「いろんなことがありましたし、いろんなことを経験できた。それを1年目から経験できることではないと思うので、逆に調子が悪いというか、最初はなかなかうまくいかない時期があったんですけど、それが自分自身最初に経験できたのは良かったかなと今は思います」。
新人王に輝いたロッテ・西川史礁は、“激動”の1年だった。
昨年10月に開催されたプロ野球ドラフト会議ではロッテ、オリックスの2球団から指名を受けた逸材。ロッテに入団した西川は、落合博満氏、初芝清氏、井口資仁氏といったマリーンズの右の強打者が背負ってきた“6”を与えられた。大きな期待を背負ってマリーンズのユニホームに袖を通した西川は、2月16日からの対外試合の成績は16試合に出場して、打率.403(62打数25安打)、1本塁打、9打点と結果を残し、開幕一軍の切符を掴み取った。
3月28日のソフトバンクとの開幕戦に『1番・レフト』でスタメン出場すると、1-1の6回無死一、三塁の第3打席、「内側にきたらもう回転で行こうと思っていたのでイメージしていた感じに打てました。初安打が良い場面で打てて良かったです。ボールは両親に渡したいですね」と、有原航平が1ボール1ストライクから投じた3球目のシュートをレフト前に勝ち越しの適時打。これがプロ初安打、プロ初打点、チームを勝利に導く一打となった。
西川は4月2日のオリックス戦の第3打席にセンター前に弾き返し、ZOZOマリンスタジアムで公式戦初安打を記録すると、翌3日のオリックス戦では、0-2の6回一死一塁の第3打席、エスピノーザが1ボール2ストライクから投じた4球目のカーブを遊安打で、球団新人の最多タイ記録となる開幕からの連続試合安打を5に伸ばした。しかし、この安打を最後に、5試合・19打席安打がなく、「一軍で自分の弱いところがはっきり見えましたし、ダメだったところはここでしっかり修正してまた戻った時にすぐに活躍できるように、そう言う準備を必死にやっています」と、4月12日に一軍登録抹消となった。
2月の練習試合、オープン戦と結果を残して、シーズン開幕を迎えたが、相手投手の攻め方が変わったというのがあったのだろうかーー。
「インサイドがすごく多いと思って、そこに自分がまず、ハマってしまってダメだった。自分のスイングを、試合を積み重ねていく中で崩されてしまった。そこはしっかりといつきても打てる準備を今はしています」。
ただ、練習試合、オープン戦を見ていると、開幕直前の3月22日の巨人とのオープン戦では、0-3の5回二死一、三塁の第3打席、船迫大雅が2ボール2ストライクから投じた5球目のインコース143キロシュートをセンターオーバーの2点適時二塁打を放つなど、インコースに対応していた。開幕してからのインサイド攻めというのは、オープン戦の時と違ったり感じたのだろうかーー
「真っ直ぐの質の高さは違いますし、それでもインコース捌けていたものがシーズン入って捌けなかったので、今はそこと向き合ってやっています」。
4月18日のヤクルト二軍戦で1試合5安打をマークすると、4月20日のヤクルト二軍戦から4月25日のDeNA二軍戦にかけて4試合連続マルチ安打。4月24日のオイシックス戦では「クイックもあるというのは聞いていたので、頭にいれながら自分のタイミングでしっかり打つことだけを意識して打席に入りました」とファームではあるが公式戦初本塁打を放った。
ファームで打率.423(52-22)と打ちまくり、4月29日に再昇格。同日のオリックス戦で、球界を代表する宮城大弥から0-0の2回無死一塁の第1打席、2ストライクからの3球目のフォークをセンター前に運ぶと、0-1の7回一死走者なしの第3打席、1ストライクからの2球目のチェンジアップをレフト前に安打と2安打。
5月3日のソフトバンク戦の第4打席に安打を放ってから17打席連続で安打が出なかったが、5月18日の日本ハム戦、1-1の12回一死一、二塁の場面に友杉篤輝の代打で登場すると、「正直、打席入る前に変なボールに手を出してアウトになるのを嫌がっていたんですけど、冷静になった時に自分のバッティングを思い出して、初球から振るスタイルがいつもやってきたことなので、貫こうと思って初球から行きました」と山本拓実が投じた初球のカットボールを振り抜き、打球は右中間を破る適時二塁打。久しぶりの安打はチームを勝利に導くサヨナラ打となった。
体調不良で5月27日に再び一軍登録抹消となったが、打率.419(31-13)とバットで結果を残し、6月13日再昇格を果たした。6月20日からのDeNAとの3連戦では3試合連続複数安打、22日の試合ではプロ初の猛打賞を含む4安打の大暴れ。6月は月間打率.441(34-15)と打ちまくり、チャンスにも勝負強く、得点圏打率は驚異の.571だった。
光ったのは打撃だけではない。守備でも、6月22日のDeNA戦、5-0の初回無死一、二塁で佐野恵太の左中間のあたり、センター・藤原がファンブルしたところすぐにカバーし一塁走者・松尾の生還を許さないナイスカバー。
7月に入ってからも2日の楽天戦から6日のオリックス戦にかけて4試合連続安打、13日の西武戦では「自分自身の状態がバッティング練習していても上がってきているなというのは思うので、もっともっと打てるように、状態を上げられるように1日1日やっていきたいと思います」とプロ入り2度目の猛打賞を達成。
