シーズン記録の3分の2がパの選手。「三塁打」をパ・リーグ的視点から読み解く

パ・リーグ インサイト

2020.4.13(月) 18:00

福岡ソフトバンクホークス 松田宣浩選手【撮影:丹羽海凪】
福岡ソフトバンクホークス 松田宣浩選手【撮影:丹羽海凪】

他の長打に比べて、三塁打が生まれる回数はかなり少ない

 2019年シーズン、パ・リーグ最多の三塁打を記録した荻野貴司選手。その数は7本。この数字を見てもわかる通り、プロ野球の世界において三塁打は決して多く生まれるものではない。実際、長いプロ野球の歴史においても、通算100本以上の三塁打を記録した選手はわずか3名と、二塁打や本塁打に比べて数字自体がかなり小さなものとなっている。

 しかし、現役選手内での通算記録や、1シーズンにおける三塁打の記録といった数字に目を向けてみると、興味深い傾向が示されていることがわかってきた。今回は、その2つのランキングをそれぞれ紹介し、どのような選手が上位に入っているのかを確認するとともに、三塁打にまつわるリーグごとの違いについても考えていきたい。

上位10名中6名がパ・リーグ所属の選手となったが……

 まず、2020年にNPBで現役としてプレーする選手内における、通算三塁打数のトップ10を紹介していきたい。その結果は以下の通りだ。

1位:松田宣浩選手(福岡ソフトバンク)
60三塁打 1636試合 6056打数
2位:坂口智隆選手(東京ヤクルト)
53三塁打 1382試合 4992打数
3位:福留孝介選手(阪神)
50三塁打 1866試合 6527打数
4位:鳥谷敬選手(千葉ロッテ)
49三塁打 2169試合 7448打数
5位:西川遥輝選手(北海道日本ハム)
46三塁打 982試合 3522打数
6位:大島洋平選手(中日)
43三塁打 1313試合 5039打数
7位:鈴木大地選手(楽天)
40三塁打 1061試合 3649打数
8位:角中勝也選手(千葉ロッテ)
35三塁打 1063試合 3729打数
9位:明石健志選手(福岡ソフトバンク)
34三塁打 866試合 2299打数
10位:丸佳浩選手(巨人)
31三塁打 1232試合 4389打数

 松田選手が2位の坂口選手に7本の差をつけ、現役選手の中でトップの数字を記録した。松田選手といえば、現役4位の274本塁打を記録している和製大砲でもあるが、通算128盗塁を記録した足の速さも持ち合わせている。2008年にはシーズン10本の三塁打を記録しており、長打力のみならず、高い走塁技術を兼ね備えていることがうかがえる。

 2位以降にも、長年にわたってプロ野球の世界で活躍してきたベテランの好打者たちが名を連ねているが、5位の西川選手が3ケタの試合数でこの位置につけている点は特筆ものだ。盗塁王に3度輝いた西川選手の脚力の優秀さは言うに及ばないが、それが存分に活きる広い札幌ドームを本拠地としていることも、ハイペースで三塁打を記録できている理由だろうか。

 また、他の選手たちに比べて、試合数と打数がかなり少ない明石選手がトップ10に入っている。明石選手は866試合で通算88盗塁と、盗塁の数だけ見ると他の選手に比べて抜群に多いというわけではない。ただ、限られた出場機会において着実に三塁打を積み重ねており、盗塁数だけでは推し量れない明石選手の俊足ぶりがこの数字に示されていると言えそうだ。

 各選手の所属チームを見ていくと、10名中6名がパ・リーグに所属する選手となった。もっとも、今季から千葉ロッテに加入した鳥谷選手に関しては、通算49本の三塁打は全て前所属の阪神時代に記録したものだ。しかし、2位の坂口選手も通算53本中42本はオリックス在籍時に記録したものであり、パ・リーグゆかりの選手が過半数を占めているのは間違いないといえる。

 また、先述のトップ10には入っていないが、埼玉西武の源田壮亮選手はわずか421試合、1709打数で現役16位タイとなる25本の三塁打を放っている。試合数、打数の双方でかなりのハイペースといえる数字であり、今後のさらなる躍進にも期待がかかるところだ。

パ・リーグに所属した選手が多くの三塁打を記録していた理由は?

