2017年の福岡ソフトバンクの優勝の原動力として、モイネロ投手、岩嵜翔投手、サファテ投手からなる「勝利の方程式」がクローズアップされることは多い。ただその中でも、救援、回跨ぎ、ロングリリーフなど、あらゆる役割をこなしてブルペンを支えてきた鉄腕の貢献を見逃すわけにはいかない。今年プロ5年目を迎える25歳、森唯斗投手のことだ。
森投手は、徳島県の海部高校、三菱自動車オーシャンズを経て、2013年にドラフト2位で福岡ソフトバンクから指名を受けると、ルーキーイヤーから活躍。闘志を前面に押し出した投球スタイルで58試合に登板し、20ホールドを挙げた。その年の新人王投票では、石川歩投手(千葉ロッテ)、高橋朋己投手(埼玉西武)に次ぐ31票を獲得している。
2年目は55試合、3年目は56試合と、大きな怪我もなくその鉄腕を振るい、日本一も経験した。しかし、4年目となる2017年シーズンは試合数(64試合)、ホールド数(33ホールド)でキャリアハイを残した一方、防御率3.92とやや安定感を欠いた印象がある。
ただ、クライマックスシリーズファイナルステージでは初戦から3連投をこなし、最終戦にも投げて全て無失点に抑えている。さらに、日本シリーズでも4試合に登板して1失点。「勝利の方程式」の3投手ほど強烈な存在感を示したわけではないとしても、チームの2年ぶりの日本一に間違いなく大きな貢献を果たした。
森投手といえば、パワーピッチャーのイメージが強い。176センチと、プロの投手としては恵まれた身長とは言えないながらも、93キロの体重、打者に向かっていく姿勢がそう思わせるのだろう。事実、昨年の森投手の奪三振率は、チームメイトの岩嵜投手を上回る8.39をマークしている。
さらに森投手は、2015年の阪神戦で7者連続三振を奪った。これは和田毅投手、大場翔太氏、現巨人の杉内俊哉投手に並ぶ球団タイ記録であるが、中継ぎがこの記録を打ち立てたのは球団史上初の快挙。しかも森投手がマウンドに上がったのは、6回1死1,3塁、2点ビハインドの局面からだった。当時まだ2年目の23歳だったことを思えば、その精神的な強さと奪三振能力の高さには、やはり目を見張るものがある。
一方で制球も安定しているのが森投手の強みだ。投手の能力を示す数値のひとつにK/BB というものがあるが、これは奪三振数を与四球数で割り、「三振が多く四球が少ない=安定してアウトを取る」投手を導き出す。森投手の2017年のK/BBは5.00で、チーム内では嘉弥真新也投手、岩嵜投手を凌ぐ優秀な成績だった。
奪三振能力と制球力を兼ね備える森投手は、通算100ホールドまで残り17。さらに今年50試合以上に登板し、5年連続の50試合以上登板を達成すれば、かの杉浦忠氏を抜き球団新記録となる。昨年末、森投手はハワイ優勝旅行に参加せず、ヤフオクドームで練習に励んだ。選手層の厚いチームであるだけに、実績だけでは自身の立場が保証されないということは、5年目にして身に染みて痛感しているようだ。
12月26日の契約更改では、ライバルとして岩嵜投手の名を挙げた。目標は、「信頼されるセットアッパーになること」。昨年はあらゆる起用に応えてきたが、投げる以上はあくまでも守護神につなぐマウンド、「勝利の方程式」入りを目指すという。若き鉄腕は、その若さと輝かしい実績にあぐらをかくことなく、早くも新しいシーズン、ペナントレース、そして中継ぎのポジション争いに向けて闘志を燃やしている。
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