美馬の最適球団はどこ? 守備の影響を除いた投球指標“FIP”で見ると素晴らしい安定感
11月2日、今年のFA宣言選手が公示された。FA市場には有力な選手が多いため、彼らがどの球団と契約するかによってリーグの戦力バランスが変化する。しかしFA選手を獲得しても球団の戦力的なニーズに合っていなければ効果的な補強とはなりえない。このシリーズではFA選手がどの球団に移籍すれば最も効果的な補強になるか、最適球団を探る。今回は楽天からFA宣言した美馬学編だ。
適した球団を探る前に、美馬獲得を狙う上で抑えておかなければならないポイントを確認しよう。まず美馬は明らかに平均を上回るレベルの先発である。イラストは2016年以降における美馬の年度別成績を示したものだ。まず投球回に注目しよう。不調に右肘の故障も重なった2018年こそ79イニングに終わっているが、それ以外の3年はすべて規定投球回をクリアしている。ちなみに2016年以降の4シーズンすべてで規定投球回をクリアした投手はいない。美馬と同じ3度はNPBで12人。安定して多くのイニングを投げることができるという意味で、美馬はNPB上位クラスの投手である。
そして2018年を除くと投球内容も安定している。失点率(9イニングあたりの失点)で見ると、キャリアハイとなった2017年の3.47に比べ今季は4.32と劣っているように見える。しかし、守備の関与しない与四死球・奪三振・被本塁打から、守備の影響から独立した失点率を推定・評価するFIP(Fielding Independent Pitching)では、不調だった2018年以外はそこまで変わらない安定した成績を残している。防御率や失点率で見る以上に美馬の投球は安定しているのだ。
獲得の上で懸念すべきは年齢だ。美馬は現在すでに33歳。仮に3年契約を結んだとすると、契約最終年は36歳のシーズンになる。現時点では加齢による投球の質の低下は見られないが、いつ衰えがはじまってもおかしくない年齢ではある。これをどの程度、どのタイミングで起こると見積もるかで美馬に対する評価が変わってきそうだ。
美馬獲得に適した球団は? 所属元の楽天と埼玉西武で検討
ここからは美馬がどの球団に移籍するのが最も効果的になるか、最適球団を探っていく。今回はこれまで所属していた楽天、さらに各球団の補強ポイントと予算を確認した以前のセ編・パ編の記事(セ・リーグ編・パ・リーグ編)で、先発を補強ポイントに挙げた埼玉西武、中日、東京ヤクルト、さらに現在すでに交渉に名乗りを挙げている巨人、千葉ロッテの6球団を候補とし、検討した。
まず所属元の楽天、そして埼玉西武から見ていく。イラストは現時点における楽天、埼玉西武の来季ローテーションを予想したものだ。美馬が加入した場合どの程度の位置づけになるかを示している。投球の質を表すFIPは白を平均とし、優れているほど赤に、劣っているほど青くなる。
楽天は今季、則本昂大、岸孝之の長期離脱があり先発が弱点になったが、彼らが順当に投げることができれば十分なレベルになるだろう。しかし、美馬が退団した場合ローテーションに入ることになる7番手以降の投手はFIPが5点台以上の投手も多い。劣る投手の登板機会を減らすという意味でも、美馬が残留した場合の見返りは大きい。
埼玉西武の候補を見ると、1番手のザック・ニール以外に平均より優れたFIPを記録した先発がいない。ローテーションに入っている先発はほとんどが平均よりやや劣るレベルだ。彼らが来季次々に成長するようなことがあっても、ローテーション6番手まで優れた投手で埋め尽くされる可能性は低い。美馬加入が効果的にはたらく可能性は非常に高そうだ。また埼玉西武は救援にも弱点がある。美馬加入によりローテーションから溢れた投手を救援にまわすこともできるため、効果はさらに大きくなりそうだ。美馬加入の効果は楽天以上に高くなるだろう。
東京ヤクルトよりも中日で美馬加入の効果は大きくなる
次に中日、東京ヤクルトに美馬が加入した場合を想定する。ともに以前の記事で先発を弱点としたチームだが、状況は異なる。中日のローテーションを見ると、FIPが濃い赤になっている投手が複数人見られる。彼らは平均以上の投球の質を見せていたということだ。
しかし投球回を見てみると、大野雄大、柳裕也、エンニー・ロメロ以外で50イニング以上をクリアした投手は65イニングの山井大介のみ。梅津晃大や小笠原慎之介は優れた投球を見せたが、それほど多くのイニングを投げられていない。彼らがこの成績のまま順調にイニングを伸ばせば問題はないが、さすがにそれは楽観的すぎるだろう。さきほどの埼玉西武と比べると、平均よりやや劣るレベルの先発が少なく、表内の8番手以降でガクッとレベルが落ちるのが特徴的だ。これらの投手が美馬に替わることによるレベルアップという意味では最も大きな効果が期待できる。
東京ヤクルトも先発陣が課題であるが、埼玉西武に比べると平均レベルの投手を多く保有できており、中日に比べると8番手以降の投手でも、ローテーション下位と大差ないレベルで投球ができている。埼玉西武や中日に比べると問題は小さいように見える。
獲得交渉を行うことを明言した巨人、千葉ロッテの美馬獲得は効果的か?
交渉に動くとの報道があった巨人、千葉ロッテも見てみよう。巨人の先発は上位に好投手はいるものの、ローテーション外にまで十分なレベルの投手を揃えられているわけではない。当然シーズン中には故障離脱もあるためこれらの投手の登板機会も増える。投手を補強すべきという声が大きいのはこうした部分を見てのことだろう。また救援に弱点も抱えているため、ローテーションから溢れた投手を救援で起用できるメリットもある。ただそれでもこれまで挙げた埼玉西武や中日に比べると、問題は小さい。
千葉ロッテはここまで挙げた中で、今季最も先発の問題が小さかった球団だ。表を見ると、8番手以降にも優れたFIPを記録した先発が複数人いる。美馬が加入したとしても、レベルが劇的に向上することは想像しづらい。益田直也の残留も確定し、救援も危機的状況ではなくなった。ローテーションから溢れた投手が救援にまわることによるメリットもそこまで大きくはなさそうだ。
6球団を検討した結果、埼玉西武、中日が美馬を獲得した場合加入効果が大きくなりそうだ。どちらをベストとするかは難しいが、今回は中日を美馬獲得の最適球団としたい。投手には故障がつきものであるため、シーズンを通して6名でローテーションをまわすのは不可能だ。ローテーション内では充実を見せる中日の先発も、いざシーズンが始まれば、かなりレベルが落ちるローテーション外の投手の先発機会が多くなるだろう。美馬の加入があれば中日のこの大きな問題を小さくすることができそうだ。今回はこの点を重視し、美馬の最適球団を中日とした。
(DELTA)
DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1・2』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。
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