オリックスの田嶋大樹投手が、高校卒業以来、12年ぶりに野球を始めるきっかけを作ってくれた父親に教えを請う「原点回帰」で活路を開いている。
「変わりましたよね。変わってないですか、ここ最近の内容をみて。迷いがなくなってきてますよね」。5月30日、交流戦の中日戦(京セラドーム)で今季2勝目を挙げた田嶋が、自信を深めた表情で言葉を紡いだ。
田嶋は栃木県出身。佐野日大高、JR東日本から2017年ドラフト1位でオリックスに入団した。直球にカットボールやツーシーム、スライダー、フォーク、チェンジアップなど多彩な変化球を織り交ぜる左腕。1年目からローテーション入りし、21年からのリーグ3連覇や22年の日本一に貢献してきた。
研究熱心だ。試合によってセットポジションやワインドアップに投げ分けたり、試合中に走者がいなくてもセットに変えるなど、型にはまらない投げ方をする。「今の自分に合った投げ方がベスト」という自由な発想が根底にあり、試行錯誤を繰り返し最適解を求める道筋を楽しんでいるようにさえ思わせる。
昨年は、プロ野球やソフトボール、プロゴルファーらが師事するアスリートコンサルタント、鴻江寿治さん主宰のキャンプに参加。腕から始動する大胆なフォーム改造にも取り組んだ。今年は、シーズン途中から父の指導を受けるようになった。
「去年までいろんなことをやって、あれもダメ、これもダメとなって。鴻江先生の教えもしっかりと取り入れつつ、父親に投球フォームを見てもらっています」。関東在住の父との練習は、携帯電話を使って映像をみてもらうもので、「オフ前と、オフの日を除いて週5回」だといい、試合後に自宅のリビングで1時間から1時間半、シャドーピッチングを行う。
父との練習は高校以来、12年ぶり。一度は「(指導が)厳しくて、辞めた」そうだが、再開は昨年5月に誕生した長女がきっかけだった。「自分の子どもを毎日みていたら、いろいろ分かってくるんです。この表情をしたら眠いんだなとか、この泣き方をしていたらお腹が空いているんだな、とか。そんなことから、子どものことは親に聞くのが一番いいよなって」と明かす。「今の投げ方を教えてくれたのは、父親なんです。僕をプロ(野球選手)にしてくれたのは父親なんです」という田嶋にとって、“迷路”から抜け出すために一から野球を教えてくれた父にアドバイスを求めるのは自然なことだった。
危機感もあった。「プロですから、オリックス(の勝利)に貢献しないと2軍に落ちるし、戦力外になりますから」。9年目の今季は、開幕3戦目に先発したが、1回で19球、被安打3、自責点2で降板。2軍での調整後、4月21日に昇格したものの、以後の2試合で計7失点と振るわず、再び降格した。父から指導を仰ごうと思った背景には、そうした状況があった。
「気付いてしまったんです。やっぱり父親なんだなって。これを逃したらもう終わりだろうな、プロ野球人生も終わりだろうな、という感覚でいましたので」。それでも父には、改まったお願いはしていない。伝えたのは「また、投球フォームがわからないから、ちょっとみてよ」。甲子園に出場するまで、二人三脚でフォームを固めてきた二人には、それ以上の言葉は不要だった。「父親は高校までしか野球はしていません。野手で、ベンチ入りもしていなかったと思います」。それでも、プロで活躍する田嶋という“作品”を作り上げ、すべてを知っているのは父だという思いは揺るがなかった。
「ずっとシャドーをやっています。今は、下半身の動きだけのシャドーです。何年かけてやるんでしょうね、わかりません。僕のプランじゃないから。父親のプランですから。基礎の基礎をやっています」。昨年オフの契約更改では、球団に将来のメジャー挑戦の気持ちを伝えた。再び始まった親子での練習。田嶋に、無限の可能性を広げてくれることだろう。
取材・文=北野正樹