「代打の神様」。それは1打席という限られたチャンスの中でしっかりと仕事を果たし、スタジアムの雰囲気や試合の流れをガラリと一変させ、勝敗を大きく分ける一打を放つ選手のことを指す。近年では通算代打安打数158の阪神・桧山進次郎氏、古くはプロ野球記録の通算代打安打数187の広島・宮川孝雄氏や、こちらもプロ野球記録の通算代打本塁打数27の阪急・高井保弘氏などが挙げられるだろう。
代打で出番を迎える選手は、スタメンで起用されている選手などとは異なり、たったの1打席で結果を残さなくてはならず、当然結果を出す難易度が上がる。球質や相手投手の調子を見極めるのも、ベンチ内やモニターなど「遠く」から得た情報であり、打席内で自分の目で確認できる時間は限られている。
ここではそんな難しい任務を任されながらも集中力を極限まで高め、今季代打で好成績を残す、「一振りにかける男たち」にスポットを当ててご紹介する。
◆今季の主な代打好成績選手一覧(7月19日終了時点)
楽天・後藤光尊 13打数 6安打 5打点 打率.462
楽天・枡田慎太郎 24打数 11安打 6打点 打率.458
埼玉西武・上本達之 36打数 9安打 6打点 打率.250
千葉ロッテ・井口資仁 18打数 6安打 11打点 打率.333
※敬称略
今季の代打で好成績を残している選手を見ると、リーグ最年長の井口選手など、中堅からベテランの域に達した経験豊富な選手が多い印象だ。やはりいつ出番が来るか分からない状況で常に最善の準備をするということは容易ではなく、場数を踏むという経験や実績がものをいうのだろう。
その中でも16年目のベテラン、千葉ロッテ・井口選手の今季の勝負強さには目を見張るものがある。先制打や同点打、勝ち越し打、逆転打などチームに貢献した一打を示す殊勲安打の数は6。そのうちの3本が本塁打と、未だ衰え知らずのパワーと、日米で培った経験を生かした勝負強さを存分に発揮。上位争いを繰り広げているチームをけん引する。
また、14年目の埼玉西武・上本選手も今季は本来の魅力を取り戻しつつある。ここ3年はいずれも1割台の打率に終わるなど、不本意なシーズンが続いた。しかし今年は代打で勝負強い打撃を見せるなど3割を超える打率を残し、貴重な役割をこなしながら打棒復活の気配を見せている。
いくらレギュラーが固定できているチームでも、代打の力が必要となる場面は試合中に必ず訪れる。そんなときにチームを一振りで救ってくれる貴重な存在がいるかどうかで、勝敗やシーズンの順位も大きく変わってくるだろう。
ほとんどの場合が1打席しかチャンスがないため、試合の中で出番を目にする機会はあまり多くはないが、「1打席で結果を残すことは難しい」ということを再認識し、代打の仕事ぶりに注目することをオススメしたい。
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