千葉ロッテはその歴史で12球団最多となる12人のリーディングヒッターを輩出し、パ・リーグ最多の通算18度も首位打者のタイトルを獲得している。山内和弘氏、榎本喜八氏、有藤道世氏、レロン・リー氏、落合博満氏…。味わい深い打者の系譜に彩られた球団史にあって、千葉ロッテは現在もその流れを汲む。
「名球会入りを視界に捉えたベテラン」
「バッティングの究極を追い求める職人」
「高校野球界を沸かせたゴールデンルーキー」
三者三様、それぞれ立ち位置もプレースタイルも違うが、昨季は最下位に沈んだチームの行く先を、どのように照らし出すだろうか。今季の千葉ロッテを語る上で、欠かせない重要なトピックだ。
大記録達成へ、否が応にも注目の集まるシーズン
「意識しないと言えば嘘になりますけど。ある程度は意識をしつつ、試合に出て打席に立たなければいけません。いかに試合に出られるように準備をして、結果を残すか。甘い世界ではありませんから」
プロ24年目の言葉に実感がこもる。福浦和也内野手は、今年の始動とバットを振る時期を早めた。通算2000安打到達の瞬間は、千葉ロッテファンのみならず、多くのプロ野球ファンに待ち望まれている。
「ここ数年、マイペースでやらせてもらっていましたけど、今年は春季キャンプ初日からしっかり作ってくるように言われていました。ここ3、4年はなかったことなので、ガラッと変わりましたね」
近年は、勝負所での代打の切り札の役割が定着した。徐々に、だが着実に、球団3人目の大台へと近づいている。思えば、プロ生活のスタートは順風満帆ではなかった。1993年ドラフト7位で指名を受けてから1年を待たず、こだわりのあった投手の道断念を余儀なくされている。打者転向後は、あらゆる好打者のバッティングフォームを真似ることで、実力勝負の世界に活路を見出した。
「イチローさん、稲葉(篤紀)さん、松中(信彦)さん、小笠原(道大)さん。右打者に話を聞くこともあって、いろいろと参考にさせてもらいました。真似してすぐにできるものではないので、そこは自分なりに試行錯誤して、いいと思うものは取り入れるようにしていました」
そうして、スコアボードにHのランプを灯し続けた。実績を重ねれば、対戦相手は打たせまいと研究してくる。ピッチングも、その時代によって流行り廃りがある。だが、念頭に置くボールは、いつでも「真っすぐ」。プロ1本目のヒットを放った時から、今も変わらない。
「年齢を重ねたことで、速い球は打てないと思われています。速球をいかに打てるようにするかというのが課題ですね」
変わったことと、変わらなかったこと。持てる技術を駆使して、数多の安打を刻み込んだ。記念碑は完成を近くに控える。しかしながら、最後の38本も、あくまで目の前の試合に全力を尽くした結果の産物だ。
「与えられたところで結果を残せるように頑張って、勝利に貢献できるヒットが打てたら最高と思います」
異彩を放つ職人が見る頂
「10割、ホームラン」
途轍もないことを口にしたのは、現役選手で唯一、パ・リーグで2度の首位打者に輝いた経験のある角中勝也外野手だ。打撃に終わりはないのかと、打撃論の詰めで格言の確認を求めたところ、「正解はある」と切って返された。
「万が一、辿り着けたらそれが正解だと思っています」
「100%、無理ですけど」と直後に表情を崩しはしたが、その直前までは真顔。頭の片隅に、高き志が常にあることは、石垣島での春季キャンプ練習中の様子からも窺えた。インタビューが行われた2月上旬から、鬼気迫る様子で一心不乱に打ち込む姿は、全打席で正解を得ようとする求道者そのもの。そのバッティングは、福浦選手をして「別格」と言わしめる。
「タイミングがしっかり取れていないと、何を言われてもできないと思います」
角中選手の打撃の根幹にはタイミングの取り方がある。幹を作ることで「新しく教えてもらうことが理解できるようになった」。枝葉を広げるための、試行錯誤は今も続く。打撃フォームは毎日、修正と変更を加えているが、その違いは映像を見ても分からないほど多岐にわたり微細に及ぶ。
基本的には「その日の感覚」に身を委ねる。相手投手をイメージすることもあれば、疲労のたまった身体の状態に因ることもある。昨日は良かったものが、今日になるとしっくりこないこともざらだ。今季からバットを変えるが、その理由も一言「気分」。変えることをいとわない姿勢に、根ざした幹に対する確信が透けて見える。今季は、どのようなバッティングで魅せてくれるだろうか。
「この時期は強く振るのが目的。金森(栄治)さん(一軍打撃コーチ)も『サファテ(福岡ソフトバンク)の高めの球を打てるように』と皆に日々、言っています」
新監督就任とスーパールーキー効果で攻勢へ
今季の千葉ロッテは変わろうとしている。春季キャンプでは、練習メニューの消化が早いという声を何度か聞いた。取り組む選手も変化を感じている。
「コーチ陣が変わって、声を出していこうとなりました。盛り上げながら楽しくもあり、厳しくもあります。日々、成長しようとして皆がやっていると思います」(福浦選手)
「監督はそこまで口には出していないけど、メニューは凄く練っているみたいですね。ここまで濃いキャンプは初めて」(角中選手)
そして、最大の変化は、チームの将来を担う存在になれると目される大物ルーキーの加入だ。春季キャンプでは、安田尚憲内野手が動けばメディアが追い、ファンの視線もそちらへ移る。現在のチームの顔2人も、その存在に刺激を受けているようだ。
「身体が大きいし、凄いスイングをしている。力強さがあるし、柔らかさも兼ね備えていると思います」(福浦選手)
「打球が速いですよね。飛ばす力も、自分が高校を卒業した時と比べて全然違う。できるだけ早くコツをつかんでほしいと思います」 (角中選手)
分類すれば、福浦選手はピュアなヒットメーカーで、角中選手は異色尽くしの打撃職人だ。互いに技術面で共感できるポイントはあるのか問うと、福浦選手には「角は打ち方が凄いですから」と、やんわり否定された。角中選手は「タイミングの話は合う」としながらも「(福浦選手は)左投げなので全然違うし、フォームはそれほど参考にしたことはない」と語る。
絵に描いたようなスラッガータイプの安田選手は、前提として求められるものも異なる。それでも、同じ左打席で構えた時、目に映る景色は同じ。前途有望な道の先で、先輩の辿った足跡が助けになることもあるだろう。チームの伝統に名を連ねる可能性を秘めた若武者の、萌芽を見逃す手はない。
チームが反攻に転じる道すがら、幕張のバットマンたちはどのように共鳴し、打の轍を描いていくだろうか。
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