つだ。この能力について考える場合、一般的にはスローイングで走者を刺す盗塁阻止に焦点が当たることが多い。だが、優れた捕手は成功・失敗以前にそもそも盗塁を企図させないはずだ。「盗塁阻止」ではなく「盗塁抑止」とでもいうべきだろうか。

 だが、盗塁阻止率などで評価される盗塁阻止と違い、日本では抑止に対する評価法や指標が確立されていない。先日、日刊スポーツにおいても里崎智也氏が1盗塁企図あたりに要したイニングという観点で、抑止力の評価を試みていた。ここでは1球単位のデータを使い、12球団の各捕手、そしてバッテリーがどれだけ盗塁を抑止していたかについてより具体的に迫りたい。

 まずシンプルに捕手の抑止力を測る方法として考えられるのは、盗塁企図の可能性がある状況に対し、実際に盗塁が企図された割合を見るというものだ。例えば、2019年のNPBでは走者一塁時における二塁への盗塁可能機会(注1)が2万7959球あり、そのうち1055球で二塁盗塁企図が行われた。割合は3.8%である。

 この平均的な企図率と各捕手の数字を比較すれば、どれだけ盗塁企図を抑止できていたかの目安になるだろう。例えば、2019年の甲斐拓也(福岡ソフトバンク)は走者一塁時の盗塁可能機会2258球のうち、盗塁企図は65球。平均よりおよそ1%低い2.9%しか盗塁を企図されていなかった。

 ただ、この手法が盗塁抑止の実態に直接迫ることができているかというと微妙なところだ。大きな問題として考えられるのが、走者の走力を考慮できていないことだ。例えば、金子侑司(埼玉西武)と山川穂高(埼玉西武)の盗塁企図をそれぞれ抑止した場合、その価値は同じといえるだろうか。金子は昨季のパ・リーグ盗塁王、山川は昨季盗塁がわずか1つの走者である。実際には金子の盗塁を抑止することにより価値があるはずで、これらを加味した抑止力を求められるとより実態に迫ることができそうだ。

(注1)今回の分析で抽出した盗塁可能機会は以下の条件のいずれかにあてはまった場合をカウントしている

(1)一塁走者がいて、打球が発生しなかった投球。ただし2アウトで3ボール2ストライクからの投球は、打球が発生しなかった場合に四死球であれば自動進塁、三振であればチェンジとなり盗塁が記録されないため除いている。
(2)投球前に走者が飛び出し、盗塁・盗塁死が記録されたもの。
(3)投手けん制時に、走者が飛び出し盗塁・盗塁死が記録されたもの。

埼玉西武の金子は1球につき13.1%の割合で盗塁を試みる

 走者の能力を加味するにはどうすればいいだろうか。さきほど、盗塁可能機会のうち捕手がどれだけ盗塁企図を許したかという例を紹介した。これを裏返し、走者の視点から見ると、どれだけ盗塁を試みたかの割合を走者ごとに知ることができる。例えば金子は昨季、走者一塁時における盗塁可能機会312回のうち41回盗塁を試みた。金子は走者一塁時に盗塁可能機会1球あたり13.1%の割合で盗塁を試みるということになる。

 再び捕手視点に戻ろう。捕手から見ると13.1%の割合で盗塁を試みる金子を企図させなかった場合、13.1%の可能性を0%にしたと考えることができる。逆に企図されれば13.1%を100%にしてしまったということだ。これをそれぞれ0.131、-0.869というふうに集計していくと、さきほどのシンプルな手法で問題になっていた走者の力量を含めた上での捕手の盗塁抑止評価が可能になる。

・金子に盗塁企図させなかった場合……13.1%の盗塁企図割合(期待値)を0%にした=+0.131

・金子に盗塁企図させた場合……13.1%の盗塁企図割合(期待値)を100%にした=-0.869

 この値を積み重ねることで、平均的な捕手が出場する場合に比べて二塁盗塁をどれだけ抑止したかを測ることができる。最終的な抑止数は走者一塁時だけでなく、すべての走者状況について個別に算出した抑止数を合計している。走者一三塁でも二塁盗塁は発生しうるためだ。

2019年シーズン盗塁を抑止した捕手ベスト10※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
2019年シーズン盗塁を抑止した捕手ベスト10※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

12球団で抑止力に最も優れていたのは福岡ソフトバンクの甲斐だった

 イラストが2019年シーズンで多く盗塁を抑止した捕手ベスト10だ。12球団でトップとなったのは甲斐。走者の能力を加味した場合、平均的な捕手であれば113.7回の盗塁企図が予想されるところを、甲斐は81回に抑えている。平均的な捕手と比較し盗塁企図を32.7回減らしており、各球団の走者が盗塁企図をかなりためらっている様子が分かる。

