「3年目は勝負の年。やるべきことをやっていれば、チャンスはくると思っていました。比嘉さん(幹貴・1軍投手コーチ)や宮城さん(大弥投手)と同じ舞台に立つことができるようになって、うれしいです」。支配下登録することが決まった約1時間半後の5月5日午後、本拠地・京セラドーム大阪の地下駐車場で、宮國凌空(りく)投手が静かな口調で喜びを表した。
宮國は沖縄県宜野湾市出身。チームのエース・宮城も汗を流した「宜野湾ポニーズ」で本格的に野球を始め、東邦高(愛知)では3年春の甲子園で2試合に先発し、2023年育成ドラフト3位で入団した。1年目はウエスタン・リーグで6試合に出場、主に中継ぎとして0勝1敗、防御率7.59。2年目は、中継ぎも経験しながら1年間ローテーションを守り、18試合で6勝3敗、防御率.2.33と安定した成績を残した。
育成選手契約が最終年となる今季は、3月14日のソフトバンク戦(杉本商事Bs舞洲)で開幕投手を務め、ここまで7試合に登板し4勝1敗、防御率.2.63で、支配下の最有力候補となっていた。
育成期間、宮國の心の支えになったのは、沖縄出身の2人の偉大な投手の先輩だった。
「全然、上(1軍)で投げる能力はないなって思っていました」と振り返る1年目の秋、目を覚ます言葉を当時現役で、この年限りで引退することになった比嘉コーチから掛けられた。2024年9月24日の本拠地最終戦。T-岡田、安達了一両選手の引退試合を他の若手選手とベンチ横の通路から見ていた宮國に、いつの間にか後ろにいた比嘉コーチが背中に手を置き、耳元でささやいた。「お前もここで投げるんやぞ」。
比嘉コーチは、右サイドから躍動感あふれるフォームで打者に立ち向かい、2014年に中継ぎとして34試合連続無失点記録を作ったレジェンド。「そう言われた時、確かに上(1軍)で投げないといけないんだと思いました」と宮國。漠然と支配下を目指していたつもりはなかったが、同郷の大先輩から期待をしてもらっているといううれしさと同時に、1軍のマウンドで投げるんだという目標が明確に定まった瞬間だった。「何かあれば、いつでも言ってこいよ」と優しく接してくれる大先輩の期待に応える気持ちも沸いた。
宮城はお兄さん的存在で、目指すべき選手。入団前から「宮城さんとローテを組むのが目標」としてきた。同じ少年野球チーム出身ということもあり、今年の成人式のスーツをプレゼントしてもらい、タメ口で話せるほど距離は近い。それでも、野球に関して質問することはほとんどないという。1年目に1軍で初勝利を挙げ、2年目には13勝4敗で新人王に輝き、エースとしてチームを引っ張ってきた宮城との差は歴然としており、1軍レベルの実力に達したと感じるようになってから、技術的な質問をしたいというわけだ。
支配下の可能性は、薄々、感じていたという。同じく沖縄出身の宜保翔選手が、支配下再登録を果たした3日後の試合で、2イニングの予定で先発登板した。練習試合が雨で流れ、登板予定の多くの投手を登板させるというチーム状況もあったが、ここまでローテを守り長いイニングを任されてきただけに「(支配下登録の)チャンスはあるかな」と思ったそうだ。
球団から5月4日に「1軍の練習に合流するように」と連絡を受け、練習終了後に支配下選手としての契約を結んだ。コーチ室に挨拶に行くと、比嘉コーチは右手を突き上げるガッツポーズで「よっしゃー、頑張れや」と喜んでくれた。
宮城には、前日に「1軍練習に合流します」とだけ報告した。かわいい後輩の吉報を待ちきれなかったのだろう。宮城からは練習終わりの時間を見計らって「どうやった。背番号は?」と連絡がきた。「まだ、契約していないです」と返し、契約後に親族などを除いて一番に報告したのは言うまでもない。「うれしいよ。見とくから頑張れよ」。短くシンプルな言葉にたっぷりとつまった先輩の深い愛情を感じた。
20歳とは思えぬ落ち着きもある。先発マウンドを1時間後に控えても、「緊張はしません」といい、記者の声掛けにも普通に対応する。宜保は「24、5歳の落ち着きがありますね」といい、宮城も「ちょっと落ち着きすぎて、少し大人過ぎるな、という感じもします。キャピキャピしろとは言いませんが、もうちょっと若くてもいいかなと(笑)」というほどだ。
投球も自然体。「宮城さんの投球を参考にさせてもらいますが、(宮城さんのように)投げれる、投げれないは自分の問題なんで。試合でも、いつも通りにやろうと思って入っているんで、今日は調子が悪いからとかではなくできることをやろうと思って投げています」と話す。
「比嘉さんは、今は投手コーチとしてお世話になっています。(ある程度結果を残して)2年後、3年後には初戦が宮城さん、2戦目は僕というようになりたいですね。(沖縄出身の)大城さん(滉二選手)と宜保さんに守ってもらって。試合を作る先発として、(2軍で)長いイニングを投げてきたその意味を、しっかり発揮できたらいいなと思います」。間もなく訪れる1軍初先発が先輩たちへの恩返しの舞台となる。
取材・文=北野正樹