「母ちゃんのために…」ホークス甲斐拓也選手が誓う活躍、ひたむきで実直なワケ

Full-Count 福谷佑介

2018.3.30(金) 17:26

福岡ソフトバンクホークス・甲斐拓也選手(C)Full-Count
福岡ソフトバンクホークス・甲斐拓也選手(C)Full-Count

捕手に故障者が相次ぎ、かかる期待と負担は昨季以上になる

2018年のペナントレースが30日、ついに開幕する。2年連続の日本一を狙うのが、昨季王者・福岡ソフトバンクだ。

他球団を凌駕する充実した選手層を誇り、今季も様々なメディアで目にする評論家、解説者たちの順位予想ではパ・リーグ1位に推す声が圧倒的に多い。

打線には球界を代表する打者たちが並び、守護神・サファテ投手を中心としたリリーフ陣も強力。和田毅投手の復帰が遅れている先発陣も、他球団に比べれば人数は豊富だ。

開幕を翌日に控えた29日、全体練習を終えた工藤公康監督は期待する選手として1人の男の名前を挙げた。昨季、急成長を遂げた甲斐拓也捕手だ。

「甲斐くんにはもう1つ成長して、大きくなってもらいたい。高谷くんが戻ってくるまでは1人で頑張るんだという気持ちで頑張ってほしい」。

キャンプから怪我人が相次いだ捕手陣。高谷裕亮選手、栗原陵矢選手の2人が負傷で離脱し、指揮官は、甲斐選手と育成から支配下に昇格させた堀内汰門選手の捕手2人体制で開幕を迎えることを決断した。

2人体制で開幕することを考えると、高谷選手の復帰までは、ほぼ全試合全イニングで甲斐選手がマスクを被ることになるだろう。昨季、自己最多の103試合に出場した甲斐選手にかかる期待、負担、そして託される役割は昨季の飛にならないほど大きなものになるだろう。

とはいえ、これは大チャンスだ。今季の目標に「真の要になる」と掲げていただけに、ベテラン高谷選手の復帰までに文句のない結果、チームからの信頼を勝ち取れば、その目標に大きく近づくことができる。

ひたむきで、実直な姿がファンの心をつかんできた。去年の成績には一切満足することはなく、さらに成長することを心に誓う。まだ足りない――。その根底には、ある人への“恩返し”の思いがあるのだ。

甲斐選手が2歳のときに両親は離婚、母・小百合さんが女手1つで育ててくれた

小学校1年生の時に野球を始めた甲斐選手。兄・大樹さんに憧れ、白球を追うようになった。中学校では大分リトルシニアに入り、高校は兄がエースとして甲子園に出場した楊志館高校へと入学した。

「僕らは気持ちよく野球をさせてもらっていました」。野球をできる環境を整えてくれていたのが、母・小百合さんだった。

甲斐選手が2歳の時に両親は離婚。そこから小百合さんは女手1つで息子たちを育てた。時間の融通が効くように、そして何かあった時にはすぐに動けるようにとタクシードライバーになった。

運転手だけではなく、夜にはパチンコ屋の清掃なども行なっていたという。「相当、大変だったと思います。1つだけではなく、2つ3つぐらい仕事をしていました。ちゃんと寝ているのかなって心配に思うぐらいだった」。

育成選手で福岡ソフトバンクに入団したものの、当初は苦しい思いしかなかった。ファームのコーチから厳しい言葉をかけられ、ドラフト1位で入団した同期の捕手・山下斐紹選手と常に比較された。何度も折れそうになったが、踏みとどまれたのは母の存在があったからだ。

「母ちゃんのことを思えば、頑張れました。母ちゃんの大変さに比べれば、自分のしんどさなんて小さいものだな、と。母ちゃんのために頑張ろう、というのが1番でした」。

苦しい時を支えたのは、いつも母だった。母が懸命に働いて続けさせてくれた野球だからこそ、どんな些細なことにも手を抜くことを許さない。

昨季大ブレークを果たし、侍ジャパンの一員にもなった。それでも、ひたむきな努力を続けられるのは、もっともっと母へ恩返しがしたい思いがあるからだ。母は長年勤めていたタクシー会社を辞めた。息子が一軍での試合に数多く出場できるようになったことで、より一層の融通が効くようにと、個人タクシーの営業を始めたのだ。

「ゆっくりすればいいのに、と思うんですけどね。母ちゃんは『働かなくなったら、死んでしまうわ』って言ってましたね」。そう言うと、甲斐選手は笑った。

長く、苦しいシーズンがまた始まる。2018年は、2017年以上に厳しい1年となるだろう。でも、甘えていられない、負けられない。甲斐選手は必死に、ひたむきに戦い続ける。チームのため、優勝するため、そして、返しても返しきれない愛情を注いでくれた母のために――。

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Full-Count 福谷佑介

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