 パ・リーグゆかりの選手が多いという点は、1シーズンにおける三塁打数のランキングにおいても表れている。それぞれの数字と、各選手が当時所属していたチーム、およびリーグは以下の通りだ。

1位:18本
金田正泰氏(阪神・1951年・セ)
2位:16本
レインズ氏(阪急・1953年・パ)
3位:15本
蔭山和夫氏(南海・1950年・パ)
4位:14本
鈴木清一氏(セネタース・1946年・1リーグ時代)
上林誠知選手(福岡ソフトバンク・2018年・パ)
6位:13本
鬼頭数雄氏(ライオン・1940年・1リーグ時代)
金田正泰氏(阪神・1946年・1リーグ時代)
藤村富美男氏(阪神・1948年・1リーグ時代)
蔭山和夫氏(南海・1951年・パ)
バルボン氏(阪急・1955年・パ)
関口清治氏(西鉄・1956年・パ)
箱田淳氏(国鉄・1956年・セ)
毒島章一氏(東映・1957年・パ)
吉岡悟氏(太平洋・1976年・パ)
松井稼頭央氏(西武・1997年・パ)
村松有人氏(ダイエー・2003年・パ)
鉄平氏(楽天・2009年・パ)
西川遥輝選手(北海道日本ハム・2014年・パ)

 歴代最多のシーズン18三塁打を記録したのは、阪神で主力として長年活躍した金田正泰氏だった。しかし、全体の割合としては、18名中、パの選手が12名、セの選手が2名、1リーグ制時代の選手が4名と、パ・リーグの選手が実に3分の2を占める結果となった。

 1リーグ制の選手や1950年代の選手が多いことからもわかるとおり、三塁打にまつわる記録はかなり古い時代に記録されたものが多くなっている。しかし、パ・リーグにおいては1990年代以降に記録された数字も5つあるのに対し、セ・リーグ所属の選手が記録したのはともに1950年代の金田氏と箱田氏が記録した2例のみとなっている。

 このように対照的な結果となった理由の一つとして、リーグごとの球場の違いが挙げられるだろう。とりわけ、ZOZOマリンスタジアム、京セラドーム大阪、福岡PayPayドームの使用が開始された1990年代以降により顕著となった傾向として、広島市民球場や改修前の神宮球場のように本塁打が出やすいとされる球場が少なくなかったセ・リーグに対し、パ・リーグの球場はグラウンドの面積やフェンスの高さの影響で、本塁打のハードルがやや高かった。
 
 大きな当たりが本塁打にならずにグラウンド内にとどまれば、そのぶん二塁打や三塁打の数が増えることにもつながる。すなわち、俊足や好打を武器とする選手たちにとっては、より三塁打を生み出しやすい環境であると言えるだろう。セ・リーグの中でも本塁打が出にくい甲子園を本拠地とする阪神で活躍した鳥谷選手、ならびにナゴヤドーム(中日)と甲子園(阪神)で活躍した福留選手が、それぞれ多くの三塁打を記録しているのも示唆的だ。

 マツダスタジアムの完成や、2008年に両翼を91mから97.5mに広げた神宮球場のリニューアル工事に加え、本塁打が出にくい球場として知られた福岡PayPayドームとZOZOマリンスタジアムにテラスが設置されたことも重なり、近年は徐々にその差は埋まりつつある。だが、同じく本塁打が出やすいとされる東京ドームの存在もあり、まだ両リーグ間の差が完全に埋まったとは言い切れないところだ。

 また、通算30盗塁の鈴木大地選手や通算61盗塁の角中勝也選手のように、抜群の俊足は持ち合わせていなくとも、外野の間を抜く打球の多さによって現役の三塁打ランキングのトップ10に入った選手にも、球場の傾向による好影響はあったかもしれない。鈴木選手は2013年に3試合連続三塁打というパ・リーグ最多タイの数字を記録しており、角中選手ともども、その三塁打の多さは高い打撃技術と塁上での判断力の高さの賜物と言えるか。

三塁打の数は、そのリーグの特色を示すものにもなりうる

 以上のように、現役選手の中では、坂口選手を合わせれば上位10選手中6名が、パ・リーグで長く活躍した選手という結果となった。また、1シーズンでの記録では、ランキング上位の大半が当時パ・リーグに在籍した選手に。その一方で、通算の盗塁数に目を向けると、現役、歴代ともに極端にパ・リーグの選手が多いというわけではない。やはり、三塁打を稼ぐことに関しては、パ・リーグが持つ特性が有利に働いていると言えるだろうか。

 球場の大きさの差も含めて、リーグの特色を示している面もある三塁打のランキング。三塁打自体が滅多に生まれるものではないだけに、打者走者が三塁まで到達すると、往々にしてスタジアムも沸き立つものだ。そんな三塁打を2020年に多く記録するのは誰になるのか、そして現役最多の三塁打を記録している松田選手はさらにその数字を伸ばしていくのか。新たなシーズンも、そういった点にぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

三塁打の動画

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