「トリプルスリー」を達成し、メディアから引っ張りだこのシーズンオフを終え、グアムでの自主トレを経てキャンプイン。右肘手術明けのためB組でのスタートとなったが、相変わらず柳田選手のフルスイングはキャンプ地を訪れたファンを魅了していた。
トリプルスリーという目標は、2014年オフに球団が企画した「公約Tシャツ」で掲げた。「ずっと目指していたんで、公約何にする?って聞かれたときに、もうそれしかないと思って」
しかし、打率.363、本塁打34本、盗塁32で見事トリプルスリーを達成。誰もが「ギータは有言実行の男だ」と思ったはずだ。「いやいや、そんなことないですよ。甲子園出る言うて全然出れんかったし、大学の時も優勝するって言ってたのに無理やった」
そんな背景もあり、壮大すぎる公約をクリアできると思えたことは、一度もなかった。メディアは夏頃から「トリプルスリー射程圏内」と報じていたが、それを見た本人は「そんな甘いもんじゃない」と毎日ため息をついていた。
「9月15日の試合で、30盗塁決めた瞬間ですかね。『あ、できた。』って思いました(笑)。もう打率も下がらんやろと。本当にそれまで、できるなんて思っていなかったんで。それに、昨シーズンは反省点もいっぱいありました。打てると思った球が凡打になったことが何回もあったし」
1月の自主トレ中、「40本塁打、40盗塁」を今シーズンの目標として公言した。「正直、それは無理(笑)。そんな簡単にできたら苦労しないでしょ。でも、誰かに言わされたわけでもないし、適当に言ったわけでもない。トリプルスリーで満足して向上心がなくなったらすぐダメになると思うから、そのくらいの高みを目指してやっていけば成長できるだろうと。俺はさらに上を目指すよってことです」
ハードルの高い目標を堂々と公言することから、メンタルが強いと思われる柳田選手だが、自分では「いや、俺メンタルめちゃ弱いっす」と分析。「でも、反骨心とか負けん気とかそういうのは強いかな」
打てなかった日は、家に帰っても眠りにつくまで試合のことが頭から離れない。大学時代の野球部の仲間に電話して、話を聞いてもらうこともあるという。家族や友達には、「あー全然ダメや。打てん」と、遠慮なく愚痴をこぼす。
「寝るまでは結構引きずるんですよ。でも、話を聞いてもらって発散して、寝て起きたら朝には忘れてます。次の日はピッチャーも違うし、さぁ今日はどうしていこうかなと前向きになれますね。その切り替えは早いです」
今は、とにかく野球が楽しい。特にホームランを打った瞬間には、心からそう思える。「いい球打てたら楽しいし嬉しい。気持ちいい。ファンの人の歓声もすごいし。打球がスタンドに入るまでの、オッシャー!っていうあの瞬間、楽しくてたまらないですね」
トリプルスリーを達成し、首位打者になった今でも、「もっとホームランを打ちたい」「もっと守備がうまくなりたい」と、柳田選手の「向上欲」は止まらない。
「俺まだまだ下手クソですから。相手ピッチャーだけじゃなくて、守備の人にも怖がられるバッターにならないと。あと、チームメイトや見ている人から『あいつに回せばなんとかなる』って思ってもらえるような、そういうバッターに早くなりたいですよね」
文・岡田真理
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