「最初は苦しんだ部分があったんですけど、今は上がってきて良いことも悪いことも経験ができた前半戦だったので、後半戦はしっかりと上げていけるようにやっていきたいと思います」。
◆ レギュラーに定着した後半戦
後半戦に入ってからは、プロ入り後初めて4番の打順で出場した7月30日の楽天戦、0-3の4回一死走者なしの第2打席、岸孝之が3ボール2ストライクから投じた12球目の131キロをレフトラグーン席に飛び込むプロ初本塁打を放った。
「1本出たのでホッとしたところはあるんですけど、ヒットの延長線がホームランになってくれればいいので、そこは大きくなりすぎず、どんどんやっています」。
プロ初本塁打を放ち、一時1割台に沈んだ打率も8月10日のオリックス戦後には.289(232打数67安打)まで上げてきた。インサイドの対応を含めて、ひとつ“プロの壁”を越えたようにも見えた。
西川本人は「う〜ん」と少し考えた後、「打つべきボールを今打つことができていると思うので、多少は失敗する時もありますけど、失敗した時に次の打席にどう振り返るかというのが、一番大切だと思います。そこは試合中もしっかり考えるようにしています」と自己分析した。
試合に臨むにあたって、「ヒットを毎試合打ちたいものですし、その日のテーマを毎日ノートに書いて、その日に達成できたか、なぜできなかったのかを、常に毎日振り返りながら、修正しているのでそこはすごく結果につながってきているのかなと思います」と準備、反省を欠かさない。
栗原健太打撃コーチは「開幕してからちょっと少しボール球を振って自分の形で振れなかったですけど、1回二軍におちて、ファームでやってきたことをしっかりやってきた。詰まってもライトに打てるようになって、ヒットゾーンが広がった。元々変化球を拾って打つことはできた。一番は詰まってライトに打てるようになったのが大きいんじゃないですかね」と評価した。
西川の勢いはさらに加速する。8月16日のソフトバンク戦から21日の楽天戦にかけて5試合連続安打。20日の楽天戦後には打率を.297まで上げた。
8月20日の楽天戦は2安打したが、足でも見せた。0-2の5回二死三塁の第2打席、古謝樹が投じた初球の136キロツーシームをセンター右に安打を放つと、スピードを緩めることなく二塁を陥れる適時二塁打。8月31日のソフトバンク戦、1-1の3回無死一塁で上田希由翔の左中間の安打で一塁走者・西川が三塁に進む好走塁を見せ、寺地隆成の打席中に暴投で生還した。8月は月間MVPとはならなかったが、月間打率.344、5打点の大暴れだった。
9月に入ってからも9日のオリックス戦で第2号ソロを含む今季31度目のマルチ安打、11日のソフトバンク戦で2試合連続本塁打となる第3号ソロ。
素晴らしかったのが、9月13日の楽天戦の走塁。6-2の4回二死一塁で岡大海の三塁ボテボテのあたりで、3ボール2ストライクでスタートを切っていた一塁走者・西川は、楽天のサード・フランコが一塁へ送球するのを見て、スピードを緩めることなく三塁を陥れる好走塁。
「そこもやっぱりチームの勝敗を左右するひとつだと思っていますし、走塁一つで勝ち負けが分かれる時もあります。先に先にずっと狙っているので、あの走塁(9月13日の楽天戦)は自分の中でも良かったかなと思います」。
9月14日の楽天戦では積極的な打撃が持ち味ではあるが、楽天投手陣に5打席で31球を投げさせた。9月16日のオリックス戦でプロ初盗塁、9月20日の日本ハム戦では、新人王を争った達孝太から右中間を破る適時二塁打。9月28日の日本ハム戦は、最初の2打席は無安打だったが、3打席目と4打席目に安打を放ちマルチ安打を達成した。
「状態が良い日は続いていますし、そこは自分自身もメンタル的にもいい日が続くと楽なところがあるので、引き続きやっていきたいと思います」。
レギュラーシーズン最終戦となった10月5日のソフトバンク戦の第2打席、シーズンの規定打席に到達した。プロ1年目は108試合に出場して、打率.281、3本塁打、37打点、リーグトップの27二塁打。
「最初はなかなか結果が出せずすごく苦しかったんですけど、それもいろんな人の教えてもらったことや自分で色々考えて試行錯誤した結果、なんとか自分なりには結果を出せたかなと思うので、来年以降、さらに成績を伸ばせるようにやっていきたいと思います」。
1つずつ課題を克服して、シーズン終盤には粘りながら四球を選ぶ打席も増えた。「出塁率もこだわっている一つなので、調子が悪いときに1個四球が取れる大きさを試合を重ねていくたびに感じていたので、2年目以降は経験を踏まえて、もっともっと成長した姿で戻れるようにこの冬、シーズンオフやっていきたいです」。
外野の守備でもゴールデン・グラブ賞受賞とはならなかったが、補殺は外野手部門でリーグトップ。「守備も自分の中でこだわりを持っているひとつ。補殺1位取れましたけど、それがあるとないとでは、ピッチャーの気持ちの面でもチームを助ける意味でも、すごく大きと思うので、そういう役割を担っていると毎試合思って、全イニング守っていますね」。
プロ2年目の来季が非常に重要になってくる。「成長した姿で毎年、その前の年よりもキャリアハイしていくというのは成績的にもすごく大事になってくると思いますし、自分自身まだまだ満足していないので、上には上がいますし、そういう意味でももっともっとレベルアップして、次は3割、二桁本塁打を狙えるようなバッターになりたいと思っています」。来季はさらに成長した姿でマリンに帰ってくる。
取材・文=岩下雄太