打撃で大きな変貌を遂げている今シーズン

2019年ドラフト5位で福岡ソフトバンクホークスに入団した柳町達選手。6年目のシーズンとなる今季は開幕こそ二軍スタートだったものの、故障で離脱した近藤健介選手に代わって4月1日に一軍へ昇格。4月後半のスタメン起用に結果で応えてそのままラインアップに定着すると、近藤選手が復帰した現在もその地位を守り続けている。ここまで好調なバットでリーグ屈指の打撃成績を残しており、6月8日の規定打席到達によって打率と出塁率はリーグトップに躍り出た。昨季までの成績からは想像できないような変貌を遂げたその背景には一体何があるのか。今回は柳町選手のヒット量産の秘訣を探っていきたい。
これまで苦手としていた変化球で高打率をマーク

今回注目するのは変化球への対応だ。プロ2年目にあたる21年から昨季まで、柳町選手の変化球打率は最も高い年度で.266止まり。変化球打率がストレート打率を上回ったシーズンは過去1度もなかった。しかし今季はその変化球で.366という高打率をマークしており、規定打席到達者の中で断トツの成績となっている。ストレートでも同5位の.333と好成績を残しているが、これまで振るわなかった変化球打率の上昇が好調の主な要因と考えて良いだろう。
特に低めの変化球への対応力が向上

変化球打率についてもう少し詳しく見ていこう。投球ゾーンを高め、真ん中、低めに3分割してみると、昨季まで2割前後だった低めの打率が4割に迫る数字となっており、低めの変化球に対する対応力が大きく向上していることが分かる。もちろん球種によっても異なるが、一般的に投手は低めを狙って変化球を投じることが多く、リーグ全体でも柳町選手の打席においても今季は変化球の約6割が低めに投じられている。低めの変化球をヒットにすることは打率向上において重要なポイントであると言え、今季の柳町選手はその要点を見事に押さえているということになる。では、彼はこの劇的な改善をどのようにして成し遂げたのだろうか。
空振りを誘う低めのボール球に手を出さない

1つにはボールゾーンスイング率の良化が挙げられる。元々ボール球への手出しが多い選手ではなく、低めの変化球についても昨季を除けば平均と同程度かそれより低いスイング率を記録していたが、今季はここまで24.6%というとりわけ優れた数値を残している。バットで捉えることが難しいボールに手を出すことなく、コンタクトできる投球をしっかり見極めてスイングを仕掛けることができているというわけだ。
変化球を巧みに捉えてライナーやフライで飛ばせるように

もう1つ目に留まるのが、低めの変化球をコンタクトした際の打球の質が変わっている点だ。一般的にライナーやフライの打球はゴロ打球に比べてヒットになりやすいが、かつては低めに沈んでいく変化球に対してボールの上部を捉えることが多く、7割以上がゴロとなっていた。しかし23年から少しずつ打球に角度がつくようになり、24年にはライナーとフライの割合の合計はリーグ平均レベルにまで上昇。そして今季はその割合がさらに増加し、半数以上がライナーまたはフライ性の打球となっている。低めの変化球を巧みにバットに乗せ、ライナーやフライとして飛ばせるようになったことが、打率の劇的な向上につながっていると考えられる。
このように、これまで苦手としていた低めの変化球への対応が改善し、より多くのヒットを生み出せるようになった柳町選手。現在見せている目覚ましい活躍は、打撃技術の向上に裏打ちされた確かなものであると言えそうだ。リーグ連覇と5年ぶりの日本一を目指す今季、福岡ソフトバンクはけが人の多さに苦しんでおり、順調なスタートを切ったとは言い難い。それでもここから巻き返し、ペナントをつかみ取る力をこのチームは持っている。鷹の新たな安打製造機がその道を切り拓いていくだろう。
※文章、表中の数字はすべて2025年6月15日終了時点
文・データスタジアム