 盗塁阻止率が12球団でトップだった小林誠司(巨人)は2位に。平均的な捕手に比べると、19.2回走者の盗塁企図を封じていたようだ。昨季は出場機会が減少し、抑止する機会も多くなかったはずだが、その中で非常に多くの盗塁企図を防いでいる。

 會澤翼(広島)や森友哉(埼玉西武)はそれぞれ昨季の二塁盗塁阻止率が.314、.276と決して高いわけではない。にもかかわらず、それぞれ10.2、6.3と平均的な捕手に比べ盗塁企図を抑止することに成功している。基本的には二塁盗塁阻止率が高い捕手が抑止力も高いようだが、それがすべてではないようだ。

 また、上位には主力級の捕手が多い。出場機会が多いほどプラスマイナスの数字は大きくなりやすい点に注意が必要だが、抑止力が捕手として出場機会をどれだけ得られるかの目安になっている可能性も考えられる。

2019年シーズンで抑止力が低かった捕手※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
2019年シーズンで抑止力が低かった捕手※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

抑止力の下位に主力クラスは少なく、抑止力が低い捕手は出場機会を得にくいか

 次は平均的な捕手に比べ多く二塁盗塁を企図されていた、つまり抑止力が低かった捕手を見ていきたい。イラストが下位の10人だ。

名前を見ると、さきほどに比べてレギュラークラスの捕手が非常に少なくなっている。この中でチームの確固たるレギュラー捕手だったといえるのは、中村悠平(東京ヤクルト)くらいか。各捕手の二塁盗塁企図期待値自体がさきほどに比べて低いことからも、出場機会の少なさがわかる。

 そして実際の二塁盗塁企図数と比較すると、その多くない出場機会の中でかなりの頻度で走られていたようだ。併用や投手の専属捕手など、捕手の起用にはさまざまな背景が存在するが、抑止力が低い捕手は概して出場機会を得にくいようだ。

 この中で興味深い傾向を持っているのが太田光(楽天)である。-11.1と抑止面でワースト2位となったが、二塁盗塁阻止率は.405を記録。これは企図30回以上の捕手では、甲斐や小林をも上回るトップの成績である。基本的には阻止率が高い捕手ほど企図が減りやすい傾向があるため、今季以降は太田を相手にしての企図が減少する可能性が高い。

最も盗塁を抑止したバッテリーは広島の床田と會澤の組み合わせ

 ここまで捕手ごとに盗塁抑止力を見てきた。ただ、走者が盗塁を企図する際に注意を払うのは捕手だけではない。投手のクイックやけん制の技術も走者の判断に大きな影響を与えており、盗塁阻止は投手と捕手の共同作業と言われる。投手も含めた盗塁抑止評価を行いたいところだ。しかし、盗塁抑止における投手と捕手の責任を明確に分割するのは難しい。そこで、今回はあえて責任を切り分けずに、バッテリー単位でさきほどと同じように抑止力を評価してみよう。

2019年バッテリー単位の二塁盗塁抑止数※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
2019年バッテリー単位の二塁盗塁抑止数※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 イラストは昨季のバッテリー単位の二塁盗塁企図抑止数上位5組と下位5組だ。まず上位から見ていこう。上位5組すべてが広島と埼玉西武のバッテリーとなった。1位の床田寛樹-會澤のバッテリーは、通常のバッテリーなら8.1回盗塁企図される状況でわずか2回しか走られることがなかった。6回分抑止に成功したと推定できる。2位の増田達至-森のバッテリーは1度も二塁盗塁を企図させず、一塁走者を釘付けにしていたようだ。

 さきほど抑止力でトップだった甲斐は、バッテリー単位になると5位以内にはおらず、8位になってようやく登場する。千賀滉大とのバッテリーで4.2回分企図を抑止。上位20組で見ると6組は甲斐が捕手を務めていたバッテリーだった。甲斐は組む投手に限らず安定して盗塁を抑止し、チーム全体の抑止力を底上げしていたようだ。

 ベスト10以内には、さきほど捕手個人の抑止数では下位にランクインされた清水優心(北海道日本ハム)、中村がそれぞれランクインしている。それぞれ玉井大翔、梅野雄吾とのバッテリーで抑止力を発揮していた。盗塁抑止が捕手単体では決まらないことがわかる。

 下位に目を移そう。最も二塁企図を抑止できなかったのはテイラー・ヤングマン-炭谷銀仁朗のバッテリーとなった。平均的な捕手であれば4.3回しか走られないところで、12回も企図を許している。

 ほかにもクリス・ジョンソン-石原慶幸、ジョニー・バーベイト-清水など、下位には外国人投手とのバッテリーが目立つ。もちろんデービッド・ブキャナン-中村など、抑止数がプラスのバッテリーも存在したが、全体的に外国人投手を含むバッテリーは抑止力が低かった。走者を気にしすぎず、打者との勝負に集中する傾向があるのかもしれない。

(DELTA・八代久通